若年性認知症、ヤングケアラー… 貫地谷しほりが表現を通じて気づいた「みんなが知ることの大切さ」

デビューから20年、朝ドラ女優として知られ、数々の名作に出演している貫地谷しほりさん。30代後半を過ごすいま、福祉や家族のあり方といった「ケア」の問題への関心が高まっているといいます。自身の活動を通じて深まる、支援への思いを尋ねました。

若年性認知症、ヤングケアラー… 貫地谷しほりが表現を通じて気づいた「みんなが知ることの大切さ」

目次

プロフィール

©森好弘

貫地谷しほり

1985年生まれ、東京都出身。2002年映画デビュー。映画『スウィング・ガールズ』(2004)で話題となり、2007年のNHK連続テレビ小説『ちりとてちん』で初主演を務める。映画、テレビ、舞台と幅広く活躍している。2023年に若年性認知症当事者の実話に基づいた映画『オレンジ・ランプ』主演。

「子どもとして過ごせなかった」その言葉が忘れられない

──10代から現在まで、俳優として一線を走り続けています。近年では表現活動を通じて、ヤングケアラーや認知症の当事者と言葉を交わされていますね。

貫地谷さん:私が家族のケアや家事を担う子どもたち「ヤングケアラー」の存在を知ったのは、20代なかばにお世話になったマネージャーがきっかけでした。毎日朝から夜遅くまで撮影をして、仕事のあとはお母さまが床ずれしないように姿勢を変えてあげるなど、日常的にお世話をされていて。

思わず「すごいですね」と伝えたら「中学生の頃からなので」と言われて、衝撃的だったことをよく覚えています。

──ヤングケアラーの実態に関する調査研究では、約15人に1人がヤングケアラーであることや、一日7時間以上世話をする小学生の3割が「とくに大変さは感じていない」と認識している実態が明らかになりました。

家族のケアをされている幼い方がこんなにもたくさんいること、そして皆さん「家族の世話をすることは当たり前」と思って取り組んでいることは、やはりショッキングですよね。客観的にみればまさしくヤングケアラーですが、小さい頃から当たり前の境遇になっていると、その事実自体に気づけないこともあると思います。

──昨年、厚生労働省の事業「私たちがヤングケアラーだった頃。」で当事者と対談されています。

忘れられないのが、当事者の方たちにお話を聞いたときの「子ども時代に子どもとして過ごせなかった」という言葉です。周囲の大人たちこそヤングケアラーのことをきちんと知らなければならない、そう痛感した出来事でした。

映画『オレンジ・ランプ』主演の貫地谷しほりさん
映画『オレンジ・ランプ』より

自信はないけど、手を差し伸べられる自分でいたい

──ご自身の世代の話題になりますが、今夏には映画『オレンジ・ランプ』で若年性認知症になった夫の妻役を演じられています。ここでも当事者と周囲の関わり方が物語のカギを握っていますね。

今まで見てきた悲しく切ない認知症の物語とは違って、モデルである丹野智文さんの姿そのままの前向きなお話です。この作品に関われたことで「もしも身近な人が認知症になったらどうすればいいのか」を学ぶことができました。

とは言っても私自身はもし夫が認知症と診断されたら心配過ぎて、この映画で演じた真央さんのように明るく接することができるかと問われたら、自信はないのですが……。

でも、認知症に限らず、困っている人がいたら何か助けになれないか考えられる自分でありたいなと思っています。

映画『オレンジ・ランプ』あらすじ

妻・只野真央(貫地谷しほり)と二人の娘と暮らす、39歳のカーディーラーのトップ営業・只野晃一(和田正人)。充実した生活を送っていたが、顧客のことを忘れるなどの異変にみまわれ、病院を受診。「若年性アルツハイマー型認知症」と告げられ、不安と戸惑いの日々が始まる。妻、娘たちとともに、人生を諦めなくていいと再び前を向くまでの、実話に基づいた物語。

映画『オレンジ・ランプ』で夫婦を演じる貫地谷しほりさん
映画『オレンジ・ランプ』より

一人で抱えるには、重すぎるんじゃないかな

──年代や個々の状況は異なりますが、ヤングケアラーも認知症も、家族のケアに向き合うという課題をはらんでいます。これまでの経験を通じて、感じていることはありますか?

どちらにもいえると思うのは、ケアを一人だけで担うのは難しいということです。周りのサポートが必要不可欠ですし、私自身がそのような立場になったときには、役所に行ったり専門家の意見を聞いたりして、積極的に周囲を頼ろうと考えています。

日本では子が親の介護をすることや、病気などさまざまな困難があっても家族の面倒は家族でみる、という価値観が当たり前になっていますよね。その責任感はとてもすごいと思いますが、同時に一人で抱え込むには大きすぎる重責を周囲が背負わせてしまっていないかな、と心配になるんです。

──とくに幼い頃から当たり前にケアをしていると、その負担が重くのしかかりますね。

一度しかない自分の人生を大切にして生きていくためにも、ヤングケアラーをはじめ、早期にサポートが必要なことを自覚する必要があるのだと思います。

でも自分では気づくのが難しいこともあります。そこでみんなが当たり前のように情報を持っていたり、誰かが困っていたら当たり前のように「大丈夫?」と聞けることが大事になってきますよね。

必要な人に、必要な情報が届く世の中に

──「当たり前のように情報を持っていること」。確かに公的な支援や介護保険、自助会の存在など、必要なサポートとつながれるかどうかは、情報を知っているかどうかにかかっている気がします。

当事者支援に関して、国や地域でおこなっている施策はたくさんあって、それを利用することができればかなり助けになるらしいと聞きました。その情報が、必要なときに必要な方に届いていないということも。

ヤングケアラーの場合、支援があることを知らずに大人になって、気づいたときにはもう支援が受けられなくなっていたこともあるそうです。当事者が声をあげられるとは限りませんし、日々アップデートされる情報を当事者が把握し続けるのも大変ですよね。

こういった支援の手からこぼれ落ちてしまわないように、いろいろな形で情報が皆さんに届くように努力されている方がたくさんいます。私もエンターテイメントを通じて、支援が必要な方に希望となる情報を知ってもらうお手伝いをしていきたいと思っています。

みんなが心身ともに健やかにいられる方法を、諦めずに探していきたいですね。

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参考

子ども家庭庁:私たちがヤングケアラーだった頃

プロフィール

なるほど!ジョブメドレー編集部員。幅広いジャンルの取材・執筆経験を積み、医療・福祉・働くことをテーマに日々勉強中。2023年介護職員初任者研修を修了。

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