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- 人生の先輩!桃井かおり的自己肯定感がイケてる
コラムニストの矢部万紀子さんのカルチャー連載。今回は俳優・桃井かおりさんの著書『かおり的家ご飯』(KADOKAWA刊)をご紹介します。今、矢部さんの中で桃井かおりさんブームが到来中。つい「桃井先輩」と呼びたくなるほど感銘を受けた理由とは?
桃井かおりさんブーム到来
私の中で、桃井かおりブームが起きています。きっかけは、7月3日の朝日新聞に載っていたインタビュー。「年を食うっていうのは確実に、あっという間にやってきて、私もそうだけど、若くて勢いのある“かおりちゃん”みたいな時間から、あっという間におばあさんになるわけじゃない。そのきつさ」。そう桃井さんが話していたのです。
「“かおりちゃん”みたいな時間」という表現が、すごく理解できました。自分にもそういう時間があったとストンと腑に落ち、「そのきつさ」という言葉には感動さえしました。
年を取ることは素晴らしいと語る有名人はたくさんいます。でもそれって、今やステレオタイプだし、本心だろうかと疑ったりしていました。その点、桃井さんは「年を取るってきつい」と認めているのです。自分への肯定感があるからこそ、できることだと思いました。桃井さんは1951年生まれの70歳、私は1961年生まれの60歳。10歳年上の桃井先輩についていきたい。そんな気持ちになったのです。
桃井さんの活動拠点はアメリカだと、そのインタビューにありました。調べてみたら、ハリウッド映画「SAYURI」への出演がきっかけで、54歳からロサンゼルスに住み始めたとわかりました。しかも桃井さん、2015年に結婚していました。なんだか、カッコいいこと、この上なしです。
桃井かおりさんの新刊『かおり的家ご飯』を読んでみた
インスタグラムに料理の写真をたくさんアップしているのも発見し、即フォローしました。さかのぼって見ていたら、2021年7月19日に発売された『かおり的家ご飯』(KADOKAWA刊)が紹介されていました。もちろん、即、購入しました。
楽しい本でした。上手すぎる料理写真が満載ですが、レシピはありません。写真についたコメントが、何となくの作り方を教えてくれたりもします。
他にロサンゼルスの自宅で撮った桃井さんの写真も入っています。エプロンをつけて包丁を持って、などという写真はありません。代わりに、赤と青のおもちゃらしき包丁を持ち、遠くの方を眺めるような桃井さんがいます。演技する桃井さんと、素顔の桃井さん、どちらもいる本です。
普通はプロローグとかエピローグに書いてあるような筆者の思いが、本に巻かれた帯、それも裏表紙に書いてあって、すごく桃井さんらしいと思いました。当たり前を当たり前として受け入れない、そういう意志が感じられるのです。短い文章なので、全文を紹介してしまいます。
<ご飯を毎回作るということは、そこそこの知力と、してあげられるだけの体力と、何よりもそれを支える愛情が必要だぁ〜 あの最終の恐竜と呼ばれた桃井が、コロナ禍で初めて誰かと繋がりたいと本気で願い、コツコツとインスタ送り続けた日々が此処にある。貴方の家に恐竜の思いは届いたでしょうか?>
「恐竜」というのは、桃井さんの照れの表れに違いありません。気取った女優然としたくない人だとわかります。それより一人の生活者として、見知らぬ誰かと繋がりたい。その思いがインスタの原動力だったのですね。確かに、家族がいても孤独感がわいてくるのがコロナ禍の日々です。料理をしているのは私だけではないと思うことが、桃井さんの励みになったはずです。そして桃井さんの料理を見て励まされた人が集まり、集まり、15万を超すフォロワーになったのだと思います。
大事なのは「やる気」を大切にする姿勢
だから、この本、全然気取っていません。桃井さんの家はとても広くて、インテリアもすごくおしゃれで、食器の量と質も若い人流に言うなら「半端ない」です。表表紙には、ONE OK ROCK のTAKAさんの「センスのある人は何をやってもセンスに満ち溢れている」という言葉が載っています。本当にその通りなのですが、全く嫌味に感じません。桃井さんの感性がごく真っ当で、その意味で「普通の人」だからだと思います。
料理ではないのですが、大好きな写真とコメントがありました。すごく大きなソファーの写真です。そこにかかっているステキなカバーは、カーペット6枚で桃井さんが作ったもの。そう説明するコメントに、こんな言葉がありました。
<畳屋さんみたいに本気でやりました。こんなに素敵に。ありがとうやる気>。
桃井さんは、自分のやる気を大切にしてあげている。そう思いました。「やる気は大切」でなく「やる気を大切にする」。この違いに気付き、じんわりうれしくなりました。ありがとう、桃井先輩。私も自分のやる気を大切にしようと思います。素敵なソファーカバーの写真は、ぜひ本で見てみてください。
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
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