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【内部通報特集#1】公益通報者保護法改正1年「企業の内部通報現場」で何が変わったのか

公益通報者保護法改正法施行から1年が経った――。健全なコーポレートガバナンスを実現するうえで、企業各社が内部通報体制を整備することはいまや必須の課題であるばかりか、法的にも義務付けられている。事実、組織内の不正や不祥事を検知するうえで、内部通報を起点とした情報把握が持つインパクトは計り知れない。しかし、「内部通報」の語感が帯びる“密告”といったイメージもあってか、企業が前向きに取り組めているかというと疑問符が付く。果たして、今、内部通報窓口の現場で何が起きているのか――。全5回と有識者インタビュー記事で詳報する。

企業をはじめとする法人の不正やハラスメントなどの内部告発者を守る改正公益通報者保護法の施行から今年2023年6月で丸1年を迎えた。通報対象者の範囲が広がり、保護される内容も強化された改正法では、通報者は企業内通報窓口だけでなく、行政や報道機関など社外への内部告発(外部通報)もしやすくなった。

一方、企業側では通報受付担当者が刑事罰の対象となったほか、告発者の“犯人捜し”などが禁止され、違反した企業に対しては、国が報告徴収や指導・勧告することができるようにも改正された。報告をしなかったり、虚偽報告をしたりすると行政罰が課され、勧告に従わない場合は企業名も公表される。改正法は、行政罰は20万円以下の過料、刑事罰は30万円以下の罰金とそれぞれ定めている。

従業員301人以上の全ての企業(300人以下は努力義務)を対象に、内部告発の通報窓口など、必要な体制整備が義務付けられた。すでに大企業の多くは外形上、内部通報体制を整えてはいるものの、2006年の現行法施行後も企業不祥事が後を絶たず、運用面で半ば形骸化している実態が指摘されていた。改正法施行により、従前のように告発者の“犯人捜し”を行うなど、故意にせよ、過失にせよ、運用を誤れば、行政やマスコミなどの外部へ告発される可能性が高まることから、企業側は一定の緊張を強いられることになった。

改正の主なポイントは2つ。ひとつは、保護される人と保護内容の範囲がともに広がったこと。改正前は労働者だけを保護対象としていたが、役員と退職者(退職後1年以内)が新たに加わった。具体的には「取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人」(第2条)を指す。

また、保護される通報事案には、従来の刑事罰の対象事案に行政罰(過料)も追加。企業からの損害賠償請求を恐れて通報を躊躇しないよう、通報に伴う損害賠償責任の免除も盛り込まれた。

もうひとつは、社外への告発(外部通報)がしやすくなったことだ。改正前は行政通報の要件として、通報事実が信じるに足る理由がある場合に限られたが、改正法では真実相当性を求めず、名前や住所などを書面に書いて提出すれば通報を受け付ける。

また、報道機関などへの外部通報については、生命や身体への危険性だけでなく、通報事実を直接の原因とした個人の財産への損害の危険性までを要件に入れた。さらに、内部通報したものの、企業側が正当な理由なく通報者が特定される情報を漏らす可能性が高い場合も外部通報の要件に新たに加えられた。

罰則規定とともに改正前から多くの関係者が注目していたのは、通報者に対する企業側の不利益な取り扱いの禁止事項だ。通報窓口の体制整備義務の中には通報者に対する不利益な取り扱いの禁止も含まれる。仮に通報者が社内で不利益を受け、企業側がきちんと対応しなかった場合、体制整備義務違反として消費者庁が調査に入る可能性や、勧告に従わない場合、会社名の公表も可能となった。企業側がどう対応するか、改正法が各企業現場でどのように運用されるかが大きな焦点のひとつとされた。

改正法施行から丸1年、果たして通報者は保護されているのか。そして、企業の通報現場は何がどう変ったのか。内部通報をめぐる最新事情をレポートする。

公益通報者保護法改正前の「危険因子」を孕んだ状況

公益通報者保護法が施行されたのは2006年4月。2022年の改正まで16年が経過しているわけだが、この間の公益通報をめぐる環境は、法の趣旨である「通報者保護」とは程遠いものだった。『企業不祥事と公益通報者保護法の研究と分析』の著書がある外井(とい)浩志弁護士(外井・鹿野法律事務所)はこう説明する。

「改正前の公益通報者保護法は、ほとんど有効に利用されていなかったと言わざるを得ない。もともと、公益通報者保護法は通報した人を保護する趣旨の法律ですが、実際のところ、通報したら誰が通報したかすぐわかってしまうのが実情です。確かに、通報者が誰かがわかってもすぐに露骨な処分はされないと思いますが、しかし、事実上はやはり不利益な取り扱いがありました。昇進が止まる、勤務評価が低くなる、配置転換で左遷される、そういった“報復”は少なくなかった。だから、改正前の公益通報者保護法はほとんど機能してこなかったと言えます。開き直って、『こんな会社辞めてやる』と、そのぐらいの覚悟のある人でしたら、多少の効用はあったと思いますが、そうではなく、今の会社にずっと勤めたいという人に、積極的に通報を促す力はないという現実がありました」

通報者を保護する法律ができても、実際の企業の現場では有名無実化しているのが大半であり、通報者はとても保護されていたとは言えない現実が続いていたことは想像に難くない。2006年の公益通報者保護法施行から2022年の改正法施行までは、実に「空白の16年」だったというわけだ。

顧問弁護士が「内部通報窓口」に利益相反リスク …
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