なんとなく不調が続いているという人は、自律神経が乱れている可能性大です。小林弘幸・順天堂大学医学部教授による『はじめる習慣』(日経ビジネス人文庫)刊行を記念して2024年1月17日に行われたオンラインイベント(丸善ジュンク堂書店主催/聞き手:産業カウンセラー・イイダテツヤ氏)をもとに、自律神経を整え心地よく暮らす行動習慣を紹介します。

なぜ、今「はじめる習慣」なのか

対話コンサルタント、産業カウンセラーのイイダテツヤさん(以下、イイダ) 小林さんの新刊『はじめる習慣』は以前に書かれた『 整える習慣 』『 リセットの習慣 』に続く3作目ですが、なぜ今「はじめる」をテーマにしたのでしょうか。

順天堂大学医学部教授の小林弘幸さん(以下、小林) 今、この記事を読んでいる皆さんは明るい気持ちでしょうか。実は僕自身は約3年間の新型コロナウイルス疲れもあり、とても明るい気持ちにはなれず、「これではいけない、自分は何をやってるんだ」と悩む日々が続いていました。なぜ、こんなに心身が不調なのかと考えると、やはり自律神経が乱れているんですよね。特にコロナに罹患(りかん)した人は、末梢(まっしょう)神経に影響が出ることも分かっています。

 ただ、そんな毎日の中でも今日が一番若い。今日が新しい人生のはじまりです。そう思うとワクワクする気持ちが出てきて「何でもいいから、とにかく動きだすことが大事ですよ」と伝えたくて、この本を書きました。

イイダ 「今日が一番若い」「今日が新しい人生のはじまり」とは、すごく心に刺さるメッセージですね。何かをはじめるというと「ハードルが高いな」と思う人も多いかもしれませんが、この本には「はじめるハードルはとにかく低く」と書かれていますね。

小林 大それたことではなく、まずは動くことが大事です。部屋に花瓶を置いて花を一輪飾るだけでもいいんです。それだけで今までとは違った景色が見えてきます。

小林さんは「まず動くことが大事」だという
小林さんは「まず動くことが大事」だという
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イイダ なるほど。まず動いてみることは、自律神経にも良い影響があるのですか。

小林 もちろんです。花を一輪飾る、部屋を片付けるだけでも部屋の見え方が変わりますよね。僕は最近、通勤の路線と降りる駅を変えたのですが、それだけでも見える景色、出会う人が違います。昨日までの落ち込んでいた自分がうそみたいに思えたり、新しいことをはじめた面白さも出てきたりします。

イイダ 「新しいことをはじめる」という心の余裕も自律神経に効きそうですね。

小林 いや、心の余裕はまったくないんですよ。余裕がなくても、まずやってみるという発想ですね。

イイダ 小林さんでも余裕がないんですか。

小林 ないですよ。むしろ毎日、「どうやって元気を出そうか」と考えています。だからこそ、「ちょっとしたこと」「新しいこと」をはじめてみるのが、お勧めなんです。そういえば僕は今年に入ってから、もう7回も神社に参拝しています。

イイダ ええっ! 今年に入ってまだ2週間ちょっとですが、もう7回もですか。それはすごいですね。「この日は神社に行こう」と決めているのですか。

小林 思いつきで、「今日は神社のパワーが必要だな」という日には参拝します。神社は不思議な空間で、参拝すると元気が出るんですよね。僕の場合は神社ですが、川のほとりでも、大きな木の下でも自分の元気が出る場所でいいと思いますよ。

イイダ そうすると体調も良くなりますか。

小林 はい。自律神経が整います。神社は階段の上り下りもあるし、血流も良くなります。それから、僕は今年に入ってとにかく大きな声で「おはよう」「元気ですか」と言うようにしています。アントニオ猪木さんみたいに。担当医が元気でいないと、患者さんも暗い気持ちになってしまいますからね。言霊の力で、「元気ですか」と自分に言い聞かせている部分もあります。

片付けは人生のすべて

イイダ この本では「片付け」の重要性も説いていますね。

小林 片付けは大事です。僕は人生のすべてだと思っています。

イイダ 人生のすべてとは。どうしてですか。

小林 先ほど神社に参拝していると言いましたが、片付けていると神社が家の中にあるような状態です。自宅の机や引き出しの中が整理整頓されていると、心の中も整理整頓されます。机の上が散らかっていると仕事もはかどらないし、メールの返信でもミスをする。部屋の乱れは、心の乱れ。もう、僕は片付けは修行だと思っています。

イイダ でも、そんなに毎日片付けていたら、片付ける場所がなくなるのでは?

小林 毎日、片付けられれば苦労しません(笑)。やっぱり人間ですから、できない日もあります。そんなときは仕事終わりに10分間でも「片付けタイム」を組み込んでおきます。自宅に帰ったら玄関のドアを開ける前に「今日は片付けるぞ」と自分自身に言い聞かせる。スーツを脱いで、ソファに座ると片付ける気分になれませんから、もうスーツのまま掃除機をかけて、片付けます。人間はできなくて当たり前、三日坊主も当たり前なんです。「どうしたらできるかな」という工夫を少しずつ日常に組み込む工夫をするといいですね。

イイダ これは気持ちの上の片付けにも通じると思うのですが、「気になる用事は3日以内にやる」とも本には書かれていますね。

小林 そうですね。3日以内に片付けないと、重要な返信を忘れるなど、失敗しがちです。メールなんて1週間もたつとものすごい量がたまるから、重要な案件にはフラグだけでも付けておきましょう。本当は気になる用事は1日で片付けるのがベストですが、人間はできなくて当たり前。だから、3日以内にやるようにしましょう。

イイダ 「人間はできなくて当たり前」と認めてもらえると、ホッとします。まずはとにかくハードルを低く、「はじめることをはじめる」のが大事ですね。

小林弘幸さんの著書『はじめる習慣』
小林弘幸さんの著書『はじめる習慣』
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文/三浦香代子 写真/鈴木愛子

日経ビジネス人文庫『 はじめる習慣
毎日を気持ちよく暮らす

39万部突破のベストセラーシリーズ最新刊。名医が実践する「自律神経を整え、心地よく暮らす」99の行動習慣。あなたは何をはじめますか。

小林弘幸著/日本経済新聞出版/880円(税込み)