今日の一冊は
「旅をする木」星野道夫・著

アラスカへ移り住んだ最初の日記を見て感慨にふける結婚したばかりの星野道夫さんの文章から始まります。アラスカ大学へ入学するために学部長に直談判したとき。ザトウクジラを追う船旅での、赤い絶望の入り江(Red Bluff Cove)での包み込まれるような静けさとハクトウワシの鳴き声、水面からのサケの飛翔、満天の星空。ゴマフアザラシの群れ、ピンクサーモンの群れ。美しい秘密の場所。

ナキウサギ、ムース、カリブー、カナダヅル、厳冬期はマイナス50度の殴られるような寒さ。妻の直子さんの妊娠。

自然はいつも、強さの中に脆さを秘めていて、その脆さに惹かれるそうです。カリブーの子どもの死亡率は出産後一週間に集中しています。日々、生きていることは奇跡的なことのような気がする。妻の出産に不安を感じている星野さんの気持ちが伝わります。

ルース氷河で満月に岩山から氷河へ、ひとり、スキーで滑る夜は風の冷たさがみにしみる。読んでいると氷河と砂漠では全然違うのに、サン・テクジュペリの小説に似た印象を持ちました。

アラスカを離れ、撮影のプロジェクトのため南アメリカのガラパゴス諸島へ。コロンビアのカメラマン、アルドウ・ブランドと親しくなる。アマゾンの自然や暮らしが急速に変わりつつあり、今消えてゆこうとする世界をちゃんと記録しておきたい、と熱く語るアルドウ。一途で素朴な人間性に惹かれ、親友となったのです。

極北の夏、オールドクロウというグッチン・インディアンの村に二年に一度人々が集まるお祭りに参加したとき。極北の狩猟民のお祭りに、ローリーという女性のテントに泊めてもらう。最初は言葉少なかったローリーですが、会の終わり頃、マイクの前に立った彼女のスピーチに、私も胸を打たれました。

まだまだ語りつくせない、魅力的な本ですが、内容が気になる人はぜひ手に取ってみて下さい。ひとつひとつのエッセイが短いので読みやすく、深みのある話ばかりです。

ヘルシーな黒豆スコーン
しろくまステッキ🍭