数十年前は人間が動物に咬まれると私の事務所の電話が即鳴った。ライオンとヒョウに咬まれた、珍しい御方に一言というわけだ。
流石に年月も経ち、この頃はサッパリかかってこない。

今月の5日のニュースが飛び込んできた。

那須サファリパークのトラが飼育員3名を襲い、重傷を負わせた事件だ。女性の飼育員が怪我をしたということは聞いたが、詳細は一向に入ってこない。
私にとっては昔のことだが、鳥肌が立つ。一体何が起きていたのか……

週刊新潮の記者さんから電話が入るが、あまり詳しい情報は発表されていないようだ。
彼の話によると、那須サファリパークの園長の発表では、3人の飼育員が襲われたのは開園前だった。点検のためにトラの展示スペースに向かった26歳の女性飼育員が、連結していた屋外通路を避けて獣舎脇のトラ通路を通る際、ベンガルトラの雄、ボルタ11歳と鉢合わせしたとみられている。
前日、ボルタが獣舎に入るところを別の男性飼育員が確認しておらず、獣舎内の餌も手つかずで残っていた。鍵をかけ忘れたのだろうか……
園長が言うには、

「ボルタが獣舎におらず、通路にいるなんて起きようのないミスです。鉢合わせた時、おそらくボルタは女性飼育員とじゃれ合おうとしたのだと思います」

本気で襲ってきたら彼女は間違いなく殺されていたでしょう。ボルタも本気ではなかったと私も思う。
騒ぎを聞きつけた24歳と22歳の飼育員が助けに入ったが、2人もボルタを制御することが出来なかったそうだ。26歳の女性飼育員は全身を咬まれ、22歳の女性飼育員は非常に大きな怪我を負ってしまった。なんと可哀想に……彼らも動物が大好きで夢を膨らませて就職してきただろうに……

私がライオンとヒョウに襲われた時、ネコ科の動物は小ちゃくて動く者に興味を持つらしいと聞いた。私も小柄だ。飼育員さんも2人が女性で重傷を負っている。

36年前にライオンとヒョウに立て続けに襲われ、頸椎の粉砕骨折、全治6ヶ月の重傷を負った経験のある私も、今回は大変ショックを受けた。36年前は「ライオン聖人」と呼ばれたジョージ・アダムソンの前で起こった。あの方は映画にもなり、ベストセラーにも関わり、ケニアでは神であったのに……
それでも制御出来ない、野生のおそろしさを潜めている。

今回の事故も私の時と同様、ちょっとした気のゆるみ、驕りがあったのかも知れません。飼育員がちゃんと育ててきたからといって野生の本能はちゃんと持っています。

園長が最後におっしゃっていた、“動物はペットじゃない” が本当でしょう。