東京では知名度が限られている阪急百貨店の東京進出の歴史は古く、1953年の東京大井店(品川区・現・阪急百貨店大井食品館)で都内に初進出し、56年の数寄屋橋阪急(中央区)で都心・銀座に進出しました。その後、同根の東宝が所有する日劇跡地開発地に有楽町阪急(千代田区)を開設したのが84年、この有楽町阪急が11年にリモデルし「阪急メンズ東京」となります。


JR有楽町駅と銀座を繋ぐプロムナード。

東京屈指の立地に阪急メンズ東京が聳える。


阪急メンズ東京は開業当時、歌舞伎役者の市川海老蔵をヴィジュアルに起用し、「世界が舞台の、男たちへ」のキャッチフレーズのもと、日比谷・有楽町地区で働くジェットセッターに向けた戦略を取り、一定の支持を得ました。そして19年、次なるステージを狙って全館リモデルに踏み切ります。このリモデル内容こそ、今回の本題です。


「クリエイティブコンシャス」

阪急メンズ東京は新たな顧客ターゲットを「クリエイティブコンシャス」と位置付けました。阪急メンズ大阪が極度にラグジュアリーに寄るのに対して、東京ではデザイナーズブランドを強化、比較購買の要素を残した伊勢丹新宿本店メンズ館とも違い、ブランドのメッセージ性の強い環境空間が実現しました。

また、来店者の殆どを迎える1階にはこれまでの紳士雑貨フロアから化粧品・デザイナーズ〜ラグジュアリーと、通路に面したシースルースペースは全てポップアップとすることでファッション性を大いに高めています。

デザイナーズブランドがコーナー展開する2階フロア、またクリエーターブランドを揃えた6階フロアも、クリエイティブな感性に刺さるフロアとなっています。6階フロアに構える阪急のクリエーターズセレクトショップの「ガラージュ D.エディット」は別記事にて紹介しています。




必見!メンズシューズの世界

エスカレーターを上がって5階フロアは全フロアが靴のみのラインナップ!このフロア中央に「クリスチャン・ルブタン」が陣取り、周囲には「ジョンロブ」「ジミーチュウ」「ドルチェ&ガッパーナ」などのラグジュアリーのコーナー展開も。平場も非常に充実していて、阪急メンズ東京のバイヤーたちが国内外からクオリティ重視で集めたブランドが並びます。メンズシューズのフロア面積では間違いなく日本最大級、SKUでは他店に劣るかもしれませんがワンフロアがメンズシューズのみというのは靴好きの紳士には垂涎の売場となっています。

シューズの品揃えは地域での百貨店の商品力の強さを示すといって差し支えなく、近隣に名だたる老舗の本店級がひしめく中でよくここまで集めたと大いに賞賛すると同時に関係バイヤーの力に敬意を表したいと存じます。


数字が取れないワケ

阪急メンズ東京は近年の百貨店店舗とは違い、非常に面白い店になりました。一方、いい店であるがゆえの数字面の悩みも、ある意味でこの店の面白さといえます。直近4年の売上データをご覧ください。

    

18年3月期 13,580
19年3月期 14,218
20年3月期 12,884
21年3月期 8,692
※21年はコロナ禍による影響あり、単位百万円
※エイチツーオーリテイリング決算データより

リモデル工事の影響を受けたとみられる19年3月期にも増収を続けている一方、20年3月期は一転、減収に陥っています。リモデル初年度170億円の目標からすると達成率75.8%、数字の上では惨敗であります。

B1には紳士用品、下着、シャツ・ネクタイ、メガネ、鞄、スーツケースが集中するフロアに、またトラッドとコンテンポラリーは纏めて4階に纏まりました。これらのブランド・アイテム群は有楽町でニーズの高いカテゴリーといえ、デザイナーズ・クリエーターズを重視するあまり、外部環境については度外視せざるを得なかったため、それらの客層が近隣の松屋銀座などに流出したのではないかとみております。ここが阪急メンズ東京とほぼ同時開業し毎年200億を超える売上(総取扱高ベース)を叩き出す隣のルミネ有楽町店と明暗を分けたポイントだと考えています。


さらに研ぎ澄ました戦略を

最後に今後、私GO-chinが阪急メンズ東京に期待することを論じて記事を締めたいと思います。

一言で申せば、「このままさらに戦略を昇華させること」。

実は売上を取るためには有楽町地区で働くビジネスマンをターゲットにする戦略が近道です。ただそれではとても面白くない店になることでしょう。かといって周辺環境の激変は考えられない……ならば、阪急メンズ東京自身がメンズのデザイナーズ・クリエーターズの聖地になるより他に途はありません。

具体的にひとつ挙げれば、阪急メンズ東京の強みとなるセレクトショップの「ガラージュ」やシューズフロア「3500.BCE」などをあえて赤坂や六本木、青山地区に出店することにより、阪急メンズ東京の顧客勢力圏を拡大するのです。現況を見れば同様の顧客層を獲得するためには城西地区の支持を獲得することが必定、ただしこれらの客層は伊勢丹ともバッティングするため激戦は予想されますが、同地域の「クリエイティブコンシャス」を落とせば、阪急メンズ東京のプレゼンスは劇的に高まるでしょう。

百貨店としてここまでの発想で店を作った事例はおそらく存在しません。この発想を大切に、大切にしてさらなる伸長を期したいと思っています。