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国際シンポジウム「ジャーナリズムの力」 ―試練と可能性―
ジル・エイブラムソン氏の基調講演(2)

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ジル・エイブラムソン氏

 私たちのやっていることのコストは、新聞用紙から従業員の医療費まで、すべてについて上昇しています。それでも米国の新聞は利益率が二けたのビジネスであることに変わりはありません。しかし、同業者のなかには編集局の規模を大幅に縮小しているところもあります。

 これはウォール街を喜ばせるかもしれませんが、ニュースを集めるのに必要な全体的な力量は打撃を受けることになります。われわれの編集局でも財務規律が強化され、さまざまな部署で能率向上のプロジェクトが進行中ですが、他の新聞社で行われたような大幅削減は免れています。

 競争相手の多くは後退していますが、私たちは報道の量的、質的向上のために引き続き投資を行っております。たとえば、最高の記者たちのなかから二人の特派員を選んでニューヨークからスペインに派遣することになりました。一人はヨーロッパにおけるテロを取材し、もう一人はまったく新しい分野として北アフリカにおけるムスリム世界の拡大を取材します。

 9月11日には、マンハッタン南端の世界貿易センター跡地が5年たった今も穴のままになっているのはなぜか、という問題について1万8000字の記事をまとめ、別刷りの形で発行しました。今日の読者の注意は長続きしないという見解もありましたが。

 私たちのクオリティー・ジャーナリズムを他と区別するのは、われわれが順守することを誓っている「正確さ」と「公正さ」についての綱領でもあります。この綱領には、厳しい倫理基準が定められており、記者や編集者に各自の発見や結論を絶えず疑い、矛盾する材料を慎重に考量するよう要求する規定が盛り込まれています。意見報道(オピニオン・ジャーナリズム)の世界でも同じ基準が適用され、現在ではニュースコラムや、現代の最も関心の高い問題を扱うブログにもこれが当てはまります。

 タイムズ紙の元編集主幹がかつて述べたように――これはまったくその通りなのですが――もしもニューヨーク・タイムズ紙が存在しなくなったら、それを再びつくることは不可能でしょう。タイムズ紙の人材の豊富さと深さを言葉で伝えるのは難しいことです。

 すばらしい日本報道を行い、政府の政策から活気あふれる文化まで、日本のあらゆる側面を取材しているノリミツ・オオニシ(大西哲光・東京支局長)やマーティン・ファクラーのような最高の特派員もおります。そしていつも話題になる映画評論家や書評担当者、そのほかスポーツからファッションにいたるまで、あらゆる分野の専門家がそろっています。

 取材力には多大な可能性があります。それはすなわち、北朝鮮の核をめぐって起きている論議、中東の戦争、アジアの津波、ニューオーリンズのハリケーン・カトリーナ、あるいはこの夏に英国で発覚したテロ計画など、世界を揺るがすような出来事が起きた場合には報道チームを組織して、同業他社に基準を示すような報道を行うことができる、ということです。

 若い読者が「情報は、ただ」という考え方に慣らされながら大人になること、広告主が消費者に訴える代替手段を常に見つけていくことは、疑うべくもありません。しかし、繰り返しますが、タイムズ紙はこの嵐を乗り切るにあたって、大部分の報道機関よりも有利な地位にあります。

 第一に、自分たちのジャーナリズムを大事にし、タイムズ紙を「神聖な信託物」のようにみなすザルツバーガー家によって所有されているのですが、読者の多くもそれと同じように考えています。タイムズ紙の読者は大学卒業者が多く、その比率は平均値の3倍です。読者の年齢の中間値は約45歳です。これは年齢としては高いように聞こえますが、わが国のネットワークニュースの典型的な視聴者に比べると15歳も若いのです。われわれの読者は裕福で、世帯の年間収入は平均約9万5000ドルに上ります。

 彼らは活発で忙しい人たちで、広く旅行し、深く読んでいます。よく情報に通じ、広い心をもっていることに誇りを感じています。彼らは自分たち自身を一つの「共同体」のように見なしています。つまり、彼らのタイムズ紙との関係は情熱的で、時には込み入っています。それは購読または新聞売り場での購入という単なる経済的取引にとどまりません。われわれの読者は報道に欠陥を見つけると怒ります。私たちが信用に傷がつくような事態を自ら招いた場合でも同じです。

 この何年間かに、タイムズ紙は信頼を高めるような措置をとってきました。オンブズマンとして市民編集者を雇って、報道を批判し、私たちに対して責任を明確にさせる「独立した声」としての読者および公衆との関係に対処しています。編集の最高幹部には、タイムズ紙をより透明な報道機関にするために、オンラインで登場し、読者からの質問に答えるよう奨励しております。

 そのために、私はクオリティー・ジャーナリズムには成長の潜在的可能性が大いにあると見ているのです。デジタル化への移行に際して、時には若干険しい道を歩むこともあるかもしれませんが。この移行期間中も、タイムズ紙はその中核的な原則、すなわち新たな参入者には対抗できない、真に価値のあるなにかを提供することによって市場で勝つことができる、という信念を堅持するつもりであります。


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