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住職の日記

仏教の多様性 大乗仏教と上座部仏教

お子さんの教科書を見て「自分が習ったのとはちがう!」と驚くことはありませんか?

たとえば、「1192(イイクニ作ろう)鎌倉幕府」と覚えていたはずが、現代の教科書では鎌倉幕府が開かれたのは1185年と教えています。今の学生さんたちは「1185(いいや、ごめん)鎌倉幕府」と覚えるそうです。

他にも、小学校の算数では割り算のひっ算のやり方が変更になりました。 親御さんの世代は「繰り上がり」で習っていたため、「繰り下がり」でならう今の小学生の宿題に混乱しているという話もあります。

そして、仏教について教える際にも変更がありました。

かつては、あらゆる人や生き物の救済を目指すのが大乗仏教。 自分自身のために教えを守り修行した人だけが救われる小乗仏教

と教えられていましたが、現在は「小乗仏教」ではなく「上座部仏教」や「テーラワーダ」と表現するようになりました。

今回は、学生時代に習った「大乗仏教」と「小乗仏教」の違いについておさらいしてみましょう。

大乗と小乗(上座部仏教)のおさらい

仏教は主に「大乗仏教」と「小乗仏教(上座部仏教)」の二つに分かれます。「大乗」は全ての存在の救済を目指し、「小乗」は個人の悟りを追求します。これらの意味を理解することが、仏教について考える上で重要です。ここでは、それぞれの教義の特徴についておさらいしてまいりましょう。


大乗仏教

大乗仏教は「北伝仏教」とも呼ばれ、インドの北部ルートを通じてアジア全体に広がりました。 大乗仏教は、地域ごとの風習や文化、価値観を取り入れたため大きく発展してきました。しかし、一方でお釈迦さまのもともとの教えとは異なると指摘されることがあります。 大乗仏教の特徴を簡単にまとめると以下の通りです。

  1. 普遍的な救済の理念 

    大乗仏教は、すべての生きとし生けるものの救済を目指します。菩薩という概念を取り入れ、菩薩は修行する人だけでなく、悟りを求める人は誰でも菩薩になり、救済されるという教えです。

  2. 空(くう)の教え

    「空」とは、万物が本質的には無常であり、独立した永続的な自己を持たないことを指します。これは、現象世界が相互依存の関係にあるという考え方です。

  3. 大乗経典
    大乗仏教は独自の経典を持っており、これらは「大乗経」と呼ばれます。般若心経や法華経などが含まれます。

小乗仏教(上座部仏教)

小乗仏教は上座部仏教またはテーラワーダとも呼ばれています。インドから南方ルートで伝搬したため「南伝わる仏教」とも呼ばれています。お釈迦さまの教えをより厳格に伝えることを特徴としています。インド地方に似た気候条件の地域で広まりました。

  1. 原始仏教への忠実さ
    小乗仏教(上座部仏教)は、お釈迦さまが説かれた原始的な教義を保持しようと努めます。これは「パーリ仏典」として知られる経典に基づいています。

  2. アラハントの理想

    小乗仏教(上座部仏教)では、個人がアラハント(悟りを開いた者)になることが最終的な目標です。アラハントは欲望や執着から解放され、涅槃(ニルヴァーナ)を達成します。

  3. 道徳的な実践と瞑想
    小乗仏教(上座部仏教)は、倫理的な生活、道徳的な戒律(五戒)、瞑想などの精神的実践を強調します。

先述のとおり「小乗仏教」は現在、「上座部仏教」や「テーラワーダ」と表現されるようになりました。これは、「小乗」という用語が「大乗」に比べて限定的で劣っているというイメージを持つためと、「テーラワーダ」が「小さい」や「制限された」という意味だけではなく、「長老の教え」を意味し、自らの伝統を維持することを表現しているからです。 より敬意を持って、歴史的・教義的な正確性を反映するための変化といえるでしょう。

日本の仏教は独創的

日本の仏教宗派は、ほとんどが大乗仏教に属しています。 日本の仏教は、各宗派が互いに影響を受けながらそれぞれの特色を持ち発展してきました。

さらに、日本人がもともと信仰していた神道の神さまと仏教の仏さまが共存する、独特の宗教的環境が生まれました。先祖供養を大切にするのも日本の仏教の大きな特徴です。

日本は、お釈迦さまが活躍したインドとは気候も文化も大きく異なります。また、すでにインド、中国、朝鮮半島など教えがまじりあった6世紀ごろの仏教が伝来した影響もあり、日本では伝統的な意味でのテーラワーダ仏教の宗派は普及していません。

極東の日本で、お釈迦さまの説いた仏教は独創的な進化を遂げて現代に続いています。

日本の仏教の役割

今でも、厳しい戒律を守り続ける上座部仏教やテーラワーダの信徒からすると、「日本の仏教はお釈迦さまの説いた仏教とは違う」と指摘されることもあります。

日本の仏教は、歴史的に日本独自の文化や習慣と結合して発展してきました。このため、原始仏教の形態とは異なる宗派や教義が生まれたのは、文化的な適応の当然の結果と見なされています。

また、多様な実践や解釈が存在することを認め、これを仏教の豊かな伝統と見なしています。一つの「正しい」実践や教義という考え方ではなく、様々な宗派や教義が共存することが日本の仏教の特徴ではないでしょうか。

大きな前提として、すべての仏教宗派がお釈迦さまの教えに基づいているという共通の認識を持っています。

そのため、異なる宗派や教義でも、最終的には同じ根源に帰着すると考えられているため、大乗や上座部仏教・テーラワーダの区別や宗派の区別なく互いの教義を尊重し共存できていると考えられます。

現代の日本の仏教の役割

現代の日本の仏教は「葬式仏教」と揶揄されることもあるのもまた事実です。 葬儀のときにしか存在感を示せないのは、課題のひとつでしょう。

日本の仏教は、伝来して以降長い間にわたり政治と密接な関係がありました。 しかし、第二次世界大戦の反省を経て、政治とは一定の距離を置くこととなりました。

また、時代の流れとともにお寺と檀家さん地域の住民の方との関係性も薄れてきています。

今、問題になっている新興宗教が台頭したのは、こうした日本の仏教の影響力が小さくなったのも遠因と考えています。地域のお寺が果たしていた、地域の人々の心のよりどころの役割が薄れた結果、新しい宗教にのめり込んだ方も多くいるのではないでしょうか。

そう考えると、現代の日本の仏教や地域のお寺は葬儀以外にも地域の方たちのお役に立てる方法があるはずです。

一度、薄くなってしまった関係性を再構築するのはむずかしいことです。 しかし、心のよりどころややすらぎを求めている人は多くいます。

そんな人々の心の支え、よりどころとして再び、日本の仏教、お寺が機能していくことが、社会の貢献につながると考えています。

そのために、十念寺では「ひとやすみカフェ」など地域交流の場としての活動も続けています。 とても小さな活動ですが「大切なのは未来に向けて行動すること」と信じ、皆様のご協力のもと努力していきたいと思います。

まとめ

今回は、仏教について学ぶ際の基礎である、大乗仏教と小乗仏教改め上座部仏教やテーラワーダの二大宗派の違いについて解説してきました。

大・小と表現すると優劣があると勘違いしがちですので、上座部仏教やテーラワーダの方が適切な表現だと改めて感じました。

私自身は浄土宗の僧侶ですが、大乗仏教と上座部仏教やテーラワーダ、そして大乗仏教に連なる各宗派に優劣はないと考えています。元をたどればお釈迦さまの教えに行きつくので、アプローチの方法の違いと捉えています。

こうした捉え方ができるのも、日本という昔から宗教に寛容な国に育ったおかげだと思います。 頭で考えるよりも、日々の実践に重きを置いて、今日も僧侶としての務めを果たしたいと考えています。

仏教や浄土宗の教えに関する、疑問・質問がございましたら、毎月25日に開催している「お念仏の会」にお越しください。