冨田鋼一郎
「あれと」
思わず口を衝く。蛍を見つけたら、「あっ、蛍だ!」と叫ぶだろう。しかし、いつもの連れがいないのだ。現場での一瞬の高揚感が、瞬く間に寂寞感に転じてしまう。いつもの連れがいないことに気付かされ、この時ばかりは蛍を恨む気持ちになる。
これも、助詞「と」の効果が大きい。
太祇の「蛍」句には、ほかにこんなのがある。
艶のある句だ。「指のまた」からは、20世紀を代表するポートレートカメラマン、ユーザフ・カーシュの撮ったヘレン・ケラーの手を思い出す。
カーシュは、彼女の視覚と聴覚は、両手の間から漏れて輝く光からもたらされたと、コメントしている。
ABOUT ME
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。
各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。
著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)