読書逍遥

第62回『炭太祇(たんたいぎ)の句 その2』

冨田鋼一郎

『太祇全集』

子規のいた明治時代には、江戸俳諧ものはこのような袖珍本の形で読まれていた。愛すべき一冊。

炭太祇(たんたいぎ)の句 その2

句のなかに、助詞「と」を自在に扱うことにかけて、太祇の右に出る者はいない。こまやかな情趣を詠んだ人事句の名手、太祇。

な折そと折てくれけり園の梅

「な折そと」
「あっ、そこの枝は折らないでと」別の枝を折ってくれたその家の主人。「折てくれけり」には、枝を失敬しようと腕を伸ばした通りがかりの人の、見つかってしまったきまり悪さ、恥ずかしさ、申し訳なさ、ありがたさの全てが凝縮されている。

東風吹くと語りもぞ行く主と従者(ずさ)

「東風吹と」
「どうやら、東風が吹いてきたようでございます」と語りあいながら街道を歩む主人と付き人。春到来だ。
歩行(かち)の旅ならではの会話。新幹線では決して交わすことができない。文明で失ったもののひとつ。

どれもドラマの一場面になる。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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