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2019年03月30日

ルリハコベ

ルリハコベ



     くたびれて山の水音ルリハコベ



  ひさしぶりのふる里。

  集落内の細い道や水田地帯を歩き疲れて立ち止
  まった道端、足先に濃い青色のルリハコベの小さ
  さな花がたくさん。宝石をまき散らしたかのように
  咲いていた。


  

ルリハコベ


  ルリハコベの名は葉の形がハコベに似ていて、紫が
  かった濃い青色(瑠璃色)の花が咲くことから名
  づけられたという。




ルリハコベ


  じっと見つめていると静かで落ちついた精神的な
  深みを感じさせる花。上品で気高い趣がある花。
  実に美しい青だ。

 

  葉は茎の周りに3つづつ。各葉の脇から、上の葉
  を避けて陽に当るように3センチ弱ほど斜めに伸
  びた花柄の先に花が咲いている。


  花の経は1センチ弱ほどでとても小さい。
  花びらは5つ。雄しべが5つ。雌しべ1つ。


  花は3~5月に咲くというが、2月に見かけたこと
  もある。1~5月とかいてある本もあった。その年
  の気候や場所によって早い遅いがあるのだろう。


  

ルリハコベ


  ルリハコベは道端、野辺、山手の畑地まで日当た
  りの良い場所に生えている。1年生草本。

  株から茎が散開状に地を這うように横に広がり、
  先は斜め上に持ち上がり空を向く。


  他の草も生えている場所では、花が咲いていない
  かまばらに咲いている場合は他の草の綠に紛れ
  て分かりにくい。
 

  しかし、路傍で地に低く横に倒れるように青い小さ
  な花を咲かせている草は少ない。下を見て歩けば
  すぐ見つかる。
  

  写真は与勝半島の東側を走る道路の道沿いで見か
  けた。

  
  花びらはとても柔らかく繊細だ。香りは感じない。
  花が散った花柄には黄緑の実がついていた。
  花びらだけでなく草全体が柔らかい。
 


     見て触れて日がな一日ルリハコベ




ルリハコベ


  勝連半島ホワイトビーチ近くの道端

  白い花の上をモンシロチョウなどの蝶が飛び交って
  いるセンダングサの中にルリハコベの青い花がふた
  つ見えた。


  周りの草仲間が成長し茂ってくると、ルリハコベも
  さすがに低く地を這ってばかりでは生きられない。

  40~50センチほど身を持ち上げている。あっぷ
  あっぷして背を伸しやっと青空に花を咲かせたと
  いう感じだ。


  センダングサの白い花の蝶はカバマダラだろうか。

  

  春になり蝶が多く見られるようになった。
  特にカラシナの黄色い花やセンダングサの白い花
  が咲く畑や野。そして浜に生えているハマダイコン
  の淡い赤紫色の花にはモンシロチョウがいっぱいだ。




ルリハコベ





ルリハコベ



  蝶を撮りながらルリハコベの花を探しながら春の海
  を見にいくのもいい。


    道草の足を伸して春の海  (佐久原俊子) 



  次のような句もある。

   
    老いてこそ率直に草の実とならん (木下八重子)  



  生まれ変わるときは、草ならさて何の草となろうか。
  島国の沖縄。やはり海辺に花咲く草がいい。


  


ルリハコベ



    濃く淡く日当る畑のるりはこべ (知念広径) 

 
  ここはキャベツ畑。ルリハコベの花も見える。
  畑で生活の糧を育てている農家にはルリハコベは
  雑草。雑草は引き抜かれるが、来年もまた咲く。


 
  方言名のカサミンナー(あるいはミンナー)を知る人
  も少なくなりつつあるようだ。


  畑で鍬をうつ年配の農婦に、ルリハコベの花を示し
  地域での方言名を訊ねたことがある。

  しばらく黙し首をかしげていた。ミンナーと言わない
  ですかと話すと急に笑顔になりわらべ歌をちいさく
  口ずさんだ。



    草叢にひっそりと咲きし瑠璃はこべ
           昔は畑に茂りしものを
                      
               (大湾苗子) 
                      



ルリハコベ




    いったーアンマーまあーかいが  

                     (沖縄のわらべ歌)
   
                    
     いったーあんまー まーかいがー
     べーべーぬ  草刈(か)いがー
     べーべーぬ  まさ草(ぐさ)や
     畑(はる)ぬ  若(わか)みんな
     あんぐわー そーてぃー  コッコイ
   
   
         
  〔解説〕 
  おまえの母さんどこ行った/山羊の草刈りに/
  山羊の好きな草は/畑の若いミンナ

  
  以上の歌詞と解説は高江洲義寛(ぎかん)著
  『沖縄のわらべうた』(沖縄文化社)より。
  「あんぐわーそーてぃー コッコイ」の解説は
  なかった。

 
  なお、「あんまー」(母)は平民の場合。士族の
  では「あやー」。


  沖縄市の教育委員会発行の文化財調査報告書第
  19集『わらべうた~胡屋・仲宗根~』には同じわら
  べ歌の続きの歌詞が採取掲載されている。


  アンマー(お母さん)の後にスー(お父さん)はまー
  かいがと訊ねている。その歌詞。


  
     いったーすーやー まーかいがー
     もーもーぬ  草刈(か)いがー
     もーもーぬ  まさ草(ぐさ)や
     畑(はる)ぬ  若(わか)みんな
     あんぐわー そーてぃー  コッコイ
   
   
             
  「もーもー」は牛のこと。牛を養っていれば牛の草
  刈りもある。


  「あんぐわーそーてぃー コッコイ」を知っている
  方言の知識で自己流に解釈してみた。

  「あんぐわー」は「乙女、娘」。 「そーてぃ」は「連れ
  て」の方言とすると、「娘も一緒につれて行った」に
  なるだろうか。「コッコイ」は囃子?
  まちがっているかも知れない。



  『沖縄わらべ風土記~子どもの遊びとわらべうた』
  (琉球新報社編、永山絹江著、沖縄風土記社)では、
  題名は〈べーべーぬ草〉となっている。


  「畑(はる)ぬ 若みんな」の部分は「はるのわかか
  んだ」となっている。「かんだ」とは芋のかずらのこ
  とだろう。「あんぐわーそーてぃー コッコイ」の歌詞
  部分は記されていない。


  なお、著者は、「べーべーのまあさぐさ」は地方によ
  って、「ベンギわかば」「シバンバナーユーバー」「カン
  ダマーオーワァ」と変わったと説明している。


  各地で親しまれ歌われた「いったーあんまーまーか
  いがー」のわらべうたは歌詞や旋律も地方によって
  ちがいがあると高江洲義寛氏も記している。

  

  
ルリハコベ



  ルリハコベの方言名はいろいろある。
  ミンナ、カサミンナ以外に、サクミンナ、ミンナグサ、
  ミズンゴーサ、ミジカンナー、ファチコーミンナなど。

 
  ササクサは魚毒(ササ)に使う草の意味。ミンナグサ
  は、みずみずしい草の意味。(天野鉄夫著『琉球列島
  植物方言集』)


  ルリハコベはイジュと同じように毒性を持っており
  かっては魚毒漁に利用されている。



  魚毒漁に使われた植物の種類については、盛口
  満氏の「魚毒植物の利用に見た琉球列島の里山
  の自然」に詳しい。


  これは『シークヮーサーの智慧~奥・やんばるの「コト
  バー暮らしー生きものの環~』(大西正幸、宮城邦昌
  編著、京都大学学術出版会)の第3章として所収され
  ている。

  図書館にあったのを見つけた。すばらしい本。
  




ルリハコベ



  前書に掲載された表を見ると、沖縄では、伊是名島、
  奥、喜如嘉、久米島、池間島、伊良部島(佐和田)、
  石垣島、与那国島(祖納)でルリハコベが魚毒として
  かって利用されている。 

 
  なお、奥の場合は子どもたちの遊びであったようで、
  ルリハコベ(奥の方言ではワン’ウワァビーナ)を取っ
  てきて、石でこすって干瀬のフムイ(クムイ。潮溜り)
  に入れて魚を取って遊んだという。(前書より)
 
   
  ルリハコベは草の生育期があるので安定した魚毒
  の植物としては利用できなかったとも聞く。



 

ルリハコベ


  ルリハコベに毒性があるなら気になるのは、
  わらべ歌の山羊たち。

 

ルリハコベ


  山羊を飼育している方に訊ねた。
  わらべ歌のとおりだ。ミンナーグサを食べる。でも、
  あまり好んではいないという返事だった。

  まさ草だったのは昔の頃だったようだ。それとも
  人間の思いこみで山羊にはそうでなかったのか。


  魚でも麻痺させる程度の毒性だという話を聞いた
  ことがある。4本足の大きな動物には問題はない
  のだろう。

  あるいは山羊や牛の体内には無毒化する何らか
  の機能があるのだろうか。




ルリハコベ


  茎は丸ではなく四角。手で触れたら面は溝のよう
  になっていた。




ルリハコベ


  周りの環境がいいと上や横によく分枝して繁殖し
  伸びかさなり広がる。もっともながい茎は70~75 
  センチほどまでのびていた。

  
  上の写真は畑の道際で見かけたルリハコベ。
  青い花に混じって色あせたような薄ピンク色の花
  も多くついている。変色しているように見える。




ルリハコベ


  色がかなりぬけ落ちている。美しい瑠璃色の面影
  はない。




ルリハコベ


  蕾も色がおちうすいピンク色になっている。


  花の色の青はアントシアン類の色素で、アントシアン
  は酸に溶けると赤くなるという。
 

  畑中の道の側に咲いたルリハコベの花。
  素人の推測にすぎないが、雨に溶けたトラクターや自動
  車の排気ガスなどによる酸化物を浴びて色素を破壊さ
  れたのかも知れない。



   
ルリハコベ


  ルリハコベの花にセンダングサの花から昆虫が飛んで
  きた。葉に隠れて全身は見えない。


  ルリハコベで吸蜜する昆虫を見たことも撮ったこともな
  かったので、嬉しくなって手前の花にやってくるのを待っ
  たがそのまま逃げられた。


 
  ルリハコベはヨーロッパが原産という。
  日本本土では本州(伊豆諸島、紀伊半島)、四国、九州。
  そして沖縄全島に帰化しているという。
  


  【追記】 2021年4月20日

  赤い花のルリハコベがあるという。
  中城公園にも咲いているいう。見に行った。
  花壇の道に生えていたようだが刈取られた後だっ
  た。かろうじて少し花壇の中に生えていた。
 
  花の時期はもうすぎていて、しぼんだ小さな花が
  いくつかついていた。 

  浦添警察署近くの三叉路(モノレール線路橋の下
  のアカギの映えている場所でも見られるという。
 
 
  2~3月頃なら花が見られるかも知れないが、雑
  草扱いなので、伸びれば他の草とともに刈取られ
  てしまう。
 



ルリハコベ




   野の草の一つひとつに名前のある
         ことのやさしきに春を歩めり

                      (俵 万智) 




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Posted by 流れる雲 at 17:00│Comments(0)
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