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医療・健康・介護のコラム

[ソプラニスタ 岡本知高さん](上) 奇跡の歌声、母との合唱が原点…子ども時代は親元離れて闘病

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自分の声に気づいていなかった

[ソプラニスタ 岡本知高さん](上) 天性の奇跡の歌声…闘病生活の中、母との合唱が「ぼくの原点」

――声楽を始めたきっかけは?

 高校3年までサックスを学んで上達すると、演奏する曲も専門性が深くなって、現代音楽も吹いていました。メロディックじゃない、難しい、難しいアート。このまま音楽大学に行ったら、先生になりたいはずなのに、サックスの専門家になってしまう気がして、これで本当にいいのかって、立ち止まったのが、3年になってすぐですね。ぼくは音楽の先生になるのが目的だから、サックス専攻ではなく、音楽教育の学科を受験したいという気持ちが湧いてしまって。音楽教育に行くなら、受験でサックスが必要なくなるんですよ。その代わり、声楽が必要となる。これは焦りました。「ぼくが? オペラみたいなの歌うの?」って。

――その時は自分の類いまれな声には気づいていなかったのですか。

 ぼくは変声期の自覚がまったくないまま、大人になりました。声が変わっていないわけですから、目立たない。変声期を迎えた人の方が、「あいつ声が低くなった」などと脚光を浴びるんですよ。ぼくと初めて会った人は、「声が高い」と気づいたと思うのですが、ぼく自身は一切気づいていない。

 声楽を習いに行った神﨑克彦先生の最初のレッスンで、先生が要求する音を、ぼくは1オクターブ上で歌っちゃいました。神﨑先生が「男の子はね、テノールとか、バリトンとかの声があって、今、岡本くんが歌っている声の1オクターブ下なんだよ」って教えてくださるんですけど、何をおっしゃっているのかわからない。自分の声の高さに気づいていないから。

 その場で神﨑先生が、国立音大の瀬川武先生に電話をかけて「高校3年でもう受験なのにこんな子が来ちゃったんだ」と相談したんですね。

 それで、東京であった国立音大受験生向けの夏の講習会に、声楽のレッスンを受けに行きました。その時、瀬川先生から「音楽教育では、岡本君みたいな特別な声の人はちょっと邪魔になる。でも、声楽科ではすごくその声が欲しい。その個性を伸ばすために、声楽科を受験してはどうか」という趣旨のことを言われました。その一言で、歌で行こうと決めました。

 同じ講習会で、お世話になっていたサックスの先生にも「実は声楽を受験することになりました」とごあいさつにも行って、そこでぼくのサックスは終わりました。

 一度こうと思いこむと、ぼくには道がそこにしか見えなくなっちゃうんです。もう本当、自分に魔法がかかったみたい。今まではサックス大好きだったのに、「いらなーい」。サックスの楽譜があると練習しちゃうんで、カルピスの空き箱に詰めて音大志望の友人に送ってしまいました。楽器も箱にしまって鍵かけて。サックスの練習ができない環境にして、それからもう声楽まっしぐら。自分に魔法をかけるのが得意なんですね。

自分のコンプレックス「ちっちぇえな」

――本当は歌も好きだったのですか。

 音楽の先生になるつもりでしたが、生まれ変わったらダンサーか歌手になりたいっていう夢があったんですよ。

 NHKで「音楽・夢コレクション」という歌番組があって、そうそうたるミュージカルの女優さんたちが出ていました。島田歌穂さん、中島啓江さん、森公美子さんと、素晴らしい方が出演していらっしゃった。吹奏楽とはまったく違うやり方で、音楽の喜びを表現している姿に、もうズキュンなんですよ。

 中島さんや森さんが、体をブンブン揺さぶりながら、楽しそうにすごい声で歌う姿を見て、「あ、表現するっていうのはこういうことなんだ」と教わったんです。ぼくはコンプレックスのかたまりで、太っていることにコンプレックスがあった。そんなぼくの僕の考えはちっちゃいなって。自分の持っているあらゆるコンプレックスが「ちっちぇえな」って思えました。

【写真】「美しい舞台衣装の岡本知高さん」

ソプラニスタ 岡本知高さん

おかもと・ともたか 1976年生まれ、高知県宿毛市出身。世界的にもまれな「天性の男性ソプラノ歌手」。国立音大を卒業後、フランスのプーランク音楽院を首席で修了。今年から来年にかけ、全国5か所で「ソプラニスタコンサート~響きの狂宴(うたげ)」を公演する(12月4日東京・日本青年館、来年1月21日愛知・日本特殊陶業市民会館、1月22日静岡・アクトシティ浜松、3月18日神奈川・関内ホール、4月22日埼玉・埼玉会館)

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