エッセイスト 安藤和津さん
一病息災
[エッセイスト 安藤和津さん]介護うつ(1)「母が壊れた」胸に迫る不安
母は60歳代後半になると怒りを爆発させることが多くなった。瓶のふたが開かないと床にたたきつけ、何かを盗まれたと騒ぐ。出版記念会の最中に「何で私のパーティーはないの」と大声でどなる……。
「なんて嫌な人。早く死ね」と心の中で毒づいていた。今なら認知症を疑ったかもしれない。1990年代当時は認知症ではなく、 痴呆 症やボケ老人の呼称が一般的だった。「ボケってご飯を食べたことを忘れるとか、かわいいイメージでしょ。凶暴さとは結びつきませんでした」。自分への敵対心むき出しの態度にただただ憎しみを募らせた。
母は裕福な商家に生まれたが、父親が知人の借金の肩代わりで没落。女学校を中退して花柳界へ。後に法務大臣になった犬養健と道ならぬ恋に落ち、出産。女手ひとつで料亭を切り盛りし、一人娘(和津さん)を育てあげた。引退後、家族と母は都心のマンションの別の階で暮らし、自分が仕事で出かけている時には、2人の娘の弁当作りなど、よく面倒をみてくれていた。
母の異常さは、娘も直撃した。次女のさくらさんが中学1年の時、「おばあちゃまが作ったもの、食べられない」と泣き出した。トンカツの肉は生、腐った 和 え物、雑巾を絞った手で握ったおにぎり……。
母が壊れた。性格の問題ではなく、何かが起こっている。大きな不安が胸に迫り、娘を抱きしめながら涙があふれた。
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エッセイスト 安藤 和津 さん(70)
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