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コングロマリット成功への秘訣!戦略と影響について解説

コングロマリット(conglomerate)とは、異なる業種の企業同士が、買収・合併を通じて巨大なグループとなったものです。大きさの基準などもなく、必ずしもその成長過程が買収や合併だけによるわけではない…と、実にあいまいな定義の存在ですが、かつて20世紀には、日米に多数のコングロマリットが存在していたとされます。

日本の例では、日立グループ、イトーヨーカドー(現セブン&アイ)、アメリカでもGE、IBM、エンロンなど多様なコングロマリットが存在していました。

目次

歴史的経緯

コングロマリットは、各国において経済発展のある時期に発生しやすそうである…ということが分かっています。現在の中国やインドでは、コングロマリットと呼べるような、不動産、小売り、エンタメ、製造業、金融にまたがるような事業を手掛ける会社が登場しております(中国・ワンダグループやや、インド・タタグループなど)。

厳密に解明されているわけではありませんが、その理由は、急速な経済成長の中で一部の企業に資金が集中し、かつその企業が旺盛な成長意欲をみせるために、他業種へと広がっていくためだと考えられています。また、消費者にブランド効果も働くためだとみられています。

20世紀後半。日米それぞれの事情で景気が悪化する中で、コングロマリットの経済効果は実は薄いのではないか…と議論されるようになり(後段コングロマリット・ディスカウント参照)、コングロマリットの解消が進みました。全くの異業種ですから、相互の事業にシナジーを生み出しにくく、また各業種を上手に経営できないため、国内外で育ってきた専業の会社に勝てなくなるためです。21世紀の初頭に、日米では20世紀型のコングロマリットの解消がすすんでいきました。

そして21世紀も十数年が経過したところで、再びコングロマリットが注目されるようになっています。第4次産業革命により、産業のボーダーラインが消えたことによって、異業種間でのシナジーが働きやすくなってきたためです。典型例は、米国Google、日本では楽天でしょう。たとえばGoogleの場合、検索エンジン、アプリマーケット、YouTube、地図サービス、ストレージサービスなど各種のサービスをシームレスにつなげて提供することで、他社が追随できないような強力なサービスを提供できるようになっています。

かくして、姿を変えてこんにち再び姿を見せているのが、コングロマリットなのです。

時期コングロマリットの状況
経済発展時期コングロマリットが活発に発生
20世紀後半コングロマリットの経済効果について疑問視され、20世紀型のコングロマリットの解消が進む
現在再びコングロマリットが注目される。第4次産業革命により、産業のボーダーラインが消え、異業種間でのシナジーが働きやすくなる

コングロマリットのメリット・デメリット

以上の歴史経緯を踏まえ、コングロマリットのメリット・デメリットをまとめておきましょう。

コングロマリットのメリット

コングロマリット・プレミアム

コングロマリット・プレミアムは、コングロマリット企業の株式が、その企業が持つ個々の事業部門の合計価値よりも高く評価される現象を指します。これは、企業の多角化戦略に対する市場の信頼や、リスク分散の効果、効率的な経営、シナジー効果などへの好意的な評価により起こると言えます。

リスク分散と財務的な相互融通

異なる業種に投資することで、特定の市場や業種の変動に対するリスクが軽減されます。一部の事業が不振でも他の事業が補填することが可能です。

インドの三代財閥の1つであるタタ・グループは自動車、IT、ホスピタリティなど多岐にわたる事業を展開しており、特定の市場の変動からのリスクを分散しています。

  1. 市場変動の影響の軽減: 特定の業種が不振になったとしても、他の業種での成功が全体の損失を補って安定を保つことができます。
  2. 景気の変動への耐性: 経済の上下動に対して、一部の事業が景気に敏感な一方で、他の事業が安定していれば、全体の業績が安定します。
  3. 投資の機会: 多角化により、新しい市場や業種への投資機会が拓け、成長の可能性が拡がります。

ある事業で稼いだ金を、別事業で…というかたちで、企業として事業ポートフォリオ(事業の束)を構築し、資金的な相互融通を行うことができます。一部の事業が季節的または景気の変動に強く影響を受ける場合でも、他の事業からの安定した収益があれば、全体のキャッシュフローが安定します。

かつてのコングロマリットのメリットは第1にはこれでした(もちろん今でも有効な戦術です)。専業企業よりも、金銭的なリソースが大きく、伸ばしたい産業に資金を傾注することができるために、他社よりも競争力を発揮できるのです。

範囲の経済(金銭以外)

範囲の経済とは、金銭以外の共有のリソースを異なる事業に転用することで、資源の活用効率が高まること。技術やブランドが典型で、たとえばソニーがカメラで技術とブランドを確立したならば、それらをスマホやPC、ゲーム機などにも転用することで、効率よくブランド・技術を使いまわせます。

シナジー(相乗効果)

2種類以上の事業を同時保有することで、お互いの事業の競争力を高められる効果がシナジー効果です。今日の第4次産業革命では、ふたたびこのシナジー効果が高まろうとしています。たとえばスマートフォンの場合、撮影して、画像をストレージに補完し、編集し、文章を付けて共有する…というところまでを1事業者で提供し切れば、競争力は非常に高まります。これらの機能が、それぞれ別業者で提供されるよりも、シームレスに繋いでなるべく1社完結で提供することで、顧客に高い価値が提供できるのです。

交渉力の強化

複数の業種での大規模な運営は、サプライヤーや取引先との交渉において強い立場を築く助けとなることがあります。

P&G(プロクター&ギャンブル)のような大企業は、その規模と多岐にわたる製品ラインによって可能となる集中購買によって、サプライヤーとの強い交渉地位を築いています。

  1. 価格交渉: 大量購買などの規模の利点を活用し、サプライヤーとの価格交渉で有利な条件を引き出すことが可能です。
  2. 契約条件の強化: コングロマリットの市場地位や購買力を利用して、取引先との契約条件をより有利に設定することができます。
  3. 戦略的パートナーシップ: 他の企業との戦略的な連携を形成し、市場での地位を強化することも可能です。これにより、更なる交渉力の強化が図られます。

コングロマリットのデメリット

コングロマリット・ディスカウント

単に1事業として専業企業に及ばないだけならまだしも、複数事業をもつことで経営が複雑化し、経営難易度が高まってしまうという問題を起こしてしまうことがあります。複雑に入り混じったシナジーや範囲の経済の関係、全体としての資金配分、一方は日進月歩なら他方は大きなゆっくりとした地殻変動に対応する…という事業スピードの違いなど、経営の難易度は飛躍的に増大すると言われます。こうした特徴から、複数事業を持っていると、1つの事業を持っているよりも株式市場などで悪評価とされることがあり、これをコングロマリット・ディスカウントといいます。

文化の不一致

多岐にわたる事業を運営することで、核となるべき事業に対する焦点が散漫になり、その分野でのリーダーシップを失う可能性があります。特にさまざまな業種と地域での事業展開を行うコングロマリットは、企業文化の統一が困難になることがあります。

  1. 価値観と目標の違い: 異なる業種や部門間での価値観や目標の違いは、組織全体での一貫した方針の策定や実施を困難にすることがあります。
  2. コミュニケーションの障壁: 文化の不一致は部門間のコミュニケーションを妨げ、効率的な協力や連携が困難になることがあります。
  3. 従業員の満足度低下: 組織文化の混乱は、従業員の満足度やロイヤリティの低下を招く可能性があります。

財務の非透明性

異なる事業間での資金の移動や調整が多岐にわたると、財務の透明性が低下し、投資家にとって評価が難しくなることがあります。複雑なコングロマリット企業の一部は、財務報告の解釈が困難であり、投資判断を複雑にすることがああります。

例えば

  1. 情報の複雑さ: 多岐にわたる事業部門の経済状態を一つの財務報告にまとめることは、外部の投資家や分析家にとって理解しづらくなることがあります。
  2. 意図的な操作のリスク: 企業がある部門の損失を他の部門の利益で隠蔽するなど、財務報告を操作するリスクも高まります。
  3. 監督とコンプライアンスの困難: 財務の非透明性は、内部監査や規制当局による適切な監督とコンプライアンスの確保を困難にすることがあります。

財務の非透明性のデメリットは、コングロマリット企業の経営において注意深く管理されるべきデメリットであり、問題を適切に解決しないと、組織全体の健全な成長はもちろん市場からの信用が損なわれます。

専門性に劣る

一方、コングロマリットのデメリットは、1つ1つの事業に関して言えば、その事業だけを長年手がけてきた会社に比べ、どうしても技術・マーケティング・製造等、各種の活動で後れをとるほか、マネジメント上も専門性を発揮できないことになります。

たとえばソフトバンクグループが半導体事業に進出した場合には、会社のトップである孫正義さんはあくまでグループトップであり、半導体事業を担うのはその傘下のNo2以下の人材となります。他方、Intelなど半導体専業の会社の場合、正真正銘のNo1がその会社の経営を担うわけですから、全社のトップから一丸になって経営を行う会社と、あくまで会社の1部門として、部分的なリソースだけで戦うコングロマリット内の1事業とでは、マネジメントの精度・練度にも差が出てしまう恐れがあります。

1事業の不調が全体の足を引っ張る

ある事業で莫大な赤字が出ると、他の事業の利益からそれを補填しなければならなくなります。結果として、特定の事業が足を引っ張っていると、他の事業は収益があるのに、その事業への投資が回らなくなる…という問題が発生します。バブル崩壊後の日本や、海外企業との競争に負けて景気を悪化させた1970年代の米国で、コングロマリットのデメリットとして最重視されたのはこの点です。そこから、株式市場の圧が強まり、コングロマリットの解消が進んだのです。

デメリットが大きく顕在化した例

ゼネラル・エレクトリック(GE)は、長らく多岐にわたる事業を展開していた典型的なコングロマリットでした。しかし、それぞれの事業部門間での連携が不足し、経営が複雑化。最終的には、一部の事業からの撤退など、再構造化が必要とされました。

メリットデメリット
コングロマリット・プレミアム: 株式が事業部門の合計価値より高く評価されるコングロマリット・ディスカウント: 経営の複雑化による評価の低下
リスク分散と財務的な相互融通: 市場や業種の変動に対するリスクが軽減される文化の不一致: 事業の焦点が散漫になり、リーダーシップを失う可能性
市場変動の影響の軽減、景気の変動への耐性、投資の機会: 多角化により新しい市場や業種への投資機会が拓け、成長の可能性が拡がる財務の非透明性: 複雑なコングロマリット企業の財務報告の解釈が困難、投資判断を複雑にする
範囲の経済: 共有のリソースを異なる事業に転用することで、資源の活用効率が高まる専門性に劣る: その事業だけを長年手がけてきた会社に比べ、どうしても技術・マーケティング・製造等、各種の活動で後れをとるほか、マネジメント上も専門性を発揮できない

コングロマリットの現在

コングロマリットという経営体制をめぐっては毀誉褒貶が激しく、ほんの数年前までは時代遅れの過去の戦略とされてきました。しかし、Googleや楽天のような新しいタイプのコングロマリットが登場するにつれ、ロジカルにシナジーを描いていくことで、コングロマリットが再び有効な戦略として再評価されるようになっています。

今日ではそれをコングロマリットと言わずエコシステムとして別の戦略として表現する向きもあります。

また、M&Aを成長エンジンとする経営戦略も再注目されており、その流れのなかでコングロマリット化が志向されるようにもなっています。

異業種にまたがることが、固有のメリット・デメリットをもたらし、時代によってそれぞれの側面が色濃く出る…とみるのが、妥当ではないかと経営学者的には考えられます。そして第四次産業革命の現在では、ふたたびメリットが顕在化してきている…という風にとらえるのが良いのではないかと思います。

代表的なコングロマリット企業

GE(ゼネラル・エレクトリック)

GEは、1892年にエジソン電灯会社とトムソン・ヒューストン電灯会社の合併によって設立されました。当初は電球の製造から始まり、その後、エネルギー、航空、ヘルスケアなど多岐にわたる産業に展開しています。

GEの強みは、技術革新とグローバル展開にあります。その多岐にわたる事業ポートフォリオにより、市場の変動に対する耐性があります。また、長い歴史と豊富な経験によって、多岐にわたる産業でリーダーシップを維持しています。一方で、GEは経営の複雑さと財務の非透明性に苦しんでいます。過去には財務報告の問題が表面化し、信用の低下を招いたこともあります。また、一部の事業部門での競争力の低下が指摘されており、リストラや再構築が進められています。

シーメンス

シーメンスは、1847年にドイツでヴェルナー・フォン・シーメンスによって設立されました。当初は通信技術に焦点を当て、その後、エネルギー、産業、交通、医療などへと事業を拡大しています。

シーメンスの強みは、エンジニアリングと革新における卓越性で、特にエネルギーと産業オートメーション分野でのリーダーシップが挙げられます。その強固な研究開発能力により、最先端技術の導入と市場での競争優位性を保持しています。一方で、市場動向への適応速度と組織の柔軟性に課題があるとされています。一部の市場では急速な変化に対応するのが遅く、競合他社に後れを取ることがあるためです。また、その巨大な規模と構造が、新しい市場機会への迅速な対応を阻害することがあると指摘されています。

ソニーグループ

ソニーは、1946年に東京で設立されました。当初は電気工学者である盛田昭夫と物理学者の井深大という2人の創業者によって、ラジオ修理店から始まりました。その後、トランジスタラジオやカラーテレビなどの革新的な製品を開発し、世界的なエレクトロニクス企業に成長しました。

ソニーの強みは、技術革新とブランドイメージにあります。オーディオ、ビデオ、ゲーム、映画など多岐にわたる分野での製品開発とサービス展開が評価されており、そのクリエイティブな技術とデザインが強力なブランドを形成しています。一方、ソニーには市場変動への対応と収益構造の問題が指摘されています。一部の製品ラインでは競争が激化し、利益率が圧迫されることがある。また、新製品の投資回収期間の長さや戦略の実行速度に課題があるともされています。

事業単位だけでなく、グループ単位での経営判断の速度こそが、コングロマリットの強みを発揮できるとも言えます。

参考)Forbes:不安定な事業環境で経営判断の速度を上げる

ソフトバンクグループ

ソフトバンクグループは、1981年に孫正義によって設立されました。当初はソフトウェアの卸売業者として始まり、その後、通信、インターネットサービス、投資などに展開しています。

ソフトバンクグループの強みは、なんといっても孫さんの先見の明と戦略的投資にあります。その投資先にはアリババ、ウーバーなどの有名企業が含まれており、それらの成功によって巨額の利益を上げています。通信事業も安定した収益源となっています。一方、投資先企業のリスク管理と経営の透明性にあるとされています。特に、ビジョンファンドを通じた大規模投資の一部は失敗し、財務への影響を及ぼしています。また、孫さんの天才的な判断による急速な成長の裏返しとして、その経営判断のプロセスと基準に対する市場からの疑問もあるのでしょう。

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