必聴傾聴盤紹介『ヘンデル:「アポロとダフネ」「見捨てられたアルミーダ」』

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ヘンデル「アポロとダフネ」「見捨てられたアルミーダ」/フランチェスコ・コルティ
(C)Calorine Doutre 2019
目次

『ヘンデル:「アポロとダフネ」&「見捨てられたアルミーダ」』

フランチェスコ・コルティ(チェンバロ&指揮)イル・ポモ・ドーロ
キャサリン・レウェク(ソプラノ)ジョン・チェスト(バリトン)

CD PENTATONE/キングインターナショナル  KKC6477  輸入盤国内仕様日本語解説付

ヘンデル:序曲HWV336
     カンタータ「見捨てられたアルミーダ」HWV105
     歌劇「アルミラ」組曲HWV1~序曲
     カンタータ「アポロとダフネ」HWV122
     歌劇「アルミラ」組曲HWV1~シャコンヌ、ブーレ、メヌエット、リゴードン(アフリカ人の踊り)、サラバンド(アジア人の踊り)、リトルネッロ
 今、最も注目を集めるチェンバロ奏者であり、指揮者としてもすぐれた録音を残しているフランチェスコ・コルティと彼が首席客演指揮者を務めるイル・ポモ・ドーロによるヘンデルの傑作カンタータ2編。いずれもヘンデル20代前半の作品で、野心あふれる革新的な音楽づくりが特徴となっています。コルティはこのカンタータ2編に、作曲年代を同じくする序曲を合わせ、アルバムとしての完成度を高めているのです。
 故郷のドイツ、ハレを離れ、大きな野心を抱いてイタリアへ移住した若きヘンデルがイタリアで作曲したイタリア語によるカンタータは、ストラデッラやアレッサンドロ・スカルラッティらの先輩作曲家たちの作曲技法を吸収し、登場人物の感情を鋭く表現した名作ぞろいで、当時から高い評価を得ていました。そんなヘンデルのイタリア語のカンタータの中でも傑作中の傑作とされるのが、「見捨てられたアルミーダ」HWV105。題材は、トルクァート・タッソの「解放されたエルサレム」から取られていて、カンタータの主役は物語の主要な登場人物の一人である魔女アルミーダ。強い力を持つ魔女の嘆きを歌っています。台本は、タッソのテキストをそのまま使うわけではなく、アルミーダというキャラクターに注目したものとなっているのです。当時の一般的なイタリア語カンタータは、通奏低音上で歌手が歌うレチタティーヴォから開始されるのですが、この楽曲において、ヘンデルは、通奏低音なしの2声のヴァイオリンのみを用いた伴奏の上で、歌手にレチタティーヴォを歌わせるという、聴き手の意表を突く始まりを採用しています。アルミーダの心情を反映した卓越した冒頭で、この部分だけで若きヘンデルの才能を感じることができるでしょう。
 また「アポロとダフネ」は、イタリアで計画され、イタリアを離れた後、ドイツで完成されたとされる作品で、アポロとダフネという二人の登場人物によるカンタータというよりも、「小さな歌劇」と呼べる大作です。ローマの詩人オウィディウスの「変身物語」のエピソードを題材としたもので、ダフネに熱烈な愛情表現を示すアポロとそれを拒絶するダフネのやり取りで構成されているが、場面ごとに変化する二人の感情を音楽で見事に表した名作です。
 アルミーダとダフネを歌うキャサリン・レウェクは、世界の歌劇場で活躍するコロラトゥーラ・ソプラノで、去りゆくリナルドに強烈な感情を抱き、海に嵐を起こす魔女アルミーダの心情を、アポロの情熱的なアプローチをことごとく拒否する乙女ダフネの潔癖さを、見事に描き分ける圧巻のテクニックと感情表現で歌います。アポロを歌うバリトンのジョン・チェストもアポロの自己顕示欲の強さやしつこさ、慈悲深さなどを場面ごとに巧みに描き分けています。そしてコルティ率いるイル・ポモ・ドーロの器楽陣が登場人物の感情を煽るような強烈な演奏を展開!若きヘンデルの才能あふれる野心作を圧倒的な演奏で聴くことのできるすばらしいアルバムです。日本語解説には、原文解説の日本語訳と歌詞対訳に加え、日本語独自の解説も付属。特に「アポロとダフネ」はCDとしては国内盤の現役盤はなく、過去にも1点しか発売されていないので、対訳も貴重です。

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