必聴傾聴盤紹介~『J.S.バッハ:カンタータ録音集成~ハルモニア・ムンディ・イヤーズ~/フィリップ・ヘレヴェッヘ』

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『J.S.バッハ:カンタータ録音集成~ハルモニア・ムンディ・イヤーズ~
/フィリップ・ヘレヴェッヘ』

フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
ラ・シャペル・ロワイヤル、コレギウム・ヴォカーレ・ゲント、他
録音:1987-2007年

harmonia mundi  17CD 輸入盤 2023年9月下旬発売予定

収録情報

J.S.バッハ:カンタータ録音集成~ハルモニア・ムンディ・イヤーズ~/フィリップ・ヘレヴェッヘ

[CD1]
「候妃よ、さらに一条の光を」(追悼式用カンタータ)BWV 198
「イエスよ、汝はわが魂を」BWV 78
イングリット・シュミットヒューゼン(S)、チャールズ・ブレット(A)、
ハワード・クルック(T)、ペーター・コーイ(Bs)
シャペル・ロワイヤル
録音:1987 年11月
[CD2]
「わが心に憂い多かりき」BWV 21
「されど同じ安息日の夕べに」BWV 42
バルバラ・シュリック(S)、ジェラール・レーヌ(A)、ハワード・クルック(T)、
ピーター・ハーヴェイ(Bs/ BWV 21)、ペーター・コーイ(Bs/ BWV 42)
シャペル・ロワイヤル、コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1990 年1月
[CD3]
「われらが神は堅き砦」BWV 80
バルバラ・シュリック(S)、ジェラール・レーヌ(A)、ハワード・クルック(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
シャペル・ロワイヤル、コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
「キリスト者よ、この日を銘記せよ」BWV 63
キャロリン・サンプソン(S)、インゲボルク・ダンツ(A)、マーク・パドモア(T)、
セバスティアン・ノアック(Bs)
シャペル・ロワイヤル、コレギウム・ヴォカーレ・ゲント(BWV 63)
録音:1990 年(BWV 80)、2002 年(BWV 63)
[CD4]
バスのためのカンタータ集
「われは満ちたれり」 BWV 82
「われは喜びて十字架を負わん」 BWV 56
「平安 汝にあれ」 BWV 158
ペーター・コーイ(Bs)
シャペル・ロワイヤル
録音:1991 年
[CD5]
「歓呼のうちに神は昇天したもう」BWV 43
「かれらは汝らを追放せん」BWV 44
昇天節オラトリオ BWV 11
バルバラ・シュリック(S)、カトリーヌ・パトリアス(A)、
クリストフ・プレガルディエン(T)、ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1993 年5月
[CD6]
復活節オラトリオ BWV 249
「喜べ、汝ら、もろ人の心よ」BWV 66
バルバラ・シュリック(S)、カイ・ヴェッセル(A)、ジェイムス・テイラー(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1994 年
[CD7]
「新たにうまれしみどり児」BWV 122
「笑いは、われらの口に満ち」BWV 110
「試練に耐えうる人は幸いなり」BWV 57
ヴァシリカ・イェゾフシェク(S)、サラ・コノリー(A)、マーク・パドモア(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1995 年
[CD8]
「喜びて舞い上がれ」BWV 63
「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV 61
「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV 62
シビッラ・ルーベンス(S)、サラ・コノリー(A)、クリストフ・プレガルディエン(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1996-97 年
[CD9]
「喜ばしい安息、好ましい魂の歓喜」BWV 170
「いざ、罪に抗すべし」BWV 54
「心も魂も乱れはて」BWV 35
アンドレアス・ショル(C-T)
マルセル・ポンセール(Ob)、マルクス・メルクル(Org)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1997 年

[CD10]
「いと尊き御神よ、いつわれは死なん」BWV 8
「平安と歓喜もて われはいく」BWV 125
「汝なにゆえにうなだるるや、わが心よ」BWV 138
デボラ・ヨーク(S)、インゲボルク・ダンツ(A)、マーク・パドモア(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1998 年
[CD11]
「神よ、われら汝に感謝す」BWV 29
「イェルサレムよ、主をたたえよ」BWV 119
「神よ、人は汝をひそかにたたう」BWV 120
デボラ・ヨーク(S)、インゲボルク・ダンツ(A)、マーク・パドモア(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:1999 年1月
[CD12]
「賛美を受けたまえ、汝イエス・キリストよ」BWV 91
「キリストをわれらさやけく頌め讃うべし」BWV 121
「われ汝にありて喜び」BWV 133
ドロテー・ミールズ(S)、インゲボルク・ダンツ(A)、マーク・パドモア(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
録音:2001 年
[CD13]
「ああ神よ、天よりみそなわし」BWV 2
「おお永遠、そは雷の言葉」BWV 20
「傲りかつ臆するは(人の心はみな偽るものにして)」BWV 176
ヨハネッテ・ゾマー(S)、インゲボルク・ダンツ(A)、ヤン・コボウ(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:2002 年5月
[CD14]
「泣き、嘆き、憂い、怯え」BWV 12
「深き苦しみから、我汝に叫ばん」BWV 38
「貧しき者は食らいて」BWV 75
キャロリン・サンプソン(S)、ダニエル・テイラー(A)、マーク・パドモア(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:2003 年
[CD15]
「鳴り交わす絃の相和せる競いよ」BWV 207
「鳴れ、太鼓よ!響け、トランペットよ!」BWV 214
キャロリン・サンプソン(S)、インゲボルク・ダンツ(A)、マーク・パドモア(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ
録音:2004 年
[CD16]
「たれぞ知らん、わが終わりの近づけるを」BWV 27
「われはわが幸に満ち足れり」BWV 84
「キリストこそ わが生命」 BWV 95
「ああ、いまわれ婚宴に行かんとして」BWV 161
ドロテー・ミールズ(S)、マシュー・ホワイト(A)、ハンス・イェルク・マンメル(T)、
トーマス・バウアー(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:2006-07 年
[CD17]
「イエス十二弟子を召寄せて」BWV 22
「汝まことの神にしてダビデの子よ」BWV 23
「主イエス・キリスト、真の人にして神よ」BWV 127
「見よ、われらエルサレムにのぼる」BWV 159
ドロテー・ミールズ(S)、マシュー・ホワイト(A)、ヤン・コボウ(T)、
ペーター・コーイ(Bs)
コレギウム・ヴォカーレ・ゲント
録音:2007 年11月

 1970年代のアーノンクールとレオンハルトによるバッハのカンタータ全集に参加したことで、その実力が認められ、一躍、バッハなど宗教曲演奏の第一線のグループと評価されるようになったフィリップ・ヘレヴェッヘとその手兵コレギムウム・ヴォカーレ・ゲント。1980年代後半に入ると、フランスの名門レーベル、ハルモニア・ムンディと契約し、数多くの作品を録音していきます。フランス・バロックのグラン・モテとともに、その主要なレパートリーとなったのが、バッハの宗教作品でした。この17枚組のCDには、ヘレヴェッヘがハルモニア・ムンディに残したバッハのカンタータにスポットを当て、48作の録音が収録されています。
 現在でもヘレヴェッヘは自らのレーベルφ(Phi、フィー)を設立し、バッハの主要な音楽を積極的に録音していますが、ハルモニア・ムンディ時代の録音、特にその初期の録音にはバッハ演奏史に残る輝かしい演奏が含まれています。個人的なオススメにはなりますが、そうした例をこのBOXに収録された録音の中からご紹介していきます。
 ヘレヴェッヘのバッハ録音の中でもいまだに最高峰と呼んでふさわしい録音はカンタータ第21番「わが心に憂い多かりき」BWV 21でしょう。BWV21は、バッハが最も愛したカンタータの一つと言え、初演以降、一部改訂を加えながら、バッハの生前に何度か演奏されています。機会音楽としての役割があった教会カンタータの中にあって、いくどかの再演は異例ともいえるものですので、バッハがいかにこのBWV21を好んでいたかが分かります。規模もカンタータの中では演奏時間約40分の2部制と大規模なものであり、バッハの青年期の傑作とされています。ヘレヴェッヘはこのBWV21を1990年に録音していますが、この時期はハルモニア・ムンディで、すでにマタイ受難曲、ヨハネ受難曲、モテットなどを録音を終え、高く評価されていた時期であり、まさにヘレヴェッヘがそのキャリアにおいて一つの頂点を迎えようとしていた時期でした。優れたピリオド楽器奏者が集い、共演を重ねたすばらしい独唱者たちともに阿吽の呼吸で演奏できるようになっていたのです。BWV21の演奏では、おそらく1723年のライプツィヒでの演奏の際に使用された楽譜を基にした演奏で、その校訂譜も最新の校訂譜ではない楽譜を使用しての録音と思われますが、演奏家らはそうした古さは感じられません。ライプツィヒ稿では、独唱と合唱部分を設けた合唱の扱いが特徴的で、合奏協奏曲のようにその対比が特徴となっていますが、ここでは、独唱者に当時のバッハ演奏において最高峰と言って過言ではない、バルバラ・シュリック、ジェラール・レーヌ、ハワード・クルック、ピーター・ハーヴェイが参加しているので、その効果は絶大なものとなっています。特にフーガ部分での各独唱者のバランスはすばらしく、いかにヘレヴェッヘの意図が独唱者一人一人に浸透し、かつ独唱者がその意図に応える高い技量を有していたかが垣間見えます。またこの時代にすでに完成されていたピリオド楽器の美しい響きと、合唱に寄り添った演奏、そして精度の高い合唱団の歌唱と、全編が聴きどころであり、ヘレヴェッヘのバッハ録音の中でも特に強い輝きを持つ録音となっています。単発ではすでに廃盤となって久しい録音ですので、このBWV21を聴くだけのためにもこのセットを購入する価値があると私は考えています。
 また初発売時にBWV21とカップリングされていたBWV42はこのBOXでも同じディスクに収録されていますが、これはなんといっても長大なアルトのアリアが聴きもので、天才カウンターテナー、ジェラール・レーヌの圧巻の歌唱を聴くことができます。ドイツ語の言葉のニュアンスを音楽に乗せて伝えながら、その類を見ない美声を聴かせるレーヌのすごさを余すことなく楽しむことができます。ルターのコラールを基にしたBWV80では、BWV21とほぼ同様の独唱者(バスのみピーター・ハーヴェイではなくペーター・コーイ)が参加し、これも最新校訂譜ではない稿の楽譜を使用していますが、いまでもトップクラスの録音と呼べるすばらしい録音です。
 バスのためのカンタータでは、ヘレヴェッヘのこのころの録音にはなくてはならない盟友のバス歌手ペーター・コーイ、そしてアルトのためのカンタータでは、当時きっての実力派カウンターテナー、アンドレアス・ショルがそれぞれすばらしい歌唱を披露しています。アルトのためのカンタータでは、ヘレヴェッヘと長年共演するオーボエの名手、マルセル・ポンセールの妙技を聴くこともできます。
 その他の録音でも、クリストフ・プレガルディエン、マーク・パドモア、ヤン・コボウ、キャロリン・サンプソン、ダニエル・テイラー、ドロテー・ミールズといった第一級の歌手が独唱者として参加し、その質の高い演奏を支えています。
 このBOXセットに収録されたヘレヴェッヘによるバッハのカンタータ録音は、進歩の早いピリオド楽器演奏録音の中にあって、録音から時間が経過した今でも焦ることのない輝きを放ち続ける名盤ばかりです。バッハの演奏のスタンダードとして長く聴き続けられるであろうヘレヴェッヘのハルモニア・ムンディ時代のバッハのカンタータ録音をぜひまとめてお手元に!(須田)

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