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芦雪あれこれ(富士越鶴図) [芦雪]

その八 富士越鶴図

鶴1.jpg

芦雪筆「富士越鶴図」一幅 絹本墨画淡彩 個人蔵
一五七・〇×七〇・五cm 寛政六年(一七九四)作

 富士山は不死の山に由来し蓬莱山に見立てられる。この富士山は、寛政六年(一七九四)の広島滞在時の逗留先、広島城下随一の呉服商といわれた富士屋に伝えられたている作品の一つで、その屋号の「富士屋」の因んでのものであろう。
 そして、鶴は蓬莱山につきもので、この「富士越鶴図」は、「富士(蓬莱山)・鶴」、そして、グライダーのような鶴の右端の上の、「旭日(朝日・太陽)」の三点セットの吉祥の画題なのである。
 縦長の画面の上方に黒っぽい雲が右から左に流れ、下方には白雲が下から上へと沸き立って、尖った三角錐のような富士山が高く屹立している。その右の稜線の中ほどに旭日が輝き、あたかも、その旭日から誕生したような、丹頂鶴の一群が、垂直方向の富士山を水平方向に横切ろうとしている。
 ここで、高く屹立している富士山の形状を、この垂直方向の画面で、上に上にと聳え立つ雄姿の下方を、すっぽりと棚引く白雲で覆い隠すことによって、その高さを強調する技法などは、例えば、「那智滝図」の滝壺付近の下方の余白処理などの応用でもあろう。
 「那智滝図」では、「人(『小』」)と滝(『大』」)との『大と小』との対比の演出」によって、那智の滝の全容を強調したのであった。ここでは、その「大と小」ではなく、「雲の形状」「旭日の位置」などにより、富士山の屹立している雄姿を強調していることになる。
 さて、この「富士越鶴図」の見所は、その垂直方向の「富士山」に、水平方向の「丹頂鶴の一群」を配したところが、その最大のポイントということになる。
 ここで、芦雪の師の応挙の、空前絶後の大きさを誇る「大瀑布図」の、その「滝の部分は垂直(方向)に、滝壺の部分は水平(方向)になる、応挙の『空間マジック』」」を、芦雪は、この「富士越鶴図」に因って、縦長の「掛軸」ものの垂直方向の画面に、「屏風絵・襖絵・絵巻」ものの水平方向を加味するという、新たなる芦雪の「空間マジック」を現出しているということを強調して置きたい。

芦雪・富士鶴図2.jpg

芦雪筆「富士越鶴図」の「部分図」(「旭日と丹頂鶴の一群)

 『江戸の絵を愉しむ(榊原悟著)』では、これまでの「垂直方向」(縦長)と「水平方向」(横長)の二次元の世界の他に、「動きを表す=反復効果」という、新たなる「鑑賞視点」を提示している

「富士山の向こうからこちらへ、鶴が飛んで来る。一羽、二羽、三羽・・・と、隊列を組んでいるようだ。(略) このグライダーような『かたち』のくり返しが、一羽の鶴が飛んでくる航跡を表しているようにも見える。同形の反復とは、これである。まるでアニメーションだ。」

 ここに、応挙が「大瀑布図」で試みた、「垂直方向(壁面=滝の落下部分)」と「水平方向」(床面=滝壺の部分)が、一つの「掛幅画」(「縦」に「ひらく」=垂直画)に、異次元の「絵巻・屏風画・襖画」(「横」に「ひらく」=水平画)だけではなく、「動きを表す=反復の効果」をも、この「富士越鶴図」で、試行したということになる。
 しかし、この「動きを表す=反復の効果」は、「富士山の向こうからこちらへ、鶴が飛んで来る」という、いわゆる「遠近法」の「向こうからこちらへ」の「奥行」と一体となって、この「視覚的トリック」が実現されることになる。
 ところが、この「富士越鶴図」では、「遠くのものは小さく、近くのものは大きく」という「遠近法」は、手前の「鶴」、中間の「富士山」、遠方の奥の「旭日」の関係で為され、「鶴の群れ」は、その遠近法に因らず、「同形の反復」という意表を突いた手法を併用したところに、芦雪の、この「富士越鶴図」で試行された「空間マジック」「「造形の魔術」「視覚トリック」が存在するということになろう。
 そして、ここでは、「縦」と「横」との二次元だけでの世界ではなく、「奥行」を伴っての三次元の造形的な世界と、さらに、スローモーションビデオを見るよう「時間制」などをも有している、多種多様な趣向の上に成り立っている世界と言えよう。

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