マーケター集団・刀を率いて、数々のテーマパークを成功に導いてきた実業家の森岡毅氏。そんな森岡氏が長年追い求めてきた1つの目標に、ついに到達しようとしている。2025年に予定している沖縄の新テーマパークの開業だ。施設の名は「ジャングリア」。沖縄を起点として日本の経済発展を見据える森岡氏に、新テーマパークの勝ち筋を聞いた。

※日経トレンディ2024年2月号より

マーケター・実業家 刀・CEO 森岡 毅氏
マーケター・実業家 刀・CEO 森岡 毅氏
マーケター・実業家 刀・CEO 森岡 毅氏
1996年神戸大学経営学部卒。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)を経て2010年、ユー・エス・ジェイに入社。17年にマーケティング会社・刀を設立。独自のノウハウ「森岡・刀メソッド」を武器に、様々な分野でプロジェクトを推進中。「日本最強マーケター」の異名を取る
テーマパーク無双の主な軌跡
・2010(森岡氏入社)~16年 USJ(大阪市)
経営の危機に瀕していたパークを僅か数年でV字回復させ、入場者数世界第4位のテーマパークにまで押し上げた
・2017年~ 西武園ゆうえんち(埼玉県所沢市)
70周年を迎える施設の「古さ」を、昭和ノスタルジーがもたらす「幸福感」という価値に転換。21年の新装開業を手掛け、V字回復に導いた
・2018~23年10月 ネスタリゾート神戸(兵庫県三木市)
経営破綻した年金保養施設の再生を支援。20年に黒字化を達成。22年に経営権を共同取得。23年10月、サムティに事業承継した
・2022年10月~ ハウステンボス(長崎県佐世保市)
ハウステンボス社と協業し、全国区となる飛躍的成長を目指す。約1年で入場者はコロナ禍前の水準に回復。数年以内に年間300万人集客目標
・2024年3月、開業予定 イマーシブ・フォート東京(東京・お台場)
刀の100%自社事業。22年3月に閉館した商業施設「ヴィーナスフォート」を、イマーシブエンタメを集積した世界初の「聖地」にすべく開発中
・2025年夏、開業予定 ジャングリア(沖縄県今帰仁村、名護市)
観光客が少なかった沖縄北部に、刀が主導し建設中。アジアの富裕層も取り込む狙い。大きくは沖縄を起点に日本の観光産業の変革を目指す

興奮と贅沢感、刺激と癒やし。人の相反する“本能”を満たす

――USJ時代からの悲願だった、沖縄のテーマパーク「ジャングリア」の開業がいよいよ近づきました。

森岡 刀設立の大きな目的の1つが沖縄北部にテーマパークを開くことでした。事業費は約700億円。我々のようなベンチャー企業がこれほど巨額の資金を調達するのは容易ではなかったし、コロナ禍やウクライナ戦争も障壁となりました。しかしハワイを超えるポテンシャルを持つ沖縄を元気にし、沖縄を起点に日本の産業構造をも変えたいという目的に賛同された皆さんのご支援で、ようやくここまで来れました。

120haの建設用地を確保。第1期は60haで開業。ゴルフ場跡地の高低差や池を生かして建設中。注)画像はイメージ
120ヘクタールの建設用地を確保。第1期は60ヘクタールで開業。ゴルフ場跡地の高低差や池を生かして建設中。注)画像はイメージ

 地元の方々にも、USJの頃とは全く違うレベルで事業内容を理解いただいていると思います。先の戦争で沖縄が払った犠牲について、私たちが本当に分かることは難しいかもしれません。しかし想像力を持って立ち向かい、今現在の沖縄がアジア諸国に近い地政学的な特徴を生かして豊かな土地になっていく道筋を考えていきたいのです。

 今後日本の人口が減っていけば、当然、GDP(国内総生産)は下がります。しかし日本の人口が1人減っても、インバウンドが8人増えれば経済的に補えるという試算があります。それほど観光業の経済波及効果は大きく、将来の食い扶持として極めて重要です。これが私の言う「沖縄を日本の観光産業の要にして、日本の産業構造に変革をもたらす」の真意であり、ジャングリアの使命です。

テーマパークを起点に沖縄を日本の観光の要に!

【沖縄新テーマパーク 構想年表】

2010年末 USJの運営会社、ユー・エス・ジェイ(以下、すべてUSJ)で森岡氏が発想。11年、検討開始。12年、プロジェクト発足。当時は美ら海水族館の隣にテーマパークを造る予定だった
2015年春 USJの運営会社が沖縄進出の方針を表明。同年夏、USJの第2のパークとして当時の社長が沖縄県に支援を正式要請
2015年11月 USJの親会社がゴールドマン・サックスからコムキャストに交代。16年5月に計画が白紙に戻る
2016年末 森岡氏が退任。17年に刀を設立。以後、USJで沖縄新パークの計画に関わった同僚も順次入社
2018年6月 新テーマパーク準備会社ジャパンエンターテイメントを、沖縄を代表する企業などと設立。筆頭株主は刀。代表にはUSJでの沖縄パーク構想のプロジェクトリーダーだった、刀の加藤健史氏が就任
2019年9月 沖縄本島北部の今帰仁村と名護市にまたがるゴルフ場の約120ヘクタールを確保。第1期テーマパークの建設用地は約60ヘクタールに決定
2020年1月 刀が30億円を追加出資し、プロジェクトを前進させる
2020年~22年 今帰仁村・名護市と北部テーマパーク事業に関する包括連携協定を締結。沖縄ブランド強化に向けて沖縄県との連携協定を締結
2022年 約700億円の資金調達にメド
2023年2月 建設工事が本格スタート

沖縄ブランド強化に向けて沖縄県との連携協定を締結
沖縄ブランド強化に向けて沖縄県との連携協定を締結
(上)2020年の現地視察。ジャングリアの運営会社・ジャパンエンターテイメントの加藤健史氏と森岡氏。(下)建設地となった旧オリオン嵐山ゴルフ倶楽部
(上)20年の現地視察。ジャングリアの運営会社・ジャパンエンターテイメントの加藤健史氏と森岡氏。(下)建設地となった旧オリオン嵐山ゴルフ倶楽部
(上)森岡氏は沖縄での自転車レースに参加。(下)やんばるの魅力を実感。ネスタリゾート神戸での経験とノウハウの蓄積を生かす
(上)森岡氏は沖縄での自転車レースに参加。やんばるの魅力を実感。(下)ネスタリゾート神戸での経験とノウハウの蓄積を生かす
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