日経エンタテインメント!が次代の“主役”と期待されるZ世代をピックアップする本連載。今回は、2023年12月3月より放送中のドラマ『仮想儀礼』(NHK BS・NHK BSプレミアム4K/日曜22時)に出演中の川島鈴遥(かわしま・りりか)。10年に8歳でドラマデビューを果たし、近年は『ある船頭の話』(19年)や『ぜんぶ、ボクのせい』(22年)などの映画で個性的なヒロインを演じ、さらに注目度が増す演技派女優だ。

川島鈴遥(かわしま・りりか)
2010年 『特上カバチ!!』でドラマデビュー。以降数々の作品で、桐谷美玲、北川景子、内山理名、中山美穂ら人気女優が演じるキャラクターの少女時代を務める。
2015年 『フジコ』上原早季子役
2019年 『ある船頭の話』ヒロイン・少女役
2022年 『死刑にいたる病』久保井早苗役、『ぜんぶ、ボクのせい』ヒロイン・詩織

23年は5月に現在所属のレプロエンタテインメントとマネジメント契約したことを発表。ドラマ『仮想儀礼』は移籍後第1弾作品となる

 『仮想儀礼』は、ある日突然無職になった正彦(青柳翔)と誠(大東駿介)が、金もうけのためにでたらめな宗教「聖泉真法会」を立ち上げたことから物語が始まる。ある出来事を機に「聖泉真法会」は飛躍的に拡大する一方、正彦と誠は思いもよらぬ災難に巻き込まれていく。川島が演じるのは、母親の束縛から逃れるべく上京した大学1年生の伊藤真実。「聖泉真法会」をかけがえのない場所としつつも入信はしない、客観的視点を持つキャラクターだ。

 絶対に真実役を勝ち取りたいと思ってオーディションに挑んだんですが、環境が変わったばかりの時期で、1年ぐらいお芝居をしていないタイミングでもありました。オーディションでは、監督のアドバイスを受けながら序盤の救いを求めるシーンを演じました。最後に作品に対しての思いと、「絶対に一緒にやりたいです」という気持ちをお伝えしたんです。「これで落ちちゃったら、役に合っていなかったんだな」と、悔いなく諦められると思っていたのですが、役をいただくことができました。大人になってから初の連続ドラマのレギュラーとも言えますし、物語のなかでほぼ唯一、宗教を客観的に見て、その上で当事者として感じることを伝えていく重要な役まわりなので、任せていただけたことがすごくうれしかったです。だけどやっぱり、今の私に務まる役なのかという不安な気持ちもありました。

ドラマ『仮想儀礼』は、NHK BS・NHK BSプレミアム4Kで日曜22時に放送中。新BS「プレミアムドラマ」第1弾として制作されている。「宗教を作ろう。食っていくために」。無職の男2人が、やけっぱちで立ち上げた“サービス業”――それは「宗教」だった。青柳翔と大東駿介がダブル主演
ドラマ『仮想儀礼』は、NHK BS・NHK BSプレミアム4Kで日曜22時に放送中。新BS「プレミアムドラマ」第1弾として制作されている。「宗教を作ろう。食っていくために」。無職の男2人が、やけっぱちで立ち上げた“サービス業”――それは「宗教」だった。青柳翔と大東駿介がダブル主演

 現場に入ってみなさんのお芝居を間近で見ているうち、その場にいて感じた気持ちを優先して演じるほうがよいのではと思うようになりました。例えば「聖泉真法会」の集会所のシーン。苦しい場面はみんなで息苦しくなるし、楽しいシーンはみんなでハッピーな気持ちになる。ある種、宗教の疑似体験のように感じています。その空間を、真実ちゃんとしても私としてもどう感じているのか、常に意識するようにしています。

 真実ちゃんについて、最初は自分の意志を伝えることができない弱い女の子をイメージしていたんですが、今の私が思う真実ちゃんは、心優しい繊細な女の子。強い意志を持っているけど表に出せないのは、周りに受け止めてくれる人がいなかったからなんじゃないかなと思います。そうした弱さと強さ、優しい部分を出せたらと思っています。

大人になるつもりで臨んだ役

 ディスカッションを繰り返し、「決まった結末に向かわなくてもいいのではないか」というほど、せりふやシーンの雰囲気が変化するという現場。監督や先輩の役者が意見を交わすなか、自分の意志を伝えることに感じる「怖さ」も、真実の心境に近いのではと感じている。また「自分の意見を伝える」ことこそ、本作で川島が達成したかったことだと明かした。

 自分の意見を伝えるってやっぱり大切なことだなと感じて、それを実践しようと思って挑んだ作品なんです。作品や役への思いを監督に伝えて、疑問に思ったことはちゃんと聞く。今までほとんどしてこなかったことですが、今回は大人になるつもりで、役者として成長したいと頑張っています。

 正彦役の青柳さんは、声にすごく深みがありますよね。教祖としての長ぜりふも、耳に届くというよりは芯に響く。骨まで震えるような声に、共演者みんなで「心に染みる~」なんて言いながら、楽しく撮影しています(笑)。真実ちゃんが正彦さんに対してどんな感情を抱いているのか、今後どんな会話をするのかは、私も楽しみな部分です。

川島が演じる伊藤真実は、入学した大学で既成教団の「恵法(えほう)三倫会」の執拗な勧誘を受け、そこから逃げる形で「聖泉真法会」の集会所に飛び込んできた大学1年生。「聖泉真法会」に居場所を感じながらも入信はしないという役どころ
川島が演じる伊藤真実は、入学した大学で既成教団の「恵法(えほう)三倫会」の執拗な勧誘を受け、そこから逃げる形で「聖泉真法会」の集会所に飛び込んできた大学1年生。「聖泉真法会」に居場所を感じながらも入信はしないという役どころ

 大東さん演じる誠さんは、コメディ要素を担いつつも宗教というものを真実ちゃんとは異なる目線で客観的に見ている、すごく難しそうな役だなと思います。「生きるって何だと思う?」といった深い話をされることもあって、芝居や人生に対して熱い思いを持って、常に考えながら生きていらっしゃる方なんだなと感じます。

 私も、「どうしてこうなってしまったんだろう」という過程を想像したり調べたりすることが好きなんです。常に疑問を持っているのは多分、職業柄だと思うんですけど、真実(しんじつ)は何なんだろうということをこれからも見つめて生きていきたい。今回、本質を見つめる重要な役を楽しみながら、覚悟を持って挑んでいます。

 私個人としては「宗教は悪いものじゃない」ということを伝えたい作品なのではと感じています。その人にとって、宗教は息がしやすい場所なのかもしれないと私は思うので、宗教を見つめ直す作品になればうれしいです。とはいえコメディ要素もありますし、身構えず気軽に見てほしいです。きっと幅広い世代の方に楽しんでいただけると思います。

 芸能界に入ったきっかけは、親戚の知り合いだった前事務所関係者に声をかけられたこと。女優に興味はなかったが、唯一CMで見て知っていた女優が所属する事務所だということに縁を感じた。転機として、子役から女優への転換期に出会った尾野真千子、そして「師匠」と呼ぶオダギリジョーとの出会いを挙げた。

「師匠」と呼ぶオダギリジョーとの出会い

 小学6年生か中学1年生ぐらいの頃、オーディションに全く受からなくなってしまったんです。落ちた作品に同世代の子が出ているのを見ると悔しいと思うけど、どうしたらいいのか分からない時期があって。そんなときに出演したドラマ『フジコ』(15年)で、尾野真千子さんの体当たりのお芝居を目の当たりにしたんです。私も、感じたままにお芝居がしたい! と思いましたし、尾野さんのお芝居を受けとって演じる感覚が少し分かりました。初めて周りの人に「あの作品、すごかったね」と言っていただいてすごくうれしかったし、お芝居を本格的にやりたいと思いました。女優として尊敬する姿を背中で見せてくださった尾野さんには、今も憧れています。

2019年にオダギリジョーの初の長編映画監督作品『ある船頭の話』でヒロインに抜てきされ、そこで多くのことを学んだという
2019年にオダギリジョーの初の長編映画監督作品『ある船頭の話』でヒロインに抜てきされ、そこで多くのことを学んだという

 そこから、「役として何ができるのか」を意識するようになって、少しずつオーディションにも受かるようになって。でも「もっともっと」「あと何を勉強したらいいのか」と思っているときに、映画 『ある船頭の話』(19年)のヒロイン役をいただいたんです。撮影前に監督・脚本のオダギリジョーさんから演技レッスンを受けて、作品に入る前に役をつくるということを教えていただきました。

 そして、日常生活においての自分の考えが、役者をやる上で重要なんだと学んだんです。自分の意見をはっきり述べたり、仕事に携わる方たちと対話をしたり。それに、体調や気持ち、呼吸1つでお芝居は変わってくるので、成長するためには自分を知ることが大事だと思っています。

 『ぜんぶ、ボクのせい』(22年)で演じた詩織ちゃんは、描かれない部分が多い、自由度の高い役でした。演技指導なしで大きい役をやらせていただくのは初めてでしたし、主演の優太くん(白鳥晴都)を支える役でもあったので、難しかったなと今は思います。相手に何をしたいのか、何を言わせたいのかだけを考えて演じた、挑戦した役でした。成長できたと思いますが、満足は難しい(笑)。ただ、作品の持つ力を伝えられたとは思うので、そこはちょっとだけ自分を褒めて、直したいところは反省して、次につなげようという思いです。

 その後大学3年生になり、何を伝えたい役者なのかを見つめ直したという。彼女が導き出した結論とは。

陰のある役が多いので、暗い印象を持たれがちだが「朝ドラや青春学園もののヒロインにも、もちろん憧れています」と笑う
陰のある役が多いので、暗い印象を持たれがちだが「朝ドラや青春学園もののヒロインにも、もちろん憧れています」と笑う

 いろいろ考えて、やっぱり今はただただお芝居をしていたいという思いが強いんだと感じています。怪物のような人たちがいる世界で戦っていかなきゃいけないけど、好きな気持ちは変わらない。誰かに勝ちたいとかではなく、好きな気持ちを大切に、女優を続けていきたいという気持ちになったんです。

 お芝居したいという気持ちと作品の持つ力、それを世の中に届けて、誰かが少しでも明るい気持ちになってくれたら、それだけで幸せだなって思います。だからジャンルを絞らずいろいろな作品に出て、いろいろな力を与えられる女優さんになりたいです。

 今まで陰のある役が多かったので、暗い印象を持たれやすいんです(笑)。朝ドラや青春学園もののヒロインにはもちろん憧れています。まずは明るい部分の私をどんどんアピールするところからかなと思っています(笑)。直接会うと「そんなに明るいんだね」と言っていただくことも多いんですよ。今のまま、純粋なまま突き進んでいけたらなって思っています。

 最近はまっているエンタテインメントは音楽。役に入る時には、その役に似合うクラシック音楽を聞き、自分を役に染める時間をつくるのだという。

 普段の私は宇多田ヒカルさんやHYさんがすごく好きなんですけど、役に入る時に聞くのはクラシックなんです。真実ちゃんだと、ベートーヴェンの『月光』第1楽章。聞いて「よしっ」と呼吸を整えると、ぴしっと背筋が伸びるんです。

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(撮影/中村嘉昭 衣装協力/UN3D.)

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