タレント、モデルとしても活躍する小嶋陽菜氏が企画・プロデュースを手掛けるファッションブランド「Her lip to(ハーリップトゥ)」が2023年6月20日に設立5周年を迎えた。スタッフ数名で始めたアパレル業は、5年の間にビューティ、ランジェリーと扱うジャンルを広げ、今は年間500アイテムを送り出すまでに成長。スタッフ総数も約100名を数える規模となった。これまでの歩みと将来の展望などを聞いた。
2020年1月 小嶋陽菜氏、戸高純氏によって「heart relation」設立
2020年7月 ビューティブランド「Her lip to BEAUTY」発足
2022年2月 新経営体制に移行。小嶋氏は代表取締役CCO(Chief Creative Officer)就任
2022年7月 コンセプトストア「House of Herme(ハウス オブ エルメ)」オープン
2022年9月 ランジェリーブランド「ROSIER by Her lip to(ロジア バイ ハーリップトゥ)」をローンチ
CCOとして扱うアイテムとSNSはすべてチェック
女性アイドルグループ・AKB48の元メンバーであり、タレント、モデルとして活躍する小嶋陽菜氏。しかし、ここ数年は「経営者」としての活動が中心にある。2018年6月20日に自身がプロデュースを手掛けるファッションブランド「Her lip to」をローンチし、オンラインでの販売を開始した。当初は所属する芸能事務所内で展開していたが、事業の拡大に伴い起業を決意。20年に共同創業者となる戸高純氏とともにブランドの運営会社「heart relation(ハートリレーション、東京・渋谷)」を設立した。さらに、22年には経営体制を刷新、以降、小嶋氏は代表取締役CCO(Chief Creative Officer/最高クリエイティブ責任者)を務めている。この間、同社ではアパレルに加え、ビューティ、ランジェリーと扱うジャンルは拡大の一途。組織も社員数が約60人、スタッフ総数は約100人を数える規模にまで成長している。
――現在、小嶋さんは代表取締役CCOという役職。実際に担当されている業務は?
小嶋陽菜(以下、小嶋) 会社で扱うすべての商品のクリエイティブや、ブランドの見え方について意思決定するというのが私の役割ですね。今はアパレル関連の商品が年間に約400種類、ビューティやランジェリーも合わせると500近いアイテムを出していますが、それは商品開発の段階から最終の仕様の決定まですべてを当たり前に見ています。また、ブランディングという点ではお客様と関わる部分も重要なので、Her lip toから発信するInstagramのストーリーやTwitter、YouTubeなどSNS(交流サイト)のクリエイティブも全部チェックしています。だから、普通に週5で会社のメンバーと一緒に仕事をしていますよ(笑)。このブランドは「(私が)今着たい服」というのをコンセプトにスタートしているので、今でもものづくりに関わるところは私が責任を持つという体制ですね。
――では、この5年の成長は「小嶋さんのやりたいこと」が広がってきた結果ということでしょうか?
小嶋 そうですね。もともとは私がいろんな場所へ旅に行って、ワンピースを着た写真をSNSに投稿すると、すごくインサイトが集まるのを感じていたんです。なので、最初は特別な場所に着ていくドレスをメインにスタートしました。ただ、気に入ったお洋服を着るときにはボディ(肌)の質感も大事だし、演出の一つとして香りも欲しい。そうしたビューティアイテムも欠かせないものでした。また、ランジェリーは昔から大好きで、過去にモデルとしてお仕事をさせていただいていたので、それで私に関心を持ってくださった方もいます。お洋服を美しく着るためのランジェリーをいつかプロデュースしたいという気持ちがありましたね。
お洋服にしても、会社のメンバーが増えたのでできるようになったことがたくさんあります。例えば、商品をお送りするときの梱包資材。届いたときに喜んでもらえるように段ボールをこういう色にしたいとか、コレクションをしてもらえるようにハンガーはオリジナルのものになどと考えていたんですが、ロットが万単位でないとできないなどの制約があって。私自身、ネットショッピングを毎日のようにしているくらい本当にお買い物が好きなんですけど、例えば海外のサイトだと「届いたらがっかり」みたいなことが多かったので、自分のブランドではサプライズやエクスクルーシブな体験をしてほしいという気持ちがスタートのときからありました。私の「こういうものがうれしい」「これをやりたい」が、会社のメンバーが増えていくなかで、一つずつ実現できるようになってきたという感じです。
――しかし、ブランドができてわずか5年でアイテム数はゼロから年間500へ。そのスピード感はすごいですね。
小嶋 ボディケアアイテムは企画から発売まで2年近くかけたり、ものづくりの部分はしっかりと準備をしているんです。ランジェリーも、まずチームを作るところから始めて、やっぱり2年くらいかかっていますし。
ただ、その上で方向転換は柔軟にやってこられたのかなとは思いますね。そもそも、旅先で楽しむドレスをメインにしようと会社を立ち上げて、オフィスの契約をしたタイミングで新型コロナウイルス禍になり、共同創業者の戸高と2人で「どうしよう」と頭を抱えたところからスタートしているので(笑)。そのなかで、いくつか準備していたビューティアイテムのうち、「日常的にマスクをするから“リップ”は中断しよう」とか、「“ボディケアアイテム”のテクスチャーは改良しよう」などと一つひとつ判断しながら進めてきました。
あのコロナ禍の時期にいろいろと模索をして今につながっていることとして、ビューティアイテムのコンセプトを「セルフケア=セルフラブ」としたことがあります。もともと自分の中にあったキーワードの一つではあったのですが、「自分を大切にすることって大事だよね」ってよりみんなが実感した時期と重なったので、Her lip to BEAUTYのプロダクトを通じてコンセプトとともに広がっていく様子を実感できました。一方で、「Her lip to」のお洋服を着てお出かけした気分になる特別な場所があれば喜んでもらえるんじゃないかと、人数を制限した完全予約制のプライベートサロンやショッピングイベントを開催したんです。ただの洋服を買うだけのお店じゃなくて、世界観を体験してもらう場所としてすごく大切にしてきました。その経験の積み重ねから、コンセプトストア「House of Herme」という実店舗も作りました。
エンタメ出身だからサプライズを提供したい
――ご自身がやりたいことがベースにありつつ、お客さんが何を求めているかもしっかりと見ているように感じます。
小嶋 「楽しんでもらうためにどうしたらいいか」というのは、常に考えていますね。ただ洋服を作るだけじゃなくて、プラス何か面白くしたい。そういう普通のアパレルじゃないようなことを楽しんでもらえるようにしたいなって思っています。
振り返れば、AKB48の時代に秋元(康)さんがよく「予定調和にならないように」っておっしゃっていて、それが自分の根本にあるのかもしれません。ドレスを作りながら、ピザ屋さんとのコラボやアフタヌーンティーを楽しめるイベントを開催するなど、ちょっと慣れてきたかなと思ったら、何か変化を差し込んだりしています。今年だと、自分がずっと好きだった浴衣を販売したりとか。そういう変化を楽しんでもらいたいっていうのは、自分がエンタメ出身だからこそできているのかなと思います。
アイドル時代の経験は、このお仕事に全部生きているんですよ。体力も、忍耐力も、責任感も、ストレス耐性も(笑)。ずっとファンの皆さんとコミュニケーションをしてきたので、「こういうことを求められているんじゃないかな」といったことを自分は感じられる気がします。サプライズがあると、お客様はもちろん、チームのメンバーもすごく楽しんでくれるのもうれしいですね。
――なるほど。ちなみに、不評だったサプライズはないんですか(笑)?
小嶋 楽しんでほしいという気持ちでサプライズを企画するのですが、サプライズを盛り込みすぎると情報過多であまり届かないみたいな気づきはありましたね。去年のクリスマスシーズンのとき、アパレル、ビューティ、ランジェリーと3つのブランドで毎日のようにサプライズを出してしまったんです。一つひとつはクオリティーの高いものなのですが、情報が多くお客様もどれが何だか分からないみたいなことになってしまった気がして、そこの整理はしないといけないのと、やりすぎないことも大切だと学びました。
学びといえば、ビューティやランジェリーなど新しいジャンルに挑戦したときもそうですが、今は新しいことを知るのが本当に楽しいんですよ。アイドル時代は準備されたステージが既に出来上がっていて、そこに立てばいいという状態でした。その舞台がどう作られたとか、どんなスタッフの方が関わっているのかとか、深くは分かっていなかったと思います。そこから今は自分自身がプロデュースする側となり、ブランドも分からないところからスタートしましたが、日々の学びが楽しいし、苦労とはまったく思っていないですね。
そんなふうに自分が変わったのは、やっぱり会社をつくって自分のチームを持ったという責任感があるからだと思います。自分の会社をつくって自分についてきてくれるメンバーがたくさんいるので、すべてをちゃんと理解してコミュニケーションを取っていかないとと、自然になってきましたね。
――ブランドは5周年を迎えて、次の強化ポイントは?
小嶋 コロナ禍を経て、オフラインでの体験をより特別なものにするものづくりに注力してきましたが、今度はオンラインでも今までにない体験をお届けできるようにと、今いろいろと考えています。コロナが落ち着いてきてお出かけできるようになった今だからこそ、「Her lip to」のベースである、最初の始まりであるECサイトでのお買い物体験をよくしたいなって。
ただサイトでお洋服を買うだけじゃなく、それ以上の体験をご提供できたらなと思い、今、いろいろと開発をしています。近い話だと9月に「Club Hers(クラブ ハーズ)」という、購入してくださる方に特典がつくようなリワードプログラムを開始したり、オンラインの購入体験もより充実させたいなと思っています。
こうやって実現したいことの規模が広がっていくなかで、少しずつ権限を委譲することにも取り組んでいます。既に今も採用だったり、バックオフィスの部分だったりとかは任せていて。私自身は、お客様にダイレクトに伝わるものづくりの部分により集中できる体制をつくっていきたいと考えています。
5年の間に組織の形態も大きく変わり、今は権限委譲を進めているという小嶋氏。来週公開の後編ではheart relationの共同経営者である戸高純氏とともに、「女性9割」「平均年齢28歳」という組織をどう円滑に動かしているのか、採用や人材育成、コミュニケーションなどの視点から語ってもらう。