IT活用をサービスで支援 デジタルマーケティングも有望

新しい技術が登場したとき、使いこなすためには人がかかわるサービスがかぎになる。トランスコスモスは、コールセンター事業などで1600億円を超す連結売上高を上げるまでになった。消費者のインターネット利用がこれまで以上に広がると確信し、デジタルマーケティング事業に注力する。中国での事業展開も進めている。

さまざまなサービス事業を手掛けていらっしゃいます。

 当社ではコンタクトセンターと呼んでいますが、最も売り上げが大きいのはコールセンターの事業です。細かな売上高は公表していませんが、グループ全体の半分程度を占めます。

 これに続くのが、インターネットに関連するデジタルマーケティング事業です。Webサイトの制作や運用、アクセス解析などを含めた企業へのマーケティング支援などが主な内容で、連結売上高の10数パーセントになります。

 このほかに、ヘルプデスクとその関連業務やSI、CAD技術支援、データエントリーなどの事業があります。いずれも売り上げの数パーセントです。残りはグループ会社の売り上げになります。

多くのソリューションプロバイダのビジネスは開発が中心ですが、御社の姿はかなり異なります。

 ITにかかわるハードやソフトはたくさんありますが、本来の力を発揮させようとすると、人間のかかわるサービスを、利用者との間で使ったほうがいいものがたくさんあります。当社は設立から今年で43年ですが、当初からこの分野を中心に、事業を拡大してきました。

 ピープル、テクノロジー、サービス、つまり人とITとサービスで当社のビジネスは成り立っています。創業時にはデータエントリー業務を手掛けていました。

 ITは姿を変えながら、企業から一般の消費者の暮らしにまでかかわるようになっています。変化の波を少しだけ先取りしながら、時代にあった事業を展開してきたことが、成長につながったのでしょう。

 1990年代以降は、インターネットに関連するサービス事業にも積極的に取り組んできましたね。

中核のコールセンター事業の状況はどうですか。

 企業向けからスタートして、消費者向けのパソコンやプリンターのヘルプデスク業務などで規模を拡大しました。過去数年は、技術的な問い合わせに対応するだけでなく、ビジネスを支援するサービスで成長しています。

 今では、オペレーターが、単にお客様の問い合わせに答えるだけでなく、商品情報をご紹介したり、新たな商品の提案に結び付けたりするようになっているのですよ。

コールセンター事業での強みは何でしょう。

 コールセンターでは顧客情報が重要ですし、最近では電話だけでなくWebでお客様とやり取りします。デジタルマーケティング事業との相乗効果をお客様に示せること、企業向けのヘルプデスクやシステム開発を手掛けてきた経験により、ITに対する理解が深いことが当社の強みです。

最近ではITの専門家であるSIerにも、ヘルプデスクを含めたコールセンター事業に乗り出しているところがあります。脅威ではありませんか。

 ここではコールセンター事業者としての長年の経験が生きてきます。消費者相手のヘルプデスクを手掛けた経験のある企業はほとんどないでしょう。

 それにSIerは、あまり泥臭いサービスは得意ではないのです。抱えている人材にも違いがあると思います。

御社のビジネスモデルは、売り上げを伸ばすためには社員を増やす必要があります。

 常に生産性を向上させようと努力していますが、当社の事業の中心は現場型のサービスです。従業員の伸びと売り上げ、利益の伸びはほぼ同じ曲線を描きます。変革するのは難しいでしょうね。

 当社には、約1万人の正社員がおり、契約社員を加えると2万数千人に達しています。個人的な思いですが、これだけの雇用を生み出していること自体、今の日本にとって意味のあることではないでしょうか。

今後、有望だと考えている事業分野は?

船津 康次(ふなつ こうじ)氏
写真・柳生 貴也

 インターネットと消費者に関連する分野、例えばデジタルマーケティング事業には、まだまだ可能性があります。

 正確な試算ではありませんが、日本の広告市場は約6兆円だといわれています。販売促進などに関連して企業が使っている投資を合わせると、市場は12兆~15兆円の規模に達するはずです。

 インターネットを利用したビジネスが拡大していけば、情報の提供や分析に加えて、流通そのものも変わってくる可能性もあります。いろいろな形でお客様を支援することができる。

消費者向けのITはこれからもますます深化し、進化していくとご指摘されています。

 今、電気自動車が話題になっていますよね。一気に普及するかもしれません。

 自動車を動かすのは、エンジンではなくITの固まりであるモーターになります。ITの固まりを使えば、パソコンに対するのと同じようなヘルプデスクへのニーズが生まれるでしょう。

 太陽電池が一般化すると、家のIT化が進むかもしれません。すると家に関連したサポート業務が生まれる。こんなことが考えられます。

海外、特にアジアでの事業展開にも力を入れていらっしゃいます。

 アジアのなかでも一番は中国です。これから先の20年を考えると、中国での事業には非常に大きな可能性があります。現在は中国で、コールセンター、データエントリー、ソフト開発の3事業を展開しているところです。

 コールセンターは上海で650人の従業員を抱えています。現在はまだ数億円の売り上げといったところです。中国でコールセンター事業を営むのは難しいところもあるのですが、ようやく形になってきました。

 データエントリーの拠点は上海の近郊と遼寧省の本渓に設けています。主力は本渓で、約500人が入力作業に当たっているんですよ。

天津に、かなりの開発部隊を確保されていると聞きました。

 1300人ほどになります。天津大学や南海大学で情報工学を専攻した学生が中心ですから、優秀ですし、仕事に対する意欲も高いのです。

 天津での事業の8割は、金融分野に強い大手SIerのオフショア開発に、協力会社として参加するものです。残りは現地に進出している日系企業への、ヘルプデスクやネットワークの保守業務などになります。

前期は増収減益でした。状況は変わりましたか。

 もう少し、厳しい状況が続きそうです。当社は大企業を中心顧客にするアウトソーサーですから、どうしても景気の動向に影響を受けてしまいます。

 従来の感覚であれば受注できていたものが、先延ばしになったり、商談の時間が長くなったりするケースが増えています。特にCADの設計支援の業務は不況の影響が大きかった。

 それでも今年度の上半期は計画通りには推移しそうです。ギリギリで合格点といったことろでしょうか。

2008年度には、コーポレートベンチャーキャピタル事業から撤退しました。

 現在でも、当社の事業強化につながる技術やサービスを開発する企業にはR&D(研究開発)の意味で投資しています。この方針を変えたつもりはありません。

 一つの事業として位置付けると、どうしても収益重視になる。現実に、当社とかかわりの薄い事業に投資するケースも出てきていました。

 毎年の収益に対する影響が大きすぎるという判断もあり、事業としては撤退したのです。

トランスコスモス 代表取締役会長兼CEO
船津 康次(ふなつ こうじ)氏
1952年生まれ。81年にリクルートに入社。98年、トランスコスモスに事業企画開発本部長として入社。常務、専務、代表取締役副社長などを経て、2002年に代表取締役社長兼CEOに就任。03年から代表取締役会長兼CEO。角川グループホールディングス取締役も務める

(聞き手は,中村 建助=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2009年9月10日)