韓国における電子政府政策の推進において、重要な役割を果たしているのが「情報社会振興院」という組織だ。IT政策のグランドデザイン策定・助言から、プロジェクト管理の推進、IT調達における技術評価までを行っている。本稿では、情報社会振興院の果たす役割を中心に、韓国政府のIT調達について述べていく。(春日 真紀=NTTデータIT政策推進室 課長)

 韓国の電子政府政策の推進において重要な役割を果たす情報社会振興院は、情報化促進法に基づいて1987年に設立された。現在は行政安全部の下に配置されている(図1)。2008年2月末の新政権発足にともない、韓国政府においては省庁の組織改変や人事異動が行われた。その際、当時の行政自治部や情報通信部の機能を統合して設置されたのが、行政安全部だ。これは15ある中央政府機関の1つで、各種災害やテロなどの危機管理、自治体の行政管理、中央政府の総務・人事、そして電子政府の実現に向けた情報資源の保護や管理を行う。日本の総務省に相当する役割に、国防的な見地を加えて各種施策を行う行政機関と言えるだろう。

図1●韓国政府の組織図
図1●韓国政府の組織図

 韓国の電子政府に対し、情報社会振興院は5つの役割を持っている。

  • IT政策の企画・立案
  • サービス開発
  • インフラ技術の検証
  • 事業のプロジェクト化および推進
  • 事業の評価

 また情報社会振興院に加え、いくつかの機関がITを所管している。IT産業の振興は知識経済部が所管しており、その下には、技術的な規格の標準化を担う技術標準院や、情報セキュリティ管理を管轄する情報保護振興院などがある。また放送メディアは大統領直轄の放送推進委員会が管轄している。

韓国政府のIT調達と情報社会振興院の役割

 韓国の中央政府におけるIT調達は、次の二つのパターンに大別される

(1)複数の政府機関が参画する電子政府事業プロジェクト
 代表的なものは、2001年に電子政府の重点事業として設定された11のプロジェクトだ(注)。従来は各政府機関がそれぞれ縦割りの形で個別対応していたものを、横断的に対応することになったものだ。こうしたプロジェクトは調達金額が大きく、技術面でも高度で複雑であることが多い。

注)「電子申請システム」「4大保険連携システム」「インターネット国税システム」「統合電子調達システム」「国家財政情報システム」「市町村行政総合情報化システム」「教育行政情報システム」「標準人事管理システム」「電子決済・電子文書流通システム」「電子署名・認証システム」「政府統合電算環境の構築」の11事業。

(2)各政府機関が業務のIT化等のために個別に開発を行うプロジェクト
 この調達を管轄するのは、企画財政部の下にある調達庁である。原価調査については情報社会振興院が行うが、建設や土木などの入札と同様、調達庁が入札の公示、ベンダー選定、契約までを行う。

 情報社会振興院が大きな役割を果たすのは、主に(1)のパターンである。原価調査だけでなく、ベンダー選定(技術力、仕様、価格の評価)はもちろんのこと、RFP(Request For Proposal:ベンダーに提示する提案依頼書) 作成の段階から契約までを情報社会振興院が行っている。また、このような大規模なプロジェクトにおいては、IT調達の金額を安定化させるために必ず事前にベンチマーキングを実施しており、イギリスやフィンランド、米国、日本などの海外事例を研究したという。加えて、まずパイロットプロジェクトを立上げ、段階的に適用範囲を広げていくという工夫がなされている。

 ITの進展は早く、そのトレンドに一般の公務員が追いついていくのは難しい。そのため情報社会振興院の職員には、SI企業など民間企業出身者が積極的に採用されている。このことにより、民間の技術力とノウハウの移転が可能となった。職員の給与は、民間の水準より安いが一般の公務員よりは高く、就職希望者は多いという。ある職員は、「政府に対してダイレクトにコンサルティングできるのが大きなやりがい」と語る。