重さが100kg程度の超小型衛星の設計・製造および衛星を活用した地球観測事業などを手がけるベンチャー企業のアクセルスペース(東京・中央)は2022年1月26日、同年第4四半期(4Q)に光学観測衛星「GRUS(グルース)」を新たに4基打ち上げることを発表した。同社は現在5基による衛星コンステレーション(多数の衛星を協調動作させる運用方式、またはそれを構成する衛星群)で地球観測事業を展開しているが、新たな打ち上げによって9基体制となり、地球上のあらゆる地点を毎日観測(現在は2日に1回)することが可能になるという。撮影可能なエリアは、現在の1日150万km2が270万km2に拡大する。

アクセルスペースの光学観測衛星「GRUS」。22年第4四半期には9基体制になる予定
アクセルスペースの光学観測衛星「GRUS」。22年第4四半期には9基体制になる予定
(出所:アクセルスペース)
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 打ち上げ事業者はロシアのGK Launch Servicesで、ロシアのロケット「Soyuz-2(ソユーズ)」で打ち上げられる。なお、新たに打ち上げられるGRUSは、「昨年打ち上げたものと比較して大幅な改良は施されていない。今回は早期に9基体制を実現することに重きを置いた」〔代表取締役CEO(最高経営責任者)の中村友哉氏〕としている。

9基体制になると世界中を毎日観測できるようになる
9基体制になると世界中を毎日観測できるようになる
(出所:アクセルスペース)
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 GRUSは、地上の車を識別できる2.5mの地上分解能と、57kmの撮影幅を有する光学観測衛星である。「撮りたい場所を撮りたいタイミング、同じ画角で撮影できるサービスを提供しているのは弊社のみ。また、超小型衛星の開発・運用までを手がけているのでコストを抑制しており、他社の数分の1の価格で画像を提供できる」〔取締役CPO(最高プロダクト責任者)/AxelGlobe事業管掌の中西佑介氏〕のが強みとしている。

 同社は18年末にGRUSの初号機、そして21年3月に4基を同時に打ち上げ、同年6月に地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」のサービスを開始した。衛星画像やソリューションを提供する顧客は全世界で50社以上に拡大しており、21年下期の売り上げは前年同期比で18.6倍に増え、22年上期は同17倍と予測している。

21年下期の売り上げは前年同期比で18.6倍に成長
21年下期の売り上げは前年同期比で18.6倍に成長
(出所:アクセルスペース)
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 同社のサービスは、国内では農業や防災、報道など、海外では政府による地図作成、大規模精密農業、インフラモニタリングなどで活用されているという。同日オンラインで開催された報道関係者向け説明会に登壇した、防災科学技術研究所理事長補佐防災情報研究部門副部門長の田口仁氏は「災害発生から24時間程度の被災状況把握で優位なのは衛星。その後は、航空写真やドローン映像、現地情報などが使えるので衛星の“鮮度”は24時間」と話した。そこで、防災科研とアクセルスペースは超小型光学衛星の緊急観測フローの確立に向けた実証実験を共同で行っているという。

雲のない画像も提供

 アクセルスペースは、今年提供する予定の新たなサービスも紹介した。例えば、「AxelGlobe Cloudless Mosaic」は光学衛星画像のネックであった雲を、撮影時期が異なる複数の画像を合成することで取り除いた画像を作り、それを提供するサービス。地図作成や防災用のベースマップなど幅広い用途で使えるようになるとしている。22年3月以降に提供を開始する。

光学衛星画像のネックだった雲を除去した画像を提供する「AxelGlobe Cloudless Mosaic」
光学衛星画像のネックだった雲を除去した画像を提供する「AxelGlobe Cloudless Mosaic」
(出所:アクセルスペース)
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 ユーザーが撮影日時を自由に設定できる「AxelGlobe Custome Capture」も同3月に開始する。災害発生時には、最短で翌日に撮影する緊急対応も可能としている。

 このほか、5基の衛星コンステレーションでこれまでに撮影された過去画像を自由に利用できる「AxelGlobe Archive」などを開始するという。

 今後について同社は「1日1回撮影の体制を確立して、用途拡大を検証していく。その後、さらに基数を増やしていくのか、他のセンサーを搭載した衛星の開発を手がけていくのかなどを検討していく」(中西氏)とコメントした。