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橋の床版取り換えでは、交通規制が必要になるのが一般的だ。しかし、交通量が多く代替路が少ない中央自動車道では、車線数の確保が欠かせない。そこで考え出されたのが、上下線を一体化して中央分離帯に車線を造り出す高速道路会社初の手法だ。

 東京都と愛知県を結ぶ内陸部の大動脈、中央自動車道。その要衝の1つが、国立府中IC(インターチェンジ)―八王子IC間に架かる多摩川橋だ。1日当たり約8万台が通行する中で、現行の4車線を確保したまま床版を交換する工事が進む(写真12)。

写真1■ 多摩川橋を国立府中IC方面から八王子IC方面に向けて撮影。2021年8月上旬時点で、仮設防護柵を設置して中央分離帯に施工ヤードを確保している(図1のステップ1)。オリエンタル白石が開発した仮設防護柵は、鋳鉄とコンクリートを一体化することで、幅35cmの省スペースで強度などの基準を満たす(写真:中日本高速道路会社)
写真1■ 多摩川橋を国立府中IC方面から八王子IC方面に向けて撮影。2021年8月上旬時点で、仮設防護柵を設置して中央分離帯に施工ヤードを確保している(図1のステップ1)。オリエンタル白石が開発した仮設防護柵は、鋳鉄とコンクリートを一体化することで、幅35cmの省スペースで強度などの基準を満たす(写真:中日本高速道路会社)
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写真2■ 仮設の防護柵を設置して組み立てる様子(写真:中日本高速道路会社)
写真2■ 仮設の防護柵を設置して組み立てる様子(写真:中日本高速道路会社)
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 上り線と下り線でそれぞれ独立して架かる橋桁を一体化し、まずは、中央分離帯のスペースに2車線を造り出す。次いで、その車線を一時的に下り線として運用しつつ、既設の下り線の床版を交換。その後、上り線の床版を取り換える(図1)。建設当時の基準に合わせて20tで設計していた交通荷重を現行基準の25t(B活荷重)に見直して桁などを補強する他、支承を交換する。

図1■ 常に4車線を確保する
図1■ 常に4車線を確保する
橋桁が上下線で独立している場合、片側ずつ床版を交換するのが一般的(資料:中日本高速道路会社)
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 事業を進める中日本高速道路会社八王子支社によると、中央分離帯を活用して工事中の車線を確保する工法は高速道路会社として初の試みだ。

 詳細設計と施工はオリエンタル白石・日本橋梁JVが担う。契約金額は61億4221万円。工期は2019年8月から23年8月までの予定だ。

 多摩川橋は全長428.3mで、1967年に建設された。上下線はそれぞれ、鉄筋コンクリート(RC)床版を支える3連の鋼3径間連続合成鈑桁橋と、その両端部に接続する1対のプレストレスト・コンクリート(PC)単純ポストテンションT桁橋から成る。

 同様の構造形式の橋で床版を取り換える場合、一般的には上下線のどちらかで先行して床版の撤去・再設置を進める。その間、もう一方で対面通行規制を実施し、片側1車線で運用する。

 「多摩川橋を対面通行規制した場合、激しい渋滞が予想される。車線数の確保は必須だった」。中日本高速八王子支社八王子保全・サービスセンターの宮嶌英次工事担当課長は、こう説明する。中央道は、東名高速道路などに比べて代替路が少ない点にも配慮が必要だ。

 対面通行規制を避ける方法としては当初、仮桟橋を構築して車線を切り回す案も浮上した。しかし、多摩川にケーソン基礎を設けるなど大がかりな工事が必要となる。早々に現実的ではないと判断した。