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排水機場の改築を巡って、性能不足の責任を設計者に負わせようとした発注者が、一審判決で全面敗訴した。求める性能を契約書に明記していなかったことが決め手となった。ただ、設計者側も、改築で実現する性能をもっと入念に説明した方がよかったと筆者は考える。

 吉野川とその支流が形成した三角州に広がる徳島市は、水害対策が重要な都市だ。市は福島1丁目などで路面の冠水被害を防ぐため、桜の馬場排水機場を改築。2017年8月に工事を完成させた(資料1)。

資料1■ 徳島市中心部の排水機場改築を市が発注
資料1■ 徳島市中心部の排水機場改築を市が発注
(出所:日経クロステック)
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 しかし、新たな排水機場に期待した排水性能が得られず、再度、改築が必要になった。市は、改築設計を担ったフジタ建設コンサルタント(徳島県北島町、以下、フジタコンサル)の債務不履行による性能不足であると主張。再改築の設計・施工に要した費用を基に、約1770万円の損害賠償を同社に求める訴訟を起こした。

 徳島地裁は22年4月に出した一審判決で賠償請求を棄却し、設計者の損害賠償義務を否定した(資料2)。

資料2■ 徳島地裁の庁舎。徳島市は同地裁の一審で全面敗訴した(写真:フォトライブラリー)
資料2■ 徳島地裁の庁舎。徳島市は同地裁の一審で全面敗訴した(写真:フォトライブラリー)
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 土木・建築を問わず、構造物を設計する際、満たすべき性能について発注者と設計者との間で認識が食い違うことは珍しくない。本稿では、発注者のいわば「完敗」となる判断を裁判所が下した理由を解説する。