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 2023年の後半に入ってから、フェイクニュース(偽情報)に関する報道が増えた。10月の国会では、偽動画を使った詐欺について野党議員が質問。さらに、岸田文雄首相のディープフェイク(後述)がSNSに投稿されるなど、事態は深刻化しつつある(図1)。偽・誤情報は、かつてのデマと同じく戦時や災害時に増える。新型コロナウイルス感染症の拡大、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻、イスラエルとハマスの紛争などを経て、インターネットにはフェイクニュースがまん延するようになった。

急増するフェイクニュース
急増するフェイクニュース
図1 不安定な世界情勢を反映するかのようにフェイク(偽)情報の発信が増えている。その手口は、単純なものからAI(人工知能)を駆使した画像・映像生成などに高度化している(出所:「X」の投稿、「YouTube」の投稿)
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嘘の方が真実より広まる

 総務省による2022年度の調査によると、インターネット上のメディアで偽・誤情報を週に1回以上見かけた人の割合は約4割に上る(図2)。6割を超える米国や韓国よりは低いものの、多くの人が偽・誤情報にしばしば遭遇している。

4割の人が週に1回以上、偽・誤情報に接触
4割の人が週に1回以上、偽・誤情報に接触
図2 1カ月間にSNSやブログなどのネットメディアで偽・誤情報に接触した頻度を調査した結果。週に1回以上見た人は4割に達する。米国や韓国の状況はさらに深刻で、6割を超える(出所:総務省・みずほリサーチ&テクノロジーズ「令和4年度 国内外における偽・誤情報に関する意識調査-報告書-」)
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 偽・誤情報が厄介なのは、真実よりも嘘の方が速く広まるというネットの特性にある。これはいくつかの研究で明らかにされている。例えば「X(旧Twitter)」の場合、誤情報の投稿がリツイートされて1500人に届くまでの速度は、事実の投稿より6倍も速いことが研究により明らかになっている。