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 ダイハツ工業の品質管理の実力(以下、品質力)が明らかに変調を来している。日本車が堅持すべき高品質のクルマづくりという観点から見て、危険水域に達したと言っても過言ではない。足元で品質力を疑う事案が立て続けに発生しているからだ。

図1 リコール対象となったダイハツ車とトヨタ車、SUBARU車
図1 リコール対象となったダイハツ車とトヨタ車、SUBARU車
「ムーヴ」(左上)、「キャスト」(中央上)、「ブーン」(右上)の3車種のダイハツ車と、「パッソ」(左下)、「ピクシスジョイ」(中央下)の2種類のトヨタ車、およびSUBARU車である「ステラ」(右下)の合計6車種。走行中にスマートアシスト用カメラが落下する恐れがある。(出所:ダイハツ工業とトヨタ自動車、SUBARUの写真を基に日経クロステックが作成)
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 ダイハツ工業は現在、2023年4月に「内部告発」(トヨタ自動車の豊田章男会長)で発覚した側面衝突試験の不正により品質への信頼に疑問が投げ掛けられ、第三者委員会による調査が進んでいる。そうした中、同年6月23日に同社は国土交通省にリコールを届け出た。先進運転支援システム(ADAS)「スマートアシスト」用カメラモジュールが、走行中に落下するという品質不具合(以下、不具合)が発生したためだ。ウインドーシールドガラス(フロントガラス)に付けるカメラ用ブラケットの接着力が弱いというのが原因である。

 このリコールの中身を探ると、同社の品質力の低下が浮き彫りになる。

 リコールの対象は、ダイハツ工業の「ムーヴ」「キャスト」「ブーン」、トヨタ自動車の「ピクシスジョイ」「パッソ」、SUBARU(スバル)の「ステラ」の6車種だ(図1)。リコール台数は合計で26万6320台(内訳は後述)である。ただし、この台数には「現在までのところ」という注意書きを添えておく。

 もちろん、クルマが何万点もの部品から成る工業製品である以上、不具合の発生をゼロに抑えることは現実には不可能だ。問題は、同社が今回のリコールを届け出るまでの過程にある。まさに、「迷走」という表現がぴったりだ。

改善対策からリコール、そして追加リコールへ

 実は、今回のリコールは初めてのものではない。2度目、すなわち「追加リコール」である(図2)。当初、ダイハツ工業はこの不具合をリコールではなく、「改善対策」として国交省に届け出た。2022年10月20日のことだ。1年8カ月の製造期間に「1048件」の不具合が市場から上がってきたが、事故は「ゼロ件」だったというのが、その届け出内容だった。

図2 ADAS用カメラの脱落リコールに関する届け出の経緯
図2 ADAS用カメラの脱落リコールに関する届け出の経緯
ダイハツ工業は当初、改善対策と判断していた。だが、保安基準に適合しない恐れがあることが発覚し、2カ月後、リコールに変更して再度、国交省に届け出た。その後、6カ月で追加リコールを同省に届け出た。(出所:日経クロステック)
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 ところが、2カ月後の同年12月23日、ダイハツ工業は件(くだん)の不具合を「リコール」に変えた。「(ADAS用)カメラが落下した状態において保安基準を満足しない恐れが認められたため、届け出区分をリコールに変更して再度届け出た」(同社)というのである。

 製造期間は変わらないが、不具合件数は「1099件」に増え、そのうち「2件」の事故(物損)が発生していた。おまけに、このリコール変更の届け出とともに、同社は同年10月20日、国交省に提出した改善対策の数字に訂正を入れた。計数ミスが見つかったからだ。不具合件数は1048件ではなく「1050件」で、事故件数は先の通り「2件」だった。

 ダイハツ工業の品質力が危険水域に達したと指摘する理由は、側面衝突試験の不正に手を染めたという理由の他に、次の4つがある(図3)。[1]改善対策かリコールかをすぐに識別できない、[2]追加リコールを繰り返している、[3]不具合件数が多過ぎる、[4]営業利益率が低過ぎる──からである。

図3 ダイハツ工業の品質力が危険水域に達したと指摘する理由
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図3 ダイハツ工業の品質力が危険水域に達したと指摘する理由
まず、同社では側面衝突試験の不正が発覚している。その上、品質力に負の影響を与え得る4つの理由が見つかった。(出所:日経クロステック)

保安基準の規定の理解は十分か

 1つ目の理由は、ダイハツ工業が[1]改善対策かリコールかをすぐに識別できないからだ。改善対策について、国交省は次のように定義している。

 「リコール届出とは異なり、道路運送車両の保安基準(国土交通省令)に規定はされていないが、不具合が発生した場合に、安全確保および環境保全上看過できない状態であって、かつ、その原因が設計または製作の過程にあると認められるときに、自動車メーカー等が改善のための措置を行うこと」

 一方、同省によるリコールの定義はこうだ。

 「同一の型式で一定範囲の自動車または特定後付け装置について、道路運送車両の保安基準に適合していない、または適合しなくなる恐れがある状態であって、かつ、その原因が設計または製作過程にあると認められるときに、自動車メーカー等が保安基準に適合させるために必要な改善措置を行うもの」

 つまり、両者の違いは「保安基準の規定」に適合しているか否かにある。

 件の不具合は、ADAS用カメラが走行中に落下し、運転者の前方視界を妨げて安全性を損なう恐れがある。加えて、落下したブラケットの端部形状に問題があり、事故(物損)を起こしている。

 これらについて、同社は「運転席の基準を満足しない」また「ブラケットの端部形状が乗車装置の基準を満足しない」ことが分かったと、1度目のリコールの際に述べている。つまり、保安基準に不適合だと判断するまでに、改善対策を届け出てから2カ月もかけているのだ。

 クルマを製造・販売する上で保安基準への適合は必須である。にもかかわらず、なぜ、これらの不具合が保安基準に適合するか否かを自動車メーカーであるダイハツ工業が初めから判断できなかったのか。この点について、自動車メーカーの開発設計出身者(以下、開発設計の専門家)は、ダイハツ工業が「保安基準の規定の中身を十分に解釈できていない可能性がある」と指摘する。