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2020年1月23日、武漢市(中国・湖北省)に激震が走った。中国当局が突然、武漢市封鎖の指示を出したからである。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ処置だったと判明したのはその後だ。現地で工場を運営する日本企業はこの指示で混乱に陥った。基板設計・製造技術を手掛けるメイコーもその1社だ。同社は武漢市の工場で主に車載向け基板などを生産する。封鎖が解除された4月8日から現在、約1カ月が経過した。武漢封鎖で何が起き、どのように復旧させたのか。メイコー執行役員製造本部長の坂手敦氏に聞く。

メイコー執行役員製造本部長の坂手敦氏
メイコー執行役員製造本部長の坂手敦氏
(写真:メイコー)
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2020年4月下旬現在、メイコーの武漢工場の状況はどうなっているのでしょうか。

坂手氏:既に工場内は封鎖前と同様の生産体制に戻っています。武漢工場は約4000人と多くの人員を抱えているものの、3月末時点で8割以上の従業員が復帰しました。4月8日には武漢市の封鎖が解かれ、規制解除とともに流通機能などが回復しました。

工場入場前に検温する従業員
工場入場前に検温する従業員
(出所:メイコー)
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 ただし、景気の落ち込みを受けて需要に勢いがありません。生産体制が整っていても、操業度は封鎖前の50%ほどにとどまっています。特に自動車向けが低調で、今後およそ3割は落ち込むと予想しています。現在は発注の残りがあるため、大幅な減産に至っていませんが……。当社は自動車向けの製品が売り上げの中で大きな割合を占めています。これからの需要予想は難しいものの、大幅な落ち込みは看過できないため、対策を打っていくつもりです。

武漢封鎖で工場に何が起きたのでしょうか。

坂手氏:2020年1月23日に、急に武漢市の封鎖指示が来ました。その直前まで封鎖される雰囲気など全くありませんでした。幸いにも武漢工場では事前に準備を整えて春節の長期休暇(編集部注:当初、2020年の春節は同月24~30日の予定だった。後に中国当局が2月2日まで延長を決定)に移行していました。しかし、春節が開けるはずった1月30日になっても封鎖は解除されず、工場は操業停止のまま。3月23日になってようやく操業再開許可を得て、一部工程の稼働を再開させました。長期休暇用に設備を整えていたため、稼働開始時に設備の故障などは発生しませんでした。

感染症予防を訴える垂れ幕
感染症予防を訴える垂れ幕
(出所:メイコー)
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消毒作業
消毒作業
(出所:メイコー)
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 操業再開許可を受けられたのは幸運でした。中国当局は世界経済に影響を及ぼす恐れがある産業から優先的に操業再開許可を付与したようです。当社は先述の通り、自動車産業のサプライチェーン(部品供給網)の一部を担っているため、許可が下りたのではないかと考えています。操業を再開し、製品の出荷を始める際に不都合が発生することもありませんでした。サプライチェーンの寸断も起きていません。ただし、(自動車産業という)大きなサプライチェーンの枠組みに入っていなければ、操業開始許可を受けるのは厳しかったのかもしれません。

 封鎖開始直後は街は落ち着いた様子でした。まだ多くの日本人が武漢市におり、当社も工場稼働のために日本人の従業員を同市に残しておくか検討していました。しかし、その後感染が徐々に広がり、危険性を察知するや否や従業員にチャーター機での帰国を促しました。