全2959文字

 総務省が2019年10月施行の改正電気通信事業法で導入した「携帯電話の通信料金と端末代金の完全分離」をはじめとする施策の効果や課題を検証する有識者会議の議論が大詰めを迎えている。2023年5月30日には総務省が制度の見直し案を提示した。見直しの対象は細かい点を含めると多岐にわたるが、以下では特に重要な2点を解説したい。

ソフトバンク提案に近い決着に

 見直し案の最大の注目は、通信契約とセットで端末を販売する際の値引きの上限額を現行の2万円(税別、以下同じ)から4万円に変更する点だ。この2万円は携帯大手のARPU(契約当たり月間平均収入)や営業利益率、端末使用年数に基づいて算出した経緯があり、3年平均の最新データを適用すると「ARPU(4137円)×営業利益率(18.9%)×端末の使用年数(53.2カ月)=4万1597円」になる。このため上限額は4万円が適当とした。

 この部分だけ切り出すと「規制緩和」に映るが、新たに端末単体販売時の値引き(白ロム割)を規制対象に加える。白ロム割は現状、通信契約とひも付かない端末単体販売なので2万円規制の対象外となっている。この抜け穴を突いて「一括1円」販売が週末などの期間限定で登場し、端末を転売して稼ぐ「転売ヤー」問題などに発展した。総務省はここにメスを入れ、回線セット割と白ロム割を合計した上限額を4万円とする。今後はこの額を上回る大幅な値引きができなくなるため、総務省としては「規制強化」になる。

回線セット割とは別に端末単体販売による白ロム割が規制の抜け穴となっていたため、両方の合計で上限4万円となった。携帯大手からは中古買い取り価格を上限とする案も出ていたが、見送られた
回線セット割とは別に端末単体販売による白ロム割が規制の抜け穴となっていたため、両方の合計で上限4万円となった。携帯大手からは中古買い取り価格を上限とする案も出ていたが、見送られた
(出所:ソフトバンクが総務省の公開ヒアリングで提出した資料)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただし、総務省が規制する白ロム割の対象は、あくまで「通信サービスと端末のセット販売」に関わるものだけである。このため、自社回線の非契約者に対しては引き続き自由に値引きできるが、もともと白ロム割は規制を「潜脱」(規制などの網をくぐること)するために登場した手法であり、今後は消滅していくとみられる。通信契約のない顧客に端末を大幅値下げしてもメリットは何もないからだ。これまで総務省が覆面調査で調べていた「非回線契約者に対する端末販売拒否」の問題(法令違反)も解消する。

 4万円という水準の是非を巡っては、業界関係者の間で意見が分かれる。電気通信事業法の改正に向けた2019年当時の議論を振り返ると、NTTドコモの「4000円程度(ARPU)×20%程度(営業利益率)×36カ月程度(端末利用期間)=約3万円」という提案を受け、規制の効果を早く上げる狙いで2万円の決着となった。

 ドコモは今回、「2019年の法改正の趣旨に立ち戻り、まずは(白ロム割を含めた)端末割引の上限額を2万円とし、段階的に緩和していくことが望ましい」と提案しており、それをわざわざ緩和しなくてもよかったのではないかとの指摘が出ている。上限額2万円の維持を強く要望していたMVNO(仮想移動体通信事業者)は特にそうだろう。

 さらに携帯大手は「釣った魚には餌をやらない」という前提で考えると、今後は「機種変更」と「新規・MNP(モバイル番号ポータビリティー)ポートイン」のユーザー間で4万円の値差が生じてしまうことになる。携帯ショップを運営する販売代理店関係者からは「本当は(長く利用している)機種変更のユーザーこそ大事にしたい」といった声をよく聞く。有識者会議では「(販売現場では)顧客のために機種変更を新規やMNPにすり替える手口が横行するのではないか」との指摘が出ている。そもそも4万円の根拠となったARPUや営業利益率、端末の使用年数は刻々と変わり、今回の見直しによる影響が大きいと想定すると、度々上限額を変えるのかという疑問も残る。