東京の新たな台所として10月11日に豊洲市場がオープンする。当初、2016年11月に予定されていた築地市場から豊洲市場への移転は、同年8月に小池百合子東京都知事が延期を表明したことで迷走。「豊洲市場の建物下には土壌汚染対策の盛り土がなく、地下空間が存在している」と世間を騒がせた。この問題を解決すべく、都は「市場問題プロジェクトチーム(PT)」を編成する。建築家としてPTに参加し、炎上する問題の鎮静化に努めた佐藤尚巳建築研究所の佐藤尚巳代表に「移転問題の炎上とは何だったのか」を聞いた。
豊洲市場への移転問題では「市場問題PT」のメンバーとして、建築的な観点から意見を述べてきた。
豊洲市場への移転問題は、当初はメディアを通じて見守る側の立場でした。「地下空間の存在が問題だ」などと報道されていましたが、あれだけ巨大な建築物に地下空間が存在するのは当然です。補修や整備には欠かせない空間だからです。それが問題であるかのような報道には強い違和感を感じていました。ある日、JIA(日本建築家協会)から電話を受け、市場問題PTのメンバーに推薦したいが良いか」と打診されました。建築家としてちゃんと発言をしなければならないと考え、委員を引き受けたのです。
PTに参加してしばらくは戸惑いました。「プロジェクト」ですからゴールがあり、そこに向けて検討を進めるものと考えていました。しかし、話し合いを進めてもゴールが見えてこないのです。初期段階でPT座長の小島敏郎氏(青山学院大学教授、弁護士)が、「豊洲市場はもうダメかもしれない」とぽつりとつぶやかれたことを覚えています。PTは豊洲市場への移転や、市場の在り方について調査研究を行う専門家集団で、豊洲に移転できるように知恵を絞るのが役割かと考えていたので、この言葉には「えっ?」と一瞬耳を疑いました。