観劇が好きな人にとって、劇場の座席は関心事の1つだ。自他共に認める宝塚ファンの筆者も例外ではない。実は、宝塚歌劇団の専用劇場「東京宝塚劇場」の座席が2022年2月に全面リニューアルした。新座席は同月25日の月組東京公演初日から稼働している。座席はどのように生まれ変わったのか、同劇場を運営する阪急電鉄、改修に携わった竹中工務店、コクヨの3社に取材した。
阪急電鉄を母体とする宝塚歌劇団は100年以上の歴史を持ち、兵庫県宝塚市に本拠地を置く。出演者は未婚の女性のみ。男性役を「男役」、女性役を「娘役」と呼び、いずれも女性が演じることは、ご存じの読者も多いだろう。
01年にオープンした東京宝塚劇場は、東京・日比谷に位置し、客席は1階席と2階席から成る。年間の公演数は450公演程度で、ほぼ全公演で満席だ。客層は筆者のような女性が多い。年間数十回ほど同劇場に通う筆者の体感では、特に週末は男性客も増えてきており、幅広い世代が劇場を訪れている。
座席改修のきっかけは、椅子の劣化や傷みといった老朽化だ。阪急電鉄歌劇事業部の溝部誠司東京支配人は「劇場がオープンしてから約20年がたった。この間の技術の進展を踏まえて、お客様により見やすく、より快適に観劇してもらえるよう、座席を改修することを決めた」と説明する。
改修による主な変更点は3点。「椅子の変更」と「座席配列の変更」そして「増席」だ。
椅子の変更箇所で大きいのは、背もたれ部分。背板を合板でつくり、クッション部分を従来の直線的な形状から、3次元曲面へ変更した。これにより、体が椅子にフィットしやすくなり、力が分散されて疲れにくくなる。
意外と知られていないが、観劇の際は背もたれに背中を付けて見るのがマナーだ。前に座っている客が前のめりになってしまうと、後ろの客の視界を遮ってしまうからだ。形状を変更したことで、背もたれに背中を付けやすくなった。
新しい椅子では背もたれの厚みを抑えることができたので、以前より着座時の椅子の総奥行きをやや短くできた。これにより、着座状態の座席前の通路が広くなった。座面については、着席している観客の前を他の観客が通る際などに、膝を曲げて通路を確保しやすいよう、クッションの端を斜めに切り落としたような形状とした。加えて座裏をフラットにするなどの工夫を施し、以前よりも足を引き込みやすいようにしている。
オペラグラスやハンカチ、公演グッズなど手持ちの荷物が多いと、椅子から少し立ち上がるのにも一苦労。立ち上がらずとも、内側の席の客のために足元通路を広げられるのは、うれしい配慮だ。