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 格安スマホを手掛けるMVNO(仮想移動体通信事業者)がいよいよ正念場を迎えそうだ。

 携帯電話大手では料金の値下げが見えている。NTTドコモは2019年4~6月期に現行より2~4割下げた新料金プランの投入を宣言。ソフトバンクが展開する「Y!mobile(ワイモバイル)」も2019年4~9月期に端末購入補助がない「分離プラン」を導入し、料金を1~2割下げる予定だ。2019年10月には楽天モバイルネットワークが新規参入する。大手の競争激化により、MVNOが打撃を受けるのは必至となっている。

 もちろん、MVNOに追い風の要素が全く無いわけではない。携帯電話大手3社の端末購入補助がほぼなくなれば、これまでのようにMVNOが端末価格で大きく見劣りするようなことはなくなる。行き過ぎた契約期間の拘束や合理的な根拠の無い違約金も見直しとなるため、MVNOは大手3社から顧客を奪いやすくなる面もある。MVNOがサービス提供に当たって携帯電話大手に支払っている接続料の負担も軽くなる見込みだ。

 とは言え、体力勝負の消耗戦となればMVNOが不利なのは明らかだ。そして筆者が最も気になっているのは、5G時代におけるMVNOのビジネスモデルが見えていない点だ。5Gの本格化とともにMVNOの存在価値が一気に薄れるシナリオも考えられる。

現行の接続形態、5G時代には「ナンセンス」

 大手MVNOは現状、携帯電話大手と通信設備を相互に接続することでサービスを展開している。「レイヤー2接続」や「レイヤー3接続」と呼ばれ、携帯電話大手は電気通信事業法第32条で接続義務が課されている(一部の例外を除く)。

現行の制度では上記のような単純な接続形態しか想定されていない。MNOは携帯電話大手、MVNOは仮想移動体通信事業者、MVNEはMVNOの参入を支援する事業者
現行の制度では上記のような単純な接続形態しか想定されていない。MNOは携帯電話大手、MVNOは仮想移動体通信事業者、MVNEはMVNOの参入を支援する事業者
(出所:総務省のMVNO事業化ガイドライン)
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 相互接続する通信設備はMVNO側が「P-GW(PDN-Gateway)」、携帯電話大手側が「S-GW(Serving-Gateway)」となる。携帯電話大手が東京や大阪に設けた相互接続点(POI)を介してつなぎ、POIの帯域で接続料が決まる。MVNOのサービスの通信速度が昼時などの混雑時に遅くなるのは、同帯域の狭さが原因である場合が多い。

 では、5G時代も今の接続形態が続くかと言えば、懐疑的というのが業界関係者の共通した見解だ。携帯電話大手の現行の中核設備「4Gコア(EPC)」に5Gの基地局がぶら下がる初期の段階では変わらないかもしれないが、中核設備が全て仮想化された「5Gコア(NGC)」の時代ではあり得ないという。

 5Gコアになると、共通のネットワーク基盤を使いながら品質などの要件に応じてインフラを仮想的に分割する「ネットワークスライス」や、遅延を抑えるためネットワークのエッジ部分で処理して通信を折り返す「マルチアクセス・エッジ・コンピューティング(MEC)」が現実化してくる。

 この状況でわざわざPOIを介して通信設備をつなぎ、伝送速度がギガビット/秒級の時代にメガビット/秒単位の接続料を払い続けるのだろうか。「全くもってナンセンス」(大手MVNO)である。

 POIを介した接続となると、MVNOは5Gの大きな特徴である「低遅延」も諦めざるを得なくなる。MECではP-GWを基地局の近くに置く構成も想定されているが、これでは膨大な量のP-GWを配備しなければならなくなってしまう。MVNOにそのような投資の余裕は無い。

 考えられる1つの解は、携帯電話大手にMVNO向けのネットワークスライスを用意してもらうことである。ネットワークスライスはもともと大手企業や特定業界向けの提供が想定され、特段に難しい話ではない。

 問題はネットワークスライスのコントロール権である。MVNOが自由にネットワークスライスを切り出して使えるようになれば、サービスの多様化が今以上に期待できる。

 だが、自由に切り出せないとなれば単なるユーザーと同じになってしまう。現在のように保有設備で工夫する余地も無いため、これまで以上に差異化が難しくなる。MVNOにとってコントロール権は生命線と言え、携帯電話大手との間で激しいせめぎ合いになりそうだ。

 MECについても携帯電話大手にエッジ部分の機能を開放してもらう必要があり、道筋は見えていない。少なくとも「5Gコア時代に向けて現行の制度を大幅に見直さなければ耐えられないのは間違いない」(大手MVNO)ような状況である。