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 この建物の色は青か、オレンジか。見る角度や時間帯、天候などによって様々な表情を見せる──。

東京・銀座に新装オープンした店舗「LOUIS VUITTON GINZA NAMIKI(ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店)」。ガラスのファサードが輝き、ひときわ目立つ(写真:北山 宏一)
東京・銀座に新装オープンした店舗「LOUIS VUITTON GINZA NAMIKI(ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店)」。ガラスのファサードが輝き、ひときわ目立つ(写真:北山 宏一)
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 ルイ・ヴィトン ジャパンは2021年3月20日、東京・銀座の並木通り沿いに直営店「LOUIS VUITTON GINZA NAMIKI(ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店)」を新装オープンした。1981年に誕生した日本初の直営店を、約3年かけて建て替えた。

 建物の建築本体と外装の設計は、AS(旧・青木淳建築計画事務所、東京・港)が担当。建物の施工は清水建設が手掛けた。

 生まれ変わった銀座並木通り店は、建物を覆い尽くすガラスのファサードが目を引く。高級ブランド店が軒を連ねる並木通りでも、とにかく目立つ。

 表面が波打つガラスのカーテンウオールは、「水の柱」を表現している。そして色が常に変化しているように見える。青やオレンジに見える部分が多いが、時にはゴールドに輝いて見えることもある。

 ガラスには周囲の景色も映り込む。ウエーブ状のガラスに映り込んだ像はゆがみ、マーブル模様のようにも見えたりするから不思議だ。

波打つガラスのファサードは、青やオレンジに見える(写真:日経クロステック)
波打つガラスのファサードは、青やオレンジに見える(写真:日経クロステック)
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眺める角度や光の加減で、ファサードの色が違って見える(写真:北山 宏一)
眺める角度や光の加減で、ファサードの色が違って見える(写真:北山 宏一)
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 同年3月17日には、ASを共同主宰するパートナーの青木淳氏が開業前の店舗で、建築メディア向けに内覧ツアーを実施した。最初に案内されたのは意外にも、屋上だった。最大の特徴であるガラスのファサードを語るうえで、屋上が一番分かりやすい場所だからだ。

 銀座並木通り店は地上8階建てで、高さは約40mある。建築面積は約310m2で、構造は鉄骨造だ。屋上には今は何もない。使い道はこれから決めるという。頭上に青空が広がる屋外空間である。

 青木氏は屋上の白い壁の前に立ち、うっすらと外が透けて見える楕円形の窓のような部分を指さして説明を始めた。

ASを共同主宰するパートナーの青木淳氏。屋上で建物の特徴を説明しているところ(写真:日経クロステック)
ASを共同主宰するパートナーの青木淳氏。屋上で建物の特徴を説明しているところ(写真:日経クロステック)
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 この建物は外から眺めると、ガラスがオレンジや青に見える。ただし、外観に窓らしきものは確認できないため、室内から外がどう見えているのかは想像しにくい。ガラスがマジックミラーのようになっていて中からは外が丸見えなのか、それとも外が全く見えないのか、よく分からない。答えは屋上にあった。

店舗の屋上。青空が見える(写真:北山 宏一)
店舗の屋上。青空が見える(写真:北山 宏一)
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 ガラスは非常に凝った構成をしていた。外側(アウター)に曲面の合わせガラス、内側(インナー)に複層ガラスを配置している。特に重要なのが、外側に用いた合わせガラスだ。

 2枚のガラスをくっ付けた合わせガラスは、外側にくるガラスの内面(合わせ面)に、オレンジの光だけを反射する「ダイクロイック」を蒸着させている。外観がオレンジに見えるのは、この反射が強いときだ。

 オレンジ以外の波長の光はダイクロイックを透過し、合わせガラスのもう1枚のガラスに到達する。そしてそのガラスの室内側に張った「グラデーションフィルム」で、今度は青の光を反射する。外観が青く見えるのは、こちらの反射だ。

 建物に当たる直射光や間接光の加減で、オレンジの反射が見えたり、青が見えたりする。しかも合わせガラスは波打っているので、眺める角度で色が違って見える。

 色ガラスは使っていない。ガラス自体は透明だ。光の反射と透過をダイクロイックとグラデーションフィルムでコントロールし、外観の「色」を出している。「建物のファサード全体にダイクロイックを採用したのは、日本では初めてではないか」と、青木氏は解説する。採用した特注ガラスの製造や加工、波形の成型は中国で行った。

 曲面のガラス全体は基本的には、6つのガラス形状パターンの組み合わせでできている。6種類をシームレスにつなぎ合わせることで、波打つ3次元曲面をつくっている。曲面の高低差は最大で約100mmだ。6種類の金型を用意し、平らなガラスに熱を加えて金型に沿った曲面に変形させる。それを2枚張り合わせて、合わせガラスにしている。この工程が非常に難しかったという。

 一方、室内に近いインナーの複層ガラスにも、グラデーションフィルムを張っている。青木氏の背後にある楕円形に切り取られた窓のような場所がスモークがかかっているように見えるのは、白から透明へのグラデーションのせいである。楕円の中央付近はグラデーションが透明で、楕円の外側にいくに従ってグラデーションが濃くなる。室内から外が青っぽく見えるのは、グラデーションフィルムの透明部分を透過してきたオレンジ以外の光が見えているからだ。

 今度は売り場をのぞいてみよう。内装の設計はピーター・マリノ氏が主宰するPETER MARINO ARCHITECTとエイチアンドエイが手掛けた。ASは内装設計にはタッチしていない。

ウィメンズの売り場(写真:北山 宏一)
ウィメンズの売り場(写真:北山 宏一)
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楕円形の窓のようなところから、うっすらと外が見える(写真:日経クロステック)
楕円形の窓のようなところから、うっすらと外が見える(写真:日経クロステック)
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 売り場も屋上の壁と同じように、楕円形の窓のような部分から外を見られるようにしている。店内に入ってみないと、この見せ方には気づかないだろう。

 続いて、7階に併設したカフェ「LE CAFE V(ル・カフェ・ヴィー)」に移動する。ここでも同じく、壁の一部が楕円にくりぬかれたように、外が見えている。楕円の大きさは、フロアごとに異なる。カフェの設計は乃村工芸社A.N.D.が担当した。

店舗に併設したカフェ「LE CAFE V(ル・カフェ・ヴィー)」(写真:北山 宏一)
店舗に併設したカフェ「LE CAFE V(ル・カフェ・ヴィー)」(写真:北山 宏一)
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