全3108文字
 米Apple(アップル)が2021年9月に発売した「iPhone 13シリーズ」を分解調査すると、カメラ部分などに変化があったものの、20年に発売した「iPhone 12シリーズ」と類似している点が多かった。では基板の設計はどうなのか、メイン基板を切断して断面を観察した。分かったのは、両シリーズで基板設計はほぼ変わらないという点だった。

 今回、基板の断面を調査したのは、「iPhone 12」と「iPhone 13 Pro Max」の2機種である。どちらの製品の基板も2枚の基板を貼り合わせた”2階建て”構造になっているため、アプリケーションプロセッサーを搭載した「マザーボード」と、5G(第5世代移動通信システム)用の通信ICなどを搭載した「RF基板」に分け、それぞれの基板の層構成や各層の厚みなどを調べて比較した。

iPhone 12(左)とiPhone 13 Pro Max(右)の外観
iPhone 12(左)とiPhone 13 Pro Max(右)の外観
(写真:加藤 康)
[画像のクリックで拡大表示]

 まず両製品で基板のサイズは異なるものの、配置された主要部品の種類は大きな変化はない。マザーボードにはアプリケーションプロセッサー「A14 Bionic」「A15 Bionic」やUWB(Ultra-Wide Band)用ICなどが、RF基板には5Gベースバンドプロセッサーや通信用のトランシーバーICが実装されている。マザーボートの厚みは、iPhone 12が0.55mm、iPhone 13 Pro Maxが0.56mmで、RF基板の厚みはそれぞれ0.45mmと0.43mmであり、基板の厚みにも大きな変化がない。

 メイン基板とRF基板は、実装部品を取り囲む塀のような「インターポーザー」基板で接続されている。このインターポーザー基板の厚みは、両製品とも1.6mmで同じだった。

iPhone 12とiPhone 13 Pro Maxの基板の断面模式図
iPhone 12とiPhone 13 Pro Maxの基板の断面模式図
(図:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 マザーボードは10層、RF基板は8層からなる。どちらの基板も、基板の外側から内部基板までを貫通するレーザービアホール(LVH)や基板の内部のみを貫通するベリードビアホール(BVH、Buried Via Hole)などを自由に配置できる「Anyビア構造」となっていた。

両製品の基板の断面の様子
両製品の基板の断面の様子
インターポーザー基板はiPhone 12とiPhone 13 Pro Maxのどちらも2層構造で、厚みも同じ1.6mmだった。(写真と図:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 各層の構成では、ここでも両製品に大きな違いはない。マザーボードは10層の銅箔レイヤーと8枚のプリプレグ、1枚のコア層で形成されている。RF基板は、8層の銅箔レイヤーと6枚のプリプレグ、1枚のコア層で形成されている。両製品とも、銅箔レイヤー間の絶縁層にはどちらの基板もプリプレグを用いており、基板の外側両面はソルダーレジストで覆っていた。

†プリプレグ=ガラスクロスなどの繊維やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を混ぜた絶縁材料のこと。プリプレグを配線基板である銅箔の間に挟み、銅箔同士の絶縁を確保する。
両製品の基板の層構成と厚さの比較
両製品の基板の層構成と厚さの比較
iPhone 12とiPhone 13 Pro Maxのどちらも、マザーボードは10層構造、RF基板は8層構造で、各層の厚みは多少異なるものの構成は共通だった。(図:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 各層の厚さを見ていくと、マザーボードではレイヤー2、3、8、9の4枚の厚みが、RF基板ではレイヤー2、3、6、7の4枚の厚みが、両製品ともに薄くなっているのが分かる。それ以外のレイヤーは、一般的な回路形成手法である「サブトラクティブ法(サブトラ)」で形成されているとみられるが、この4枚のレイヤーのみ、より微細な回路を形成できる「MSAP (Modified Semi Additive Process)」と呼ばれる手法で形成されているようだ。

 このサブトラとMSAPの違いは、回路パターンを拡大した際の形状から見分けることができる。