2022年08月26日
(聞き手:小野口愛梨 佐藤巴南 本間遥)
テレビでニュースを伝えたり、番組で有名人に交じって司会を務めたり。華やかなイメージの強いアナウンサー。NHKのニュース番組や「ブラタモリ」に「紅白歌合戦」と、数々の番組を担当してきた桑子真帆アナウンサーに聞いてみると、「泥臭い仕事が9割」と意外な答えが。
さっそくですが、アナウンサーになった時、思っていたこととギャップってありましたか?
入った時はニュースを伝えたり、インタビューしたりする人くらいのイメージしかなかったんです。
でも、実際に始めるとこんなにいろんな仕事があるんだっていう驚きがありました。
NHK 桑子真帆 アナウンサー
2010年、NHKに入局。長野放送局、広島放送局を経て東京アナウンス室に勤務。「ブラタモリ」や「ニュースウオッチ9」などさまざまな番組を担当し、2022年4月から「クローズアップ現代」のキャスター。
NHKってまず地方に配属されることが多いのですが、ニュースを読むのは、全部の仕事を10だとすると1かそれに満たないぐらい。
え!?
1割!
本当にそうなんですよ。
例えばある中継コーナーを担当する時、どういう話題にするか、どこに行くかっていう下調べをします。
そのあと実際に取材に行って話を聞いて、交渉してOKをいただいて、それを実際に放送するために提案票を書いて・・・
アナウンサーの方がやるんですか!?
そうそう、全部やるの。
それで提案が採択されたら今度は自分で構成を書いて、こういう映像でこういうコメントをする。
これくらいのサイズでアップにしてほしいとカメラマンにお願いする。
自分でリポートするのは最後の最後に数分間、なので表に出ているのは1割にも満たないかもしれませんね。
自分が視聴者として見ている時、表に出ているアナウンサーさんってキラキラしているイメージがありました。
泥臭いというか裏方の仕事もやるんだなって始めて知りました。
本当に泥臭さが9で、表面のキラキラは1くらいですよ笑
そういうお仕事の状況は今も変わらないんですか?
今もそうですね。例えばクローズアップ現代は27分間で、そのうちスタジオを担当するのって10分くらいなんですよね。
番組の中の3分の1くらいしか表に出ていないですけど、そこに向けて取り上げるテーマについて勉強したり、担当する人から教えてもらったり打ち合わせを重ねて。
実際に出来上がったVTRの試写をして、ああだこうだとやり取りをしている時間のほうがはるかに長いですよね。
だから割合でいうと、表に出ているのはやっぱり1割以下かもしれないですね。
大変ですね・・・正直、辞めたいって思ったことってないんですか。
つらいな、しんどいなとは思うし完璧にはできないんだけど、一生懸命準備をした番組を出し終わったあとの達成感はたまらなくて、だから頑張れるんですよね。
地方からキャリアを始めたころ、どんな番組を担当されたんですか?
人にもよると思うのですが、NHKだとその地域の夕方のニュース番組ってあるんです。
そういうレギュラー番組を持つ人もいるけれど私は持たず、中継コーナーや定時のニュース、ラジオを担当していました。
今日はラジオのニュースの日、今日は中継をする日みたいな感じでいろんな仕事をしていました。
やっぱり、最初のころって大変でしたか。
長野にいたころは本当に“へなちょこ”だったから、ちゃんとニュースが読めるようになるために精いっぱいでした。
広島に行ってからは、原爆や被爆という大きなテーマと自分なりに向き合って取材や勉強を重ねていたら、あっという間の2年間でした。
意外です。テレビで見ていると余裕があるように見えて。
もう全然!
東京に来てからもいろんな番組を担当する中でとにかくきょうの仕事をクリアするのでいっぱいいっぱいです。
でも、ずっと自分が成長したいって思っていて、いろいろな場所に行っていろいろな人の話を聞いて、新しい何かに気づかせてもらっています。
桑子さんが長野や広島にいた時、どんなところが評価されて東京でお仕事をするようになったと思いますか。
なんだろう・・・とにかく一生懸命やってきました。ちょっとざっくりすぎるよね。
でも、ノーと言わなかったかな。
何でもやってみたかったんですよね、あっという間でしたよ。
怖くはなかったですか?
怖いです。怖いですけど、やっぱり一人じゃないので教えてくれる人もいるし、チームでやる仕事なんですよ。
打ち合わせもしながら不安要素を少しでも減らしていましたね。
桑子さんのお仕事だと「ブラタモリ」を担当されていた印象があります。
タモリさんという大御所とお仕事って緊張しなかったんですか?
なんかね、これがタモリさんのすごいところで、一緒にいる人を緊張させないんですよ。
ご自身がリラックスされているから、一緒に楽しんでいいんだって思わせてくれるんです。
これがタモリさんの魅力なんだっていうのを横に立って初めて感じました。
そうなんですね!
もちろん初めてロケする直前とか、もう心臓が飛び出そうな感じだったんだけど、お会いした瞬間その心配が吹っ飛んだっていうか、「あっ大丈夫だ」って思えたんです。
ブラタモリって街を歩きながら色々お話されるので、ニュースを読むのとはまた違うかなって思うんですけど、どういうことを大切にしてたんですか?
好奇心!
あの番組って台本が渡されないんですよ。
えっ!?
場合によっては移動の車のカーテンが閉められて、ポンっと降ろされて「じゃあ歩いてください」って感じで始まるわけ。
だから全部が新しくて知らないことなので、自分の好奇心のままに専門家の方に聞いていました。
放送の感じのままですね。
あと、やっぱりタモリさんが発見したり喜んだりする顔を見たいので、私もスタッフと一緒に表情はすごく見ていましたね。
報道番組とは少し違いますね。
違いますね。
でもスタートラインは一緒で、私はスタッフに分からないことを何でも聞くので。
それがオンカメラかオフカメラかの違いで、常に同じ姿勢かもしれないですね。
番組によってしゃべり方とか表情とか、使い分けってあるんですか。
全然作ってはいなくて、少し意識を持つくらいですかね。
おはよう日本だったら爽やかに元気よく、より笑顔多くっていうのは気持ちとしては持ってました。
ニュースウオッチ9とか今のクロ現は夜の時間でジャーナリスティックなものも多いので、ちょっと落ち着いて。
元気よく「いってらっしゃい」という思いと、「おかえりなさい」「お疲れさまでした」っていう気持ちを持つ差ですかね。
いろいろなジャンルの番組を担当される中で、自分が変わったなっていうターニングポイントってありましたか。
ターニングポイントめちゃくちゃあります。
担当する番組によって毎回発見があるので、番組の変わり目がすべてターニングポイントですよね。
「ワラッチャオ!」という子ども向け番組でお姉さんを担当した時も、アナウンサーなのにこんなにゲラゲラ笑っていいのとか、こんなド派手な服着ていいのみたいな。
でも、それで何か「裸になる」っていうのを学びましたね。
自分の殻を破るっていうことですか。
そう、殻を破る。
ニュース番組も「ニュース7」は初めて東京に来て担当したニュース番組だったので、扱うニュースの幅が広すぎて・・・
しかも時間もタイトでとにかく間違えずに正確に読む、正確に伝えるっていうことがいかに大事かって学んだし。
なるほど。
その後夜11時台の「ニュースチェック11」にいた時は、ツイッターで視聴者の方から送られてくるコメントを手元のタブレットで見て、双方向で進めていくスタイルだったんですけど。
視聴者の方はこういうことを思うんだと発見があって、ニュースに対する視野をもっと広げないといけないって感じました。
はい。
それから夜9時台の「ニュースウオッチ9」の担当になると、「何がニュースか、本質か」ということを考えさせられました。
一緒に担当していた記者の有馬嘉男さんと、2人で伝えるっていうことを大事にしていました。
有馬さんに私が疑問を投げかけたり、逆に、私がプレゼンをする中で有馬さんが質問や合いの手を入れていったり。
いろいろ役割分担をしながら掘り下げるようにしていました。
2人だからできるんですね。
「相方」から学ぶことが多くて、有馬さんからは人の心に届く言葉の選び方を学びました。
「おはよう日本」では高瀬アナウンサーと一緒だったんですけど、アナウンサーとしてのスキルが本当に高いので、緊急報道の時の安心感・安定感がすばらしくって。
はい。
それに加えてコーナーごとにテンションを変えてボケてみたりツッコんでみたり、番組を通して飽きさせない技術を間近で見させてもらいました。
今のクローズアップ現代では1人ですが、毎回ゲストの方や扱うテーマから得られることがたくさんあって、まだまだ成長中という感じです。
時間帯や相手によって得られるものって違うんですね。
そうそう、驚くほど違うんですよ、面白いですね。
「あなたにとって仕事とは」っていうのを一言書いて頂きたくて。
仕事とは…
今パッと浮かんだ言葉があって、「水やり」!
どういうことですか?
分かんないよね 笑。
自分自身を成長させる水やりでもあるし、アナウンサーとしていろんなテーマを皆さんに伝える時に皆さんに知ってもらって耕してもらう。
そして、水をやることで芽が出て、何か咲くきっかけになったらいいな。
なんかおこがましいかなぁ。
さまざまな番組を担当してきた桑子さんですが、ことし4月からは長い伝統を持つ番組「クローズアップ現代」のキャスターに就きました。次回は報道という分野で情報を伝える思いを聞きました。近日掲載します。
編集:加藤陽平 撮影:加藤隼也
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