2023年3月8日
北朝鮮 朝鮮半島

北朝鮮 なぜこんなにミサイル撃つ? 思惑は?【3月7日改訂版】

北朝鮮はICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星15型」の発射訓練を2月18日に行ったと発表しました。

北朝鮮は、これまでICBM級を「発射実験」と位置づけて、繰り返し発射していますが、「訓練」だとして発射を発表したのは、今回が初めてです。

2022年、過去最多の37回ミサイルを発射した北朝鮮。ことしもミサイルの発射を繰り返すのか。また、どのような脅威があるのか。

今後の展望や北朝鮮のねらいなどについて詳しく解説します。

(国際部記者 近藤由香利 / 中国総局記者 石井利喜)

抜き打ちでICBM級の「火星15型」の訓練

防衛省は、2023年2月18日午後5時21分ごろ、北朝鮮からICBM級の弾道ミサイル1発が発射されたと発表。

北海道渡島大島の西方およそ200キロの日本のEEZ=排他的経済水域内の日本海に落下したと推定されています。日本のEEZの内側に落下したのは、2022年11月18日以来でした。

北朝鮮は2017年以降、発表したICBM級の弾道ミサイルの発射については、いずれも「発射実験」と発表していて、ICBMの開発の一環と位置づけていました。

しかし、2月18日の発射については「奇襲発射訓練」だと発表しました。北朝鮮が、「訓練」としてICBM級の発射を発表したのは初めてです。ICBM級の弾道ミサイルが実験段階から実戦配備に入ったとアピールするねらいがあるとみられています。

それを裏付けるように、北朝鮮の発表では、訓練は軍の部隊に事前に計画を伝えない、抜き打ち形式で行われた発射だと強調していました。

発射当日の未明に「戦闘待機指示」が出され、朝の8時にキム・ジョンウン(金正恩)総書記が発射の命令を下したということです。そこから、部隊は準備にとりかかり、命令からおよそ9時間30分後の午後5時半ごろに発射したとしています。

「奇襲発射訓練」と発表されたICBM級弾道ミサイル「火星15型」の発射(2023年2月19日公開)

キム総書記がトップを務める、朝鮮労働党の中央軍事委員会は「機動的な反撃準備態勢を整えた部隊の実戦能力を高く評価した」ということです。

ICBM級を発射したねらいとは?

北朝鮮は今回のICBM級の発射について「アメリカと南(韓国)の軍事的威嚇行為が看過できないほど深刻化する情勢のなか、致命的な核反撃能力を構築するための戦略核武力を示した」と強調しています。

北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は今回の発射について、2023年は定例の米韓合同軍事演習が3月13日から11日間の日程で行われることなどを前に「アメリカへの打撃力を誇示するねらいがあったのではないか」と指摘します。

南山大学 平岩俊司教授

2月18日取材

平岩教授
「北朝鮮の国防力強化の流れの中の動きであり、特にアメリカと韓国が、3月から大規模な合同軍事演習を行うことを明らかにしていることへの対抗措置として、決してひるむことなく対抗していくという、強い姿勢を示す意味があると考えられる」
「米韓の合同軍事演習への対抗姿勢の意味が大きいが、それと同時に北朝鮮は日本を含めた日米韓3か国による抑止力の強化が自分たちに対する包囲網のように受け取っている。その中心的な存在であるアメリカをターゲットにしたICBM級のミサイルを発射することで、アメリカに対する打撃力があると示すとともに、日米韓3か国に対する警告とも考えられる」

2022年は最多のミサイル発射 「実験」から「訓練」へ?

北朝鮮は2022年、かつてない頻度で弾道ミサイルなどの発射を繰り返し、1年間で過去最多の37回、少なくとも73発に上りました。これは1年間で過去最多で、キム・ジョンウン(金正恩)総書記の父親のキム・ジョンイル(金正日)氏のときに発射した弾道ミサイルなどが17年間で16発。その4倍あまりのミサイルをわずか1年で発射したことになります。

ICBM級「火星17型」発射実験とする画像(2022年11月)

北朝鮮の発表からは、2022年の前半は主に新型を含めたミサイルの発射実験を行ったことがわかります。例えば、1月は「極超音速ミサイル」、「戦術誘導弾」と呼ぶ短距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイルの「火星12型」などを「発射実験」や「試験発射」として発射したと発表しています。また、3月には新型のICBM級「火星17型」の発射実験に成功したと初めて発表しました。

しかし、夏以降、アメリカと韓国の合同軍事演習やアメリカ軍の原子力空母も参加して日米韓3か国の共同訓練が行われると、それに対抗する形で「訓練」や「軍事作戦」としてミサイルの発射を繰り返します。

9月から10月にかけては、「戦術核運用部隊」の訓練として、あわせて10回弾道ミサイルを発射。11月には、アメリカと韓国の空軍による大規模な共同訓練に対応する「軍事作戦」を実施したとして、ICBM級を含む発射を繰り返し、発射の回数は6回に上りました。

2023年に入ってからも、元日に北朝鮮が「超大型ロケット砲」と呼ぶ、短距離弾道ミサイル1発を発射。

2月18日はICBM級の「火星15型」1発、その2日後の20日には「超大型ロケット砲」と呼ぶ短距離弾道ミサイル2発、そして23日には「ファサル2型」と呼ぶ戦略巡航ミサイル4発を、いずれも発射訓練として発射しました。

アメリカは、同盟国の日本や韓国と連携して北朝鮮への抑止力を強化し、軍事演習や共同訓練を相次いで行っています。これに対して、北朝鮮はICBM級を含めたミサイルが実戦配備されているとアピールするためにも、訓練と位置づけての発射を繰り返しています。

どんなミサイルを開発しているの?

北朝鮮は「最強の軍事力を確保しなければならない」として、朝鮮労働党の創立から80年の節目にあたる2025年までの「国防5か年計画」を打ち出し、これに基づいて、新型兵器の開発を進め、さまざまな種類のミサイルを発射しています。

中距離弾道ミサイル「火星12型」

液体燃料を用いるとみられ、北朝鮮が「アメリカ太平洋軍の司令部があるハワイと、アラスカを射程に収めている」と主張する中距離弾道ミサイルです。防衛省は射程が最大で5000キロに達すると分析しています。首都、ピョンヤンを中心に半径5000キロの円を描くと、アメリカ軍の拠点があるグアムに加え、インドの首都、ニューデリーもその中に含まれます。

ICBM級「火星15型」

北朝鮮が「アメリカ本土全域を攻撃できる」と主張するICBM級の「火星15型」。片側9輪の移動式発射台に搭載され、2017年11月に初めて発射されました。北朝鮮は発射の成功を大々的に公開し、キム総書記は「国家核武力の完成」を宣言しました。2023年2月18日には発射訓練として通常より角度をつけて高く打ち上げる「ロフテッド軌道」での発射を発表。日本政府は最高高度がおよそ5700キロ程度と分析し、弾頭の重量などによっては、射程が1万4000キロとアメリカ全土が含まれる可能性があると明らかにしました。ただ韓国国防省は2017年11月の発射のときには、弾頭部分の大気圏への再突入や精密誘導などの技術を確立したのかどうかは、さらに検証する必要があると指摘していました。

ICBM級「火星17型」

2022年11月に発射された「火星17型」で、専門家から「世界最大級の移動式ICBM」と言われています。「火星17型」は、片側11輪の移動式発射台を使用し、エンジンのノズルが4つあるのが特徴です。2017年7月に発射されたICBM級の「火星14型」は片側8輪、2017年11月に発射された「火星15型」が片側9輪の移動式発射台に搭載されているのと比べるとより大型化しています。射程も「火星17型」は1万5000キロを超え、アメリカ全土を射程に含む可能性があると分析されています。また、2022年11月の発射ではキム総書記が娘を伴って立ち会いました。

キム・ジョンウン(金正恩)総書記と娘

固体燃料式とみられる新型ミサイル

朝鮮人民軍の創設75年となった2023年2月8日にキム総書記が娘を伴って出席した軍事パレードで、「火星15型」と同じく片側9輪の移動式発射台に搭載された新型のミサイルを最後に公開しました。専門家からは北朝鮮としては初めてとなる固体の燃料を使う可能性があるミサイルという見方も出ています。このミサイルについて東アジアの安全保障に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの山口亮特任助教はロシアの固体燃料式のミサイルに似ていると指摘しています。

東京大学先端科学技術研究センター 山口亮 特任助教

2月9日取材

山口特任助教
「ロシアの固体燃料式のICBM『トーポリM』に似たもので、まだ実験発射も行ってないため開発の初期段階だと思う。北朝鮮は2022年12月に固体燃料式のエンジンを実験しました。これにあわせキム総書記が、新たなタイプのミサイルを開発するように指示した。そのため今回、固体燃料式の弾道ミサイルが登場したことは、それだけ開発が進んでいることを強調していると思う」
「固体燃料式のミサイルは生産とコストが安めであり、液体燃料式のミサイルの場合は、発射する直前に燃料を注入する必要があるが、固体燃料式は燃料を入れた状態で保管できるため、より素早く発射できる。固体燃料式のICBMは、『国防5か年計画』の1つの大きな目標となっていて、北朝鮮としては2023年からよくとしにかけて急ピッチで開発と実戦配備を進めるのではないか」

「超大型ロケット砲」だとする短距離弾道ミサイル

北朝鮮が、600ミリ口径の「超大型ロケット砲」と呼ぶ兵器は、複数の発射管が、移動式の発射台に搭載され、短距離弾道ミサイルを連続して発射できるとされています。

600ミリ口径の「超大型ロケット砲」をめぐっては、2022年の大みそかに行われた贈呈式でキム総書記が「南の全域を射程に収め、戦術核の搭載が可能だ。将来、わが戦力の核心的な攻撃型兵器になる」と述べ、韓国の軍事拠点や在韓アメリカ軍基地などを攻撃する戦術核兵器として使用する可能性に言及していました。

「戦術誘導弾」だとする短距離弾道ミサイル

従来のミサイルより高度が低く、変則的な軌道で飛行し、迎撃するのが難しいと指摘されています。ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の改良型やアメリカが保有する「ATACMS」という(エイタクムス)短距離弾道ミサイルに類似しているという指摘が出ています。

長距離巡航ミサイル

放物線を描く弾道ミサイルとは異なり、低い高度で長時間飛行し、レーダーで捉えるのが難しいうえに命中精度が高いとされるミサイルです。北朝鮮は戦術核運用部隊に戦術核の搭載を想定して実戦配備されていると主張しています。

2023年2月23日には、戦略巡航ミサイル「ファサル2型」を日本海に向けて発射し、2時間50分以上かけて、8の字やだ円の軌道で、2000キロ飛行したと発表しています。

「極超音速ミサイル」と主張する弾道ミサイル

極超音速ミサイルとは音速の5倍にあたるマッハ5以上、東京ー大阪間をおよそ5分で移動する速さで飛行できるミサイルです。

長時間、低い軌道でコースを変えながら飛ぶため、探知や迎撃が困難になり、アメリカや中国、ロシアなどが開発にしのぎを削っています。

韓国軍による初期の分析では、2021年9月に初めて発射実験を行ったときは飛行距離は200キロに満たず、速度もマッハ3前後にとどまったとみられています。

しかし2022年1月5日のミサイルはマッハ5以上だったと韓国メディアは伝えたほか、1月11日のミサイルについては最高速度マッハ10前後、飛行距離も700キロ以上だったとして、韓国軍は「技術的に進展している」としています。

今後の焦点は?

キム総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)氏は2023年2月20日、空軍の共同訓練を行ったアメリカと韓国を非難する談話を発表し「太平洋をわれわれの射撃場として活用する頻度は、アメリカの行動いかんにかかっている」として、再び日本列島を越えるかたちで、太平洋に向けて弾道ミサイルを発射する可能性も示唆しました。

キム・ヨジョン(金与正)氏

一方、キム総書記は建国から75年、戦争記念日と位置づける朝鮮戦争の休戦協定の締結から70年となる、2023年を「前年よりさらに大きな勝利と成果で輝かすべきだ」と

強調していて、3年目となる「国防5か年計画」のもと、核・ミサイル開発を一段と推し進める構えです。3月13日からは、米韓の合同軍事演習が行われることになっていて、さらなる軍事挑発に踏み切る可能性があります。

「国防5か年計画」では、戦術核兵器の開発や、ミサイルに複数の弾頭を積む「多弾頭化」のため、核弾頭のいっそうの小型化・軽量化を掲げていて、7回目の核実験はいつでも実施可能だとみられています。また固体燃料式のICBMの開発も掲げ、固体燃料式のICBM級の可能性が指摘される新型ミサイルは、2023年の上半期にも発射実験を行う可能性も指摘されています。さらに北朝鮮として初めてだとする軍事偵察衛星についても、2023年4月までには準備を終えるとしていて、「偵察衛星の打ち上げ」として事実上の長距弾道ミサイルが発射される展開も予想されています。

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