2023年6月9日
アメリカ大統領選挙2024 トランプ前大統領 アメリカ

トランプ派に“乗っ取られる”共和党

2024年秋に予定されているアメリカ大統領選挙。

選挙まで1年半を切り、野党・共和党からは立候補を表明する候補者が増えてきました。

こうした中、全米各地の共和党支部で、ある“異変”が起きています。

トランプ前大統領を熱烈に支持する“トランプ派”が勢いづき、席巻しているのです。

急速に勢力を増す背景はなんなのか?そして、来年の大統領選挙にどんな影響をもたらすのか。

“トランプ派”によって混乱する現場の1つを取材しました。

(国際部記者 岡野杏有子)

孤立深める“従来の”共和党員

ミシガン州オタワ郡グランド・ヘブン市

訪れたのは、中西部ミシガン州の人口30万人ほどのオタワ郡です。

前回・2020年の大統領選挙で、ミシガン州はバイデン大統領が勝利しましたが、郡内の投票結果だけをみると、トランプ氏が圧勝した地域です。(※郡はアメリカの地方政府の単位で、ミシガン州には83の郡がある)

この地域で起きている“異変”について話を聞いたのは、郡内のグランド・ヘブン市で市長を務めたこともある、共和党支持者のロジャー・バーグマンさんです。

ロジャー・バーグマンさん

始まりは、去年の秋に行われた、地域の政策の決定など行政機能を担う郡委員会の委員を選ぶ選挙だったといいます。

元々、共和党が強いオタワ郡では、11人の委員のうち10人を共和党が占めていました。

ところが、突如、トランプ氏を支持する新興の政治団体から支援を受けた、同じ共和党の新人が数多く立候補して、8人が当選。委員会の多数派となったのです。

団体から支援を受けなかった共和党の現職はほぼ落選し、当選したのはバーグマンさんを含めて2人だけでした。いわば、共和党の委員たちが、軒並み“トランプ派”に塗り替えられたのです。

ロジャー・バーグマンさん
「新興の政治団体は資金力が豊富で、支援を受けた候補はメディアにも多く露出したことで簡単に勝利した。私は市長選挙に立候補した時に大規模な選挙運動を展開したことがあり、今回も多くの資金を投入して当選できたが、ほかの現職だった委員たちは落選してしまった。ショックだった」

この政治団体は2年前、新型コロナの感染対策に伴う規制への不満から結成されました。

立ち上げの中心となったのはマスク着用の義務化や、学校や職場へ通うことの制限などに反発した共和党内でも保守強硬的な考え方を持つ支持者たち。団体は主張が重なるトランプ氏を支持しています。

2年前に結成された政治団体

穏健派のバーグマンさんも、団体の考え方に一定の理解は示しています。ただ、団体の支援を受けなかったのは、みずからの考えとは異なる意見を排除する姿勢に疑問を感じたからでした。

しかし、団体から距離を取ったことで、バーグマンさんはミシガン州の共和党支部から追い出されることになりました。

いま、オタワ郡以外の郡や州の党支部でも、この団体のようにトランプ氏を支持し、異なる立場を認めないような極端な勢力が力を伸ばしていて、ロイター通信によると、州内の半分以上の郡の党支部で主導権を握っているといいます。

ロジャー・バーグマンさん
「州の共和党支部はバラバラになり、極右勢力に乗っ取られた。共和党支部から『あなたはもう本当の共和党支持者ではない。会合への参加も許されない』と言われた。彼らは私を共和党から排除したのだ」

異論を許さず行政が混乱

異なる考え方を持つ人は、たとえ同じ共和党支持者であっても排除する。異論を受け付けない姿勢によって、行政も混乱しています。

ことし1月に行われた委員会の初めての会合。政治団体の代表でもある委員は、委員長に選ばれると、予定になかった議題を取り上げました。

選挙後のオタワ郡委員会の初会合

多様性を促進する部署の廃止、保健部局のトップの交代。

これまでの行政方針がほとんど議論する機会もなく、次々と転換されていきました。

この委員会を傍聴していた、地元のNPOを運営するバーバラ・リー・ハンホルスセンさんは、ショックを受けたといいます。

バーバラ・リー・ハンホルスセンさん

NPOでは、2015年から精神的な困難を抱える人への支援やLGBTQなどの性的マイノリティーの人たちへの理解促進などに取り組んでいきました。

保守的な地域で活動することは容易ではなく、地道な努力を続けて少しずつ理解を得てきたといいます。その結果、今では活動資金のおよそ半分は郡からの支援でまかなっています。

しかし、政治団体はこうした取り組みに否定的なため、ハンホルスセンさんは支援が打ち切られるのではないかと不安を抱えています。

ハンホルスセンさんは団体の支援を受けた委員たちに対し、施設の見学を呼びかけるなど、働きかけを続け、理解を得ようとしています。

バーバラ・リー・ハンホルスセンさん
「委員会は行政サービスを提供するためのものであって、行政サービスを政局化してはならないと思う。地域の人たちの利益のためであるべき判断が、政治的目標のためにゆがめられてしまっているようにみえ、心配している。100%賛同してもらわなくてもいいが、お互いが納得できる形を探らなければならない。私たちの仕事を理解してもらうため、あらゆることをしていく」

党内の分断ではなく融和を

こうした混乱を生じさせている団体の手荒な手法についていけないと、距離をとる動きも出始めています。

委員の1人で、共和党員のジェーコブ・ボネマさんは団体から支援を受けて当選しました。

ジェーコブ・ボネマさん

当初は団体の理念に共鳴したものの、性急に自分たちの考えを押し通す姿勢などをみて落胆したといいます。

ジェーコブ・ボネマさん
「初会合で重要な判断を早急に行ったのは残念だったし、やり方も無礼だと思った。団体の代表にも『残念だし、信頼関係が失われた』と伝えた。人々は変化を求めたが、このようなやり方は求めていたものではない」

その後も、過去の委員会の投票結果を覆すなど、目に余る行動が多かったことから、団体との関係を断つことにしました。

ボネマさんは共和党内が分断してしまっている状況では、来年の大統領選挙で民主党を利するだけになると考えています。

ボネマさんが期待を寄せているのは、大統領選挙に向けて立候補を表明したフロリダ州のデサンティス知事です。彼ならば、トランプ氏とは違って共和党をまとめ上げ、幅広い支持層を獲得することができるかもしれないと考えています。

ジェーコブ・ボネマさん

「『自分たちと100%足並みがそろわない』からといって、相手を排除するのは勝利をおさめるための戦略ではない。共和党の支持を広げるため、われわれとは異なる共和党支持者にもアプローチし、一緒に働かなければならない。デサンティス知事は2番手につけていて、みんなどんな候補になるか見ているところだと思う」

今回、委員会での対応が強引だと批判の声が上がっていることについて、団体に取材を申し込みましたが、回答を得ることはできませんでした。

第3の選択肢を模索する動きも

一方、共和党から追い出されたバーグマンさんは今の共和党に愛想を尽かしたといいます。そこで、自身と同じような考えを持つ仲間を増やそうとしています。

来年行われる郡委員会の委員を選ぶ選挙で“トランプ派”を追い出すために計画しているのが、超党派のグループの結成です。

現在、郡内には“トランプ派”と対じする5つのグループが別々に活動していますが、共和党・民主党にかかわらず、それらのグループを1つにまとめあげ、候補者を擁立しようとしています。

仲間と議論をするバーグマンさん

バーグマンさんは、大統領選挙でもこのような第3の選択肢を求めています。

ロジャー・バーグマンさん
「誰に投票すればいいか分からない。同じような懸念を持っている人はたくさんいると思う。民主党でも共和党でもなく、党の看板のないグループが強い候補を擁立してほしい。政府のことを考える候補が必要だ」

専門家は、こうした“新しい選択肢”を求める動きは今後さらに活発になっていくとみています。

ミシガン大学 ジョナサン・ハンソン講師

ミシガン大学ジョナサン・ハンソン講師
「今は(共和党内では)トランプ派が優勢であり、これまでの主流派は荒野の中で迷子になっているようにみえる。こうした動きは人々の間で不満を抱かせ、『こんなことは受け入れられない』という人々を結集させることになると思う。そうした中、第3の政党が候補者を出したら、大きなインパクトになるはずだ」

トランプ氏をめぐるこうした共和党内の分断は全米各地で起きています。

ニューヨーク・タイムズによると、ペンシルベニア州やジョージア州、ネバダ州などでもミシガン州のようにトランプ氏を支持する勢力が力を伸ばしているといいます。

夏には、大統領選挙に立候補を表明した共和党の候補者による討論会が開かれる予定で、大統領選挙に向けた動きは活発化していきます。

大統領選挙に向かう中で、党内はまとまっていくのか、それとも分断が深まっていくのか。これからもアメリカの地方から起こるうねりを追いかけていきます。

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