2022年12月19日
韓国 北朝鮮 アメリカ

北朝鮮 新型ICBM発射実験「成功」 その時 在韓米軍基地は

11月18日、私たちは韓国にあるアメリカ軍基地で取材をしていました。その日は、まさに北朝鮮によって新型のICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星17型」が発射された日。
「対北朝鮮抑止の最前線」の在韓アメリカ軍基地では、そのとき、何が起きていたのか。

そして、キム・ジョンウン(金正恩)政権がかつてないペースでミサイルの発射を繰り返す中、単独インタビューに応じた在韓アメリカ空軍のトップが語ったこととはー

(国際部記者 山下涼太)

ICBM級発射、そのとき

「北朝鮮がまた、弾道ミサイルを発射したらしい」

11月18日午前10時すぎ、その一報が入ってきたのは、私たちがソウルから南に1時間半ほど車を走らせ、ちょうど高速道路を降りたときでした。

向かっていたのはアメリカ軍オサン(烏山)基地。在韓アメリカ空軍の司令部が置かれ、対北朝鮮抑止の要となっている基地内での取材がこの日、特別に許可されていたのです。

すぐに車のラジオを韓国のニュース番組に合わせると、韓国国防部の発表をもとにした弾道ミサイルの発射についての速報が流れていました。

車を止め、車内のテレビでニュースを見ると、北朝鮮が発射したのは大陸間弾道ミサイル=ICBM級とみられると伝えられていました。取材の開始は正午すぎから。この日に合わせたかのような発射に車内は一気に緊張感に包まれました。

実は、発射の前兆はありました。

日米韓3か国は、11月13日に行われた首脳会談で、かつてない頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮を非難し、アメリカの核戦力などで日本や韓国を守る「拡大抑止」を強化するなどとした共同声明を発表していました。

これについて、北朝鮮のチェ・ソ二外相が17日、「アメリカが同盟国への『拡大抑止の強化』に執着し、朝鮮半島や周辺地域で挑発的な軍事的活動を強化すればするほど、われわれの軍事対応はさらに猛烈になる」と強くけん制する談話を発表していたのです。

ICBM=大陸間弾道ミサイル「火星17型」の発射実験(2022年11月19日公開)

その1時間半あまりあと、北朝鮮は東部から日本海に向けて短距離弾道ミサイルを発射。その翌日の18日、私たちの在韓アメリカ軍取材の直前、ICBM級のミサイルが発射されたのです。

ミサイル発射当日 在韓アメリカ軍基地では

アメリカ軍から待ち合わせ場所に指定されたオサン基地近くの公園に到着すると、U2偵察機が離陸する様子が目に飛び込んできました。

アメリカ軍のU2偵察機

U2偵察機は北朝鮮の動向監視のために在韓アメリカ軍が配備している偵察機です。細長い機体と翼、そして黒い見た目が特徴的なU2偵察機は2万メートル以上の高度から特殊なセンサーやカメラ、レーダーなどで軍事施設などの情報収集にあたるのが任務です。このときも弾道ミサイルを発射した北朝鮮を監視するためにオサン基地を離陸していたとみられます。

まさにこれから対北朝鮮の現場の最前線に足を踏み入れようとしているのだと改めて実感しました。

アメリカ軍オサン基地とは

ほどなくして、約束の集合時間にアメリカ軍の広報部が迎えのバスで現れました。撮影機材とともに車内に乗り込み、基地内へと出発。車内では、広報部の担当者が「『隣人』のせいでたくさんメディアの問い合わせが来ている」と苦笑いを浮かべていました。

アメリカ軍オサン基地はおよそ2700メートルの滑走路を備えた空軍の基地です。1986年から第7空軍の基地として使用されているほか、任務の指令などを担う基地内のアメリカ軍のオペレーションセンターは韓国軍と共同で運用されています。

ことし5月には訪韓したバイデン大統領もユン大統領とオペレーションセンターを訪れて米韓両軍のスタッフを激励。米韓の結束を強調しています。

主力戦闘機パイロットは

基地に入って最初に案内されたのは格納庫でした。そこには在韓アメリカ軍の主力戦闘機、F16の機体がありました。

F16戦闘機

日本では青森県のアメリカ軍三沢基地に配備されているF16戦闘機は、韓国ではオサン基地とクンサン(群山)基地に配備されています。

基地内で1人のパイロットに出会いました。去年12月にオサン基地に配属されたというF16のパイロット、チャンドラー・ジャクス(Chandler Jax)大尉です。

チャンドラー・ジャクス大尉

10月末から11月5日まで行われた米韓両軍の訓練にも加わっていたという彼女。「韓国に駐留している大きな利点は絶えず韓国軍などと訓練を行えることだ」とオサン基地の役割の重要性を強調しました。

北朝鮮による挑発的な行動が相次ぐ中で、どのような心境か問うと、きっぱりとした口調で次のように話しました。

ジャクス大尉
「朝鮮半島に足を踏み入れたその日からF16のパイロットとしての私の役割は訓練をし、要請があれば任務を遂行できるように準備することだ。北朝鮮がなにをしようと、私たちは任務を行う準備ができている」

アメリカ軍は北朝鮮脅威をどうみているか

次に案内されたのは第7空軍の司令部。建物の入り口にはそこからアメリカの首都、ワシントンなどとの距離が書かれた看板が立っていました。

看板の一番上には、「ピョンヤンまで131マイル」と書かれていました。

ここが北朝鮮対応を最重要課題とする在韓アメリカ空軍の心臓部だということを強く意識付けられましたが、建物内の雰囲気は、ICBM級のミサイル発射の当日でも平静そのものでした。

案内された会議室では以前、在日アメリカ軍でも勤務したことがあるというシャンバーグ中佐が在韓アメリカ空軍の役割などについてスライドを使って解説してくれました。

すると、気になるスライドが目にとまりました。「やっかいな問題(Wicked Problem)」というタイトルが付けられていたそのスライドです。

「やっかいな問題」とは
利害関係者が多すぎたり、解決する課題の把握が難しかったりすることから、解決策を導き出すことが困難か、不可能なことを意味する言い回し

そこには北朝鮮が砲撃演習を行っている様子や弾道ミサイルの写真、そしてキム・ジョンウン総書記が核開発の現場を視察している写真が掲載されていました。シャンバーグ中佐はこう説明しました。

シャンバーグ中佐
「北朝鮮の脅威をどうみるか、それはまさに“やっかいな問題”という表現そのものだ。北朝鮮は世界で第4位の規模の地上部隊を擁し、数が多ければ、それだけ脅威になる。特に地上部隊の大半は韓国と北朝鮮の間の非武装地帯周辺におり、韓国軍と数が限定されているアメリカの地上軍にとっては考慮にいれなくてはならない。そして北朝鮮は脅威となる長距離砲も配備していて、その多くはソウルのある首都圏を射程に収めている」

シャンバーグ中佐はさらに北朝鮮の核・ミサイル開発についても解説を続けました。

「弾道ミサイルの脅威についてはきょうもまた発射があったが、発射回数は増加の一途をたどっており、その能力は発射を通じて増している。核の潜在的な脅威も高まっており、ここからアメリカ本土にいたるまであらゆる同盟国に脅威を与える可能性がある」

在韓アメリカ空軍トップは何を語ったか

第7空軍司令官 スコット・プレウス中将

シャンバーグ中佐の説明が終わると、この日発射されたICBM級ミサイルへの対応への指揮をとっていたであろうキーパーソンが会議室に入ってきました。

第7空軍司令官、在韓アメリカ空軍トップのスコット・プレウス(Scott Pleus)中将です。

インタビュー中、率直に質問をぶつけてみました。

Q.弾道ミサイルのたび重なる発射などの北朝鮮の挑発的な行動をどう見ているのか?

「前例のない数の挑発を憂慮している。地域の緊張は高まっている。北朝鮮がアメリカ、日本、そして韓国を脅かすICBMを開発しているという考えはもはや神話ではない。これは地域全体を不安定にするものだ。とはいえ北朝鮮がミサイルを発射するたびに私たちはそれを監視して追跡することで、北朝鮮が何をしているのかを知るとともに、キム政権が兵器開発で何をしようとしているのか正確に把握することができる。こうした状況下では、韓国と同盟国を守るための即応性と能力が問われている」

Q.なぜ北朝鮮は弾道ミサイルの発射を続けるのか、その狙いをどう捉えているか?

「最近の挑発によるキム・ジョンウン政権の目標は、国連安全保障理事会による制裁を少しでも和らげるために国際社会の関心を引きつけることだ。そして、最終的には体制の維持を図ろうとしている」

Q.北朝鮮のミサイル発射により、かつてなく緊張が高まっている状況か?

「いまは緊張は高まっているとは思うが、もっとも高まっているとは言えない。ある年には挑発行為が増え、次の年には減るということを繰り返してきた。そしていまは挑発行為の数が増えるサイクルにある」

Q.北朝鮮の核開発については、どう捉えているか?

「北朝鮮はいま、極めて強力な脅威を利用している。朝鮮半島に核兵器があることは地域全体を不安定にする。戦術核を含めた北朝鮮の核開発についてのアメリカの最大の目標は北朝鮮の完全な非核化だ」

Q.日米韓はどう協力していくべき?

「日本と韓国がアメリカとより緊密に連携すれば、同盟国としてさらに結束でき、北朝鮮に挑発をやめるよう、より強いメッセージを送ることができるだろう」

インタビューの終盤、私は北朝鮮に対して安全保障上超えてはいけないライン、レッドラインは引いているのか聞きました。すると、司令官はこう話しました。

「安全保障上の理由でレッドラインについては話せない。しかしわれわれはすぐにも戦う準備ができている。毎日常にその可能性に備えている。そのような事態は避けたいが、そのための準備はしている」

30分ほどのインタビューと取材に応じた在韓アメリカ空軍のトップ、プレウス中将。軍の幹部らしくほとんどの質問に簡潔かつよどみなく答えていたのが印象的でした。

続く北朝鮮の脅威

取材の翌日、北朝鮮は18日に発射した弾道ミサイルについて、新型のICBM=大陸間弾道ミサイルの「火星17型」の発射実験だったとした上で実験は成功したと発表。その様子を撮影した映像を北朝鮮国営の朝鮮中央テレビが放送しました。

「火星17型」発射実験を視察するキム・ジョンウン総書記と娘

視察したキム・ジョンウン総書記は「敵が威嚇を続けるならば、核には核で、正面対決には正面対決で応える」と述べたと伝えられ、米韓への対抗姿勢を改めて鮮明化しました。

一方でロシアによるウクライナ侵攻後のことし5月には国連の安全保障理事会で北朝鮮に対する制裁決議案が、中国とロシアによる拒否権の行使で初めて否決されるなど、国際社会の足並みはそろっていません。

こうした中で核・ミサイル開発をいっそう推し進める北朝鮮。日本や韓国、そしてアメリカはキム・ジョンウン政権をどう食い止めるのか、まさに答えのない「やっかいな問題」が改めて突きつけられたと感じた取材でした。

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