「借金がなくなる!?」誇大なネット広告でトラブル相次ぐ

『借金全額免除!?』『国が認めた借金救済制度』

具体的に何の制度のことを言っているのか分からないけれど、誰でも借金を減らせるかのような印象を与える広告、見たことがある人は多いのではないでしょうか。

多重債務者の生活再建のためにある「債務整理」。弁護士や司法書士が出てきたからもう大丈夫と思ったら、かえって生活が苦しくなったという声が次々と上がっています。

(デジタルでだまされない取材班 / 科学文化部 絹川千晴)

動画広告、気になってタップしたら…

「借金が減らせる」とうたうネット広告を見て弁護士事務所に依頼したという40代の女性。

女性は、生活費のため消費者金融から65万円を借り、返済に追われていました。

2023年3月、スマートフォンで動画配信サイトを見ている時に『借金が減った!』という体験談をうたう動画広告が流れてきて、気になってタップしたといいます。

すると、借金が減るかを無料診断できるウェブサイトに誘導され、借金額や連絡先などを入力したところ、都内の弁護士事務所から連絡が来ました。

弁護士事務所の事務員とLINEやメールでやりとりした結果、毎月、積立金を振り込むよう言われました。

これまでの月々の返済額と比べて1000円ほど安い金額だったため、依頼することを決め、8か月でおよそ13万円を払ったということです。しかし、12月に消費者金融との示談がまとまったといわれた返済額は、遅延利息を含めた76万円。

借金が減っていないことを疑問に思って自治体の消費生活センターに相談したところ、本来は破産手続きを進めるべき状況だったと伝えられました。

支援団体の司法書士を通して弁護士事務所との契約を解除しましたが、積立金だと言われて払ってきたお金は、着手金だったとして返還されなかったということです。

40代 女性
「借金が減ったという喜びの声のような動画の広告を信じてしまい、支払いについては本当に簡単な説明しか受けませんでしたが、弁護士が言うならそういうものなのだろうと思ってしまいました。借金を早いこと少しでも減らしたいという気持ちがすごくあったので…」

“ネット広告には詐欺まがいのものも”

女性から相談を受けた多重債務者の支援をしている市民団体「全国クレサラ・生活債権問題被害者連絡協議会」の事務局次長で司法書士の新川眞一さんは、この女性の家計の状況をきちんと把握していれば、任意整理を進めるのは不適切だったといいます。

司法書士 新川眞一さん
「長期の任意整理をしても本人の借金が減らないと分かっているはずなのに、あえて示談をさせて手数料などを支払わせるビジネスモデルをこの事務所は作り上げていると考えられます。事務所の大量集客のツールになっているネット広告の中には詐欺まがいのものもあり、業界をあげて対策しなければなりません」

“ネット広告めぐる対策”で団体立ち上げ

こうした声を受けて、対策を進める団体が立ち上がることになりました。

「大量広告事務所による債務整理二次被害対策全国会議」という団体で、弁護士や司法書士、多重債務者の支援者たちで3月に結成する予定です。

2月17日、オンラインで開かれた準備会には弁護士や司法書士、多重債務者の支援者などおよそ20人が集まりました。

ネットの広告から2つの法律事務所に債務整理を依頼したという30代の男性も参加。自らの苦しい経験を話しました。

30代 男性
「法律事務所に依頼する1件の費用が高くて結局支払い金額が増えてしまって、費用を支払うためにまたヤミ金でお金を借りてしまうという本末転倒なことが起きてしまったし、生活が苦しくなった」

そもそも「債務整理」の方法は?

「債務整理」には、
▽債権者と交渉して支払い可能な額を毎月支払う「任意整理」や
▽債務を免除してもらうために裁判所で行う「破産手続き」などの方法があります。

依頼された弁護士や司法書士は、債務者の生活実態にあわせた支援が求められています。

しかし、2022年に全国の多重債務者の支援団体に対して行われたアンケート調査では、ネット広告などから誘導された法律事務所に依頼したところ、本来、「破産手続き」をすべき状況にもかかわらず「任意整理」に誘導され、より負担が増えたなどといった相談事例が、直近で37人から寄せられていました。

相談の内訳では、債務者にとって▽借金が減らなかったという事例が18件、▽事務所への支払いで新たな負債を抱えた事例が14件ありました。

また、37人のうち30人が弁護士や司法書士に直接会わずに、ネット上で手続きが進められたということです。

来月立ち上げる支援団体では、無料の電話相談会を開いて多重債務者のサポートにつなげるとともに、被害の実態をつかみたいとしています。

準備会を開いた三上理弁護士
「ネット広告から弁護士などに依頼してきちんと面談や説明を受けず、結局解決にならなかった人やかえって状況が悪化した人の相談を受けていきたい。『国が認めた借金救済制度』など、誤解を生むようなものがあふれているので、ネット広告の在り方も問うていきたい」

誇大広告をめぐって処分も

弁護士による誇大広告を巡っては、懲戒処分にあたると判断される事例も出ています。

千葉県弁護士会は、投資詐欺やロマンス詐欺の被害救済で、▽「すべてお任せ頂ければ丸っと解決いたします」などとうたい、▽消費者庁や金融庁のロゴマークをつけてネット広告を出していたのは、日弁連の規程で禁止されている「誇大広告や過度な期待を抱かせる広告」にあたる可能性があるなどとして、70代の弁護士に対して、2023年6月、懲戒処分に値すると判断し、処分の内容を審査しています。

また、広告について消費者からの意見を集めている日本広告審査機構=JAROによりますと、法律事務所などの相談業務の広告についての苦情が2023年までの3年間、毎年およそ200件寄せられていて、中には「お金が返ってくるかのような表現がまぎらわしい」など内容に関するものもあるということです。

どこに相談すれば?

借金を抱えてた人を対象にした債務整理などの相談先としては、無料の法律相談などを受けられる法テラスのほか、各地の弁護士会などによる無料の相談会が開かれています。

ところが、最近はこうした相談会に訪れる人が少なくなっていると言います。

取材で複数の弁護士から聞かれたのは、「ネット広告から債務整理を依頼し、かえって困窮する人が増えているのではないか」と懸念する声です。

多重債務などについては、各都道府県の弁護士会や司法書士会、自治体の消費生活センターなどでも相談することができます。
支援団体では、まずはこうした窓口に相談してほしいとしています。