2024年春闘 大企業100社に聞く 賃上げは? デフレ脱却は?

2024年春闘 大企業100社に聞く 賃上げは? デフレ脱却は?
ことしの春闘は今月中旬から交渉が本格化。日本経済の今後を左右する重要な局面を迎えています。

賃上げの方針は?

デフレからの完全脱却は?

国内の主な企業100社へのアンケートから見えてきたのは。

(経済部 取材班)

デフレ脱却は判断分かれる

NHKは去年12月20日から1月15日にかけて、国内の主な企業100社を対象にアンケート調査を行い、すべての企業から回答を得ました。

日本経済の現状について「デフレ=『物価が持続的に下落する状況』を脱却した」とみているかをたずねたところ、「脱却した」が21社、「脱却していない」が36社と判断が分かれました。このほか、「わからない」が26社、「無回答」が17社でした。
「脱却した」と答えた企業に理由を複数回答でたずねたところ、「日銀の目標としている2%を超える物価の上昇が続いている」が13社、「デフレに逆戻りする可能性が低い」が6社、「物価上昇にあわせて賃金が十分に上昇している」が3社でした。

一方「デフレを脱却していない」と答えた企業にその理由を複数回答で聞いたところ、「物価の上昇に賃上げが追いついていない」が28社、「コスト高による悪いインフレだから」が11社、「物価が上昇しているが景気が良くない」が7社、「デフレに逆戻りする可能性がある」が4社でした。

価格転嫁に対する意識の変化も

「デフレを脱却した」と回答した大手企業を取材しました。
仙台市に本社を置く生活用品メーカーの「アイリスオーヤマ」はことし4月に定期昇給分とベースアップ分をあわせておよそ5%の賃上げを実施する方針です。

ベースアップは5年連続です。

「デフレを脱却した」とみる理由の1つに深刻な人手不足を背景にした賃金の上昇などがあるとしています。
大山健太郎会長
「大企業だけでなく中小企業も人手不足という環境要因で賃金を上げざるを得ない。収益力がなくても賃金を上げない限り、人を雇用できない状況だ。自社でも人口構造が変化する中で若い社員をより多く採用したい」
円安などを要因として海外から輸入する資源や食料の価格が上がったことや、価格転嫁に対する企業や消費者の意識の変化も「デフレを脱却した」と回答した理由だといいます。
大山健太郎会長
「『値上げをするとシェアがとられるのではないか』という恐怖感があったが、賃上げが業種全体に広がったことでシェアが落ちる不安感が比較的少なくなって、値上げをしやすい環境になっている」
一方で自社やグループのビジネスでは、主力の家電事業で売り上げが減少しているといいます。

このため輸出が増加している「パックごはん」の製造・販売や、人手不足で法人用の需要拡大が見込まれるロボット掃除機などの成長分野の事業を強化していくとしています。

大山会長は賃上げの動きが非正規雇用で働く人など幅広い層に広がることが今後の課題だとしたうえで「本来、消費をしたい層に賃金が回るということは、その分だけ消費が増える。ものづくりメーカーとしても将来的に明るい側面だろうと考える。適正な賃金のなかで適正な消費をするそういうムードが少しずつ広がってきた」と指摘します。

節約志向、賃上げ不可欠

一方、「デフレを脱却していない」と答えた企業からはその理由について消費者の根強い節約志向のほか、「デフレ脱却の好機を迎えているが物価および春闘を含めた賃金の動向をしばらく見守りたい」という声も聞かれました。
ファミリーレストラン大手 すかいらーくホールディングス
「デフレの真っ只中ではないものの、脱したとは言い切れない状況と考えている。賃上げと適正な価格転換が経済の好循環には不可欠だ」
展開するレストランでは、小皿のメニューを充実して追加の注文につなげるなど、メニュー構成を工夫することで、客数と客単価の向上を目指しているといいます。

賃上げ方針は前年より増加

また、100社へのアンケートではことし、賃金の引き上げを行うかもたずねました。

「引き上げる」は18社、「引き上げる可能性が高い」は27社で、あわせて45社が引き上げに前向きで、1年前の前回調査の42社よりも増えたことがわかりました。
「引き上げる」、「引き上げる可能性が高い」と回答した企業45社に、賃金の水準の見通しを聞いたところ「前年を上回る」は14社、「前年並み」は9社、「検討中」は21社となりました。

「検討中」を除くとほとんどが「前年を上回る」もしくは「前年並み」としていて、賃上げの勢いは一定程度、維持される見込みであることがうかがえます。

「価格転嫁の実施」67社

「この1年での自社のサービスや製品の価格転嫁の進捗」についてたずねたところ、「十分な価格転嫁を済ませている」は9社、「一定程度、価格転嫁している」は58社と「価格転嫁」を実施していると回答したのはあわせて67社に上りました。
さらに「この1年で取引先からの値上げ要請を受け入れているか」をたずねたところ、「受け入れている」は40社、「一部、受け入れている」は35社で、「受け入れ」をしているとしたのはあわせて75社となりました。

景気の見通し「拡大」72社

ことしの国内の景気の見通しをたずねたところ、「拡大」が1社、「緩やかに拡大」が71社と、「拡大する」としたのは、あわせて72社に上りました。
1年前の調査では「拡大」と回答した企業は2社、「緩やかに拡大」が54社で今回はあわせて16社増えています。

「拡大」、「緩やかに拡大」と回答した企業にその理由を複数回答で聞いたところ、「個人消費の回復」が58社、「インバウンド消費の回復」が46社、「設備投資の増加」が43社、などとなっています。

また、「賃金の上昇」と答えた企業は33社で1年前の調査の7社から大幅に増えています。

去年の春闘で賃上げ率が30年ぶりの高い水準となったことなどを受け、「賃金の上昇」が景気の拡大につながっていると考える企業が増えたとみられます。

一方、能登半島地震の今後の景気への影響については、「引き続き状況を注視していく」とする企業があったほか、「北陸地域の観光やサービス業への影響が長期化することが懸念だ」と回答する企業もありました。

ことしの春闘は「日本経済の大きな節目」

日本経済の課題などをみずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介 主席エコノミストに聞きました。

Q.ことしの春闘をどう位置づけているか?

日本経済の1つの大きな節目になり得る。

去年を上回るくらいの高い水準の賃上げが実現できれば、現在、マイナスの実質賃金がプラスに向かう可能性が高くなる。

賃金の伸びが物価の伸びを上回るようになれば、消費をもう少し増やしてもいいと思う人も増えてくるので、個人消費の回復基調が強まっていくだろう。

企業も価格転嫁をしやすくなり、物価が持続的に下落するデフレからの脱却に向けた動きが強まるのではないかという期待にもつながる。

そして賃上げの動向によっては日銀の金融政策の判断にも影響を与える可能性もあり、大きく注目される。

Q.賃上げに向けた課題は?

中小企業が賃上げの原資を十分に確保できているか不安が残る。

さらに賃上げの分を十分に価格転嫁できるのかも懸念される。

中小企業の中には去年、社会的に賃上げをしなければいけないという空気感が醸成され、人材を確保するためにもと、本当は苦しいけれども歯を食いしばって賃上げに踏み切ったというところも多かったと思う。

中小企業の賃上げをいかに広めていくか、持続的なものにしていくかが今後の課題になる。

賃上げの動きが弱く、実質賃金がプラスにならないと、個人消費の回復ペースが鈍いものになってしまう。

体力のある企業を中心に製品を値下げする動きが誘発されやすくなり、価格転嫁できない中小企業などが賃上げに踏み切れなくなるという悪循環につながってしまうリスクも考えられる。

Q.賃上げの動きを広め、持続的にしていくために、何が必要か?

まずは企業が賃上げの原資として、売り上げを伸ばすことが必要だ。

そして政府が、企業の商品・サービスの差別化などの取り組みを後押しすることも重要だ。

成長分野に労働者が移動し、賃金の上昇につながるという労働市場の活性化策も大きな論点になる。

そして社会全体としても、賃金が上がるのはある意味当たり前で、一定程度、価格に転嫁されていくのが当然だという空気感の醸成が大切だ。
(1月24日「おはよう日本」で放送)

100社アンケート回答企業 五十音順

IHI、アイリスオーヤマ、旭化成、アサヒグループホールディングス、味の素、イオン、いすゞ自動車、伊藤忠商事、インターネットイニシアティブ、AGC、ANAホールディングス、SGホールディングス、ENEOSホールディングス、王子ホールディングス、大阪ガス、花王、鹿島建設、川崎重工業、キヤノン、京セラ、キリンホールディングス、KDDI、小松製作所、サイバーエージェント、サントリーホールディングス、JFEホールディングス、JTB、J.フロント リテイリング、塩野義製薬、資生堂、清水建設、商船三井、すかいらーくホールディングス、スズキ、SUBARU、住友化学、住友金属鉱山、住友商事、住友電気工業、西武ホールディングス、セブン&アイ・ホールディングス、ゼンショーホールディングス、大和証券グループ本社、中部電力、ツルハ、TSIホールディングス、ディー・エヌ・エー、デンソー、東海旅客鉄道、東京エレクトロン、東京海上ホールディングス、東京ガス、東京電力ホールディングス、東芝、東レ、TOPPANホールディングス、トヨタ自動車、日産自動車、日本製紙、日本製鉄、日本電気、日本電信電話、ニデック、日本航空、日本生命保険、任天堂、野村ホールディングス、博報堂DYホールディングス、パナソニックホールディングス、東日本旅客鉄道、日立建機、日立製作所、ビックカメラ、BIPROGY、富士通、富士フイルムホールディングス、ブリヂストン、マツダ、丸紅、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三井不動産、三越伊勢丹ホールディングス、三菱ケミカルグループ、三菱自動車工業、三菱重工業、三菱商事、三菱電機、三菱UFJフィナンシャル・グループ、村田製作所、明治、メルカリ、モスフードサービス、ヤマトホールディングス、ヤマハ発動機、ユニ・チャーム、LINEヤフー、楽天グループ、リクルートホールディングス、ローソン