経済3団体の新年会 祝賀ムードは自粛 地震被災地を支援の考え

経済団体主催の新年会が5日、都内で開かれ、能登半島地震を受けて金びょうぶ前の出迎えやアルコールの提供を取りやめるなど祝賀ムードは自粛されました。経団連の十倉会長は経済界として被災地支援に力を入れる考えを示しました。

ことしは「新年祝賀会」から「新年会」に変更

経団連と日本商工会議所、それに経済同友会の経済3団体のことしの新年祝賀会は、能登半島地震や羽田空港で起きた事故を受けて、名称から「祝賀」を取って「新年会」に変更し、都内で開かれました。

会場では3団体のトップが「金びょうぶ」の前で出席者らを出迎えるのが恒例でしたが、ことしは金びょうぶは取り除かれ、会の冒頭、出席者らは地震や事故で亡くなった人たちに黙とうをささげました。

また、会場ではアルコールの提供もとりやめとなり、乾杯の発声も行われませんでした。

経団連の十倉会長は、あいさつで「すでにさまざまな企業が物資の供給やインフラの復旧、生活サービスの維持、生活復旧支援などに取り組んでいる。経済界は引き続き、被災地の皆さまに寄り添った支援を行っていく」と述べました。

経団連では会員企業に対して寄付や物資などの提供を呼びかけています。

また、日本商工会議所も被災した地域の商工会議所で中小企業や小規模事業者の資金繰りなどの相談に応じる窓口の設置をサポートするなど、経済界でも支援の動きが進んでいます。

経団連 十倉会長

新年会の終了後、経済団体のトップがそろって記者会見しました。

この中で、経団連の十倉会長は、今回の地震について「多くの人命が失われ、行方不明の方もたくさんいる。被災に遭われた方は冬の寒い時期に日常を取り戻すために頑張らないといけない大変な事態になっている。あらゆる資源を第一優先でつぎ込んで、日常を取り戻さないといけない」と述べ、支援の必要性を改めて強調しました。

一方、ことしの日本経済の見通しについては「ことしは特別な意味合いがありデフレからの完全脱却を目指さないといけない。構造的な賃上げや将来の不安を取り除くための全世代型の社会保障改革など、いろいろなことをしてこの千載一遇のチャンスを逃さずやらないといけないと思っている」と述べ、経済の好循環に向けて継続的な賃上げなどに取り組む考えを改めて強調しました。

日商 小林会頭

日本商工会議所の小林会頭は、企業の賃上げについて、中小企業にとっては生産性の向上と、材料費や人件費の価格転嫁を通じて原資を確保することが重要な課題だと指摘しました。

そのうえで「日本も成長のサイクルを回すにあたっては労務費が上がることをお互いに認めていくようになることを願っている。時間はかかると思うが途に就いていて、ことしの春闘の目標の1つだ」と述べました。

能登半島地震 経済への影響や被災地の支援について

ローソン 竹増貞信社長

大手コンビニエンスストアのローソンの竹増貞信社長は、今回の地震で被害を受けた店舗の復旧状況について「きょう時点で3店舗が休業しているが、店舗の再開と安定した商品供給に努めている。住民の方へ安心を届けるという意味でもまず店を開けることが一番の役割だと思う」と述べました。

そのうえで、休業している店舗のうち2店舗については、冷蔵ケースが壊れるなどして応急処置では再開するのが難しいとしていて「まずは移動販売車でできることをやっていこうと考えている。店長たちも被災者であるため、お店を継続するために本部の社員がシフトに入るなどして運営していくことが大事だ。お客さんのニーズを聞いて街に届けていくなど、できることは全てやっていきたい」と述べました。

伊藤忠商事 岡藤正広会長

大手商社、伊藤忠商事の岡藤正広会長は、今回の地震の日本経済全体への影響について「石川県だけでいえば、経済規模は日本全体の1%に満たないため、影響はそれほど大きくないのではないか」と述べました。

一方、傘下のファミリーマートがコンビニ大手3社の中で石川県内の店舗数が最も多く、トラックの配送が難しい状況にあることを踏まえ「食料や水は確保しているが、問題は届ける方法がないことだ。二次災害が起こらないよう車が入る許可が行政からおりず、社員100人ほどが商品をかついで持って行くこともある。早く道路を直さないとなかなか進めない」と述べ、道路の早期復旧の必要性を訴えました。

出光興産 木藤俊一社長

石油元売り大手、出光興産の木藤俊一社長は今回の地震で被害を受けたガソリンスタンドの復旧状況について「地域に必要なエネルギーを供給する事業者として、しっかりと対応する。自社の系列では石川県、富山県、新潟県の3県の5か所で残念ながら営業できていないが、そのほかの給油所は時々刻々変わっているが復旧している状況だ」と述べました。

そのうえで、木藤社長は「道路で運べないところは小型のタンクローリーやドラム缶に灯油などの石油製品を詰めて運んでいる。また、道路の渋滞を回避するためにパトカーでの先導やヘリコプタ―を使った石油製品の供給なども行っていく」と述べました。

すかいらーくホールディングス 谷真会長

ファミリーレストラン大手、すかいらーくホールディングスの谷真会長は、今回の地震が消費に与える影響について「災害時に自分だけが楽しむということには極めて抑制的な国民性があり、消費への影響は少なからずあると思う。北陸は魚介類の宝庫だが、こうした食材の購買や集荷が極めて難しくなり、消費者向けの提供が滞ることは間違いない」と述べました。

被災地への支援活動について、谷会長は「全国に9万人の従業員がいるので、家屋の片付けや飲食の提供などでお手伝いするボランティアチームを作り、しかるべきタイミングで活動を始めたい」と述べました。

トヨタ自動車 佐藤恒治社長

トヨタ自動車の佐藤恒治社長は、今回の地震を受けた会社としての支援について「トヨタの物流ルートや販売店網のネットワークを使って物資の準備をしている。石川県と連携を取りながら、できる限りの支援をしていきたい」と述べました。

そのうえで、自動車産業のサプライチェーンへの影響については「多くの仕入れ先の製造拠点があるのも事実で、稼働が可能なのか、在庫がどの程度あるのかについて情報把握に努めているところだ」と述べ、トヨタの工場の稼働にも影響が出るかどうか調査していることを明らかにしました。

東芝 島田太郎社長

東芝の島田太郎社長は、今回の地震の影響で稼働を停止している石川県能美市の半導体工場について、今月10日から一部の生産工程で再開を目指すことを明らかにしました。

この工場で生産するパワー半導体の3割余りは自動車向けに出荷されていて、サプライチェーンへの影響が懸念されています。

島田社長は「クリーンルームの配管がダメージを受けている状況だ。修理が必要かどうか明確にはなっていないが、10日から始められそうという感触は得ている。お客様にできるだけ早く安心していただけるように全力を尽くしたい」と述べました。

サントリーホールディングス 新浪剛史社長

飲料大手、サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、今回の地震による経済への影響について「実態はまだよくわかっていないが、半導体関連、自動車部品、精密機械などが集積する場所なので、中長期にわたって日本経済への影響はあるのではないか」と述べました。

また、外国人観光客への影響に懸念を示し「海外の方々に、日本に来るとこのような地震があって怖いと思われないようにすることがたいへん重要だ。せっかくコロナ禍が終わって多くの観光客が来ているので、日本全体がインバウンド需要を失わないように対策を打つ必要がある」と述べました。

森トラスト 伊達美和子社長

ホテル事業も手がける不動産大手「森トラスト」の伊達美和子社長は、今回の地震を受けて、日本を訪れる外国人旅行者など観光への影響は今の時点で顕著には出ていないとしたうえで、観光地としての北陸地方について「エリアとしての価値が損なわれたわけではないと思うので、長期的なものにはなるが、地域の方、そして全国で助け合い、協力し合いながら観光を復興させていくという気持ちを持つことが重要だと思う」と述べました。

みずほフィナンシャルグループ 木原正裕社長

金融大手、みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長は今回の地震による経済への影響について「新潟と北陸3県は電子機械、電子部品、金属加工、そして化学メーカーなどいろんな産業が集積しているため、復旧までの時間が長引くほど経済の影響も出てくると思う。復旧に向けた金融面でのサポートは全面的にやっていきたい」と述べました。

ことし1年の経済の見通しについて

サントリーホールディングス 新浪剛史社長

賃上げをめぐって「ことしは賃上げと物価の好循環をつくる元年になる。賃金は上がるものだという社会通念をつくることが企業の社会的責任だ。賃金が上がる中で生産性を向上させ、社員が一生懸命働けるような環境を作っていきたい」

みずほフィナンシャルグループ 木原正裕社長

ことし1年の経済の見通しについては「4月以降、春闘での賃上げがなされ、実質賃金がプラスになって消費も回復してくる。企業が投資をすることで成長し、その果実を賃上げという形で社員に分配をし、消費につながる循環ができるかが鍵になる」と述べ、会社としても来年度に7%程度の賃上げを実施する方針を示しました。

そのうえで、市場の関心が高まる日銀の金融政策の転換については「中小企業が賃上げできるかどうかが大きな論点になる。中小企業でも一定の価格転嫁を社会全体として認めていく風土になれば、賃上げも進んでいく」と述べました。

岸田首相 物価上昇を上回る賃上げへ経済界に協力要請

岸田総理大臣は、東京都内で開かれた経済3団体の新年会に出席し、経済の好循環を確かなものにしていくためには物価上昇を上回る賃上げが不可欠だとして、実現に向けた経済界の協力を要請しました。

この中で、岸田総理大臣は「日本の経済は『コストカット型経済』から所得の増加と成長の好循環による新たな経済へ移行する大きなチャンスを迎えている。昨年、30年ぶりの水準となった賃上げや投資、株価の流れを決して後戻りさせることなく、確かなものにしていくため、あらゆる手だてを尽くしていく」と述べました。

そのうえで「好循環が本格的に動く新しい経済ステージに向けて、まずは物価上昇を上回る所得増を実現しなければならない。力強い賃上げを実現していただくようお願いしたい」と述べ、経済界の協力を要請しました。

一方、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題について「国民の信頼なくして政治の安定はなく、政治の安定なくして政策の推進はない。このことを肝に銘じて、私自身先頭に立って取り組んでいきたい」と述べました。