小津安二郎監督作品の台本 新たに見つかる せりふへのこだわり

「東京物語」などの名作を手がけた日本映画の巨匠、小津安二郎監督が撮影した4つの作品で、助監督が使用していた台本が新たに見つかりました。台本にはせりふを変更した跡が複数見られ、研究者は「小津監督は脚本の完成後に内容を変えないと言われてきたが、実際には撮影に入ってからも推こうしていたことがうかがえ、せりふへのこだわりが分かる資料だ」と話しています。

ことし生誕120周年を迎える小津安二郎監督は「小津調」と呼ばれるローポジションの構図など、独自の撮影手法や演出を確立し、1963年に60歳で亡くなるまで、世界的にも高く評価される映画を数多く手がけました。

新たに見つかったのは、戦後に撮影した
「麦秋」
「お早よう」
「秋日和」
そして、遺作となった「秋刀魚の味」の
4つの映画で助監督が使っていた台本です。

小津作品の研究にあたっている松浦莞二さんによりますと、小津監督は脚本の完成後は内容を変えないと言われてきましたが、見つかった台本にはせりふの変更など監督の指示とみられる書き込みが複数見られたため、詳しく調べたということです。

このうち、「麦秋」の台本では、娘が嫁ぐのを前に老夫婦が語り合うシーンで、妻の「でもまだ」というせりふに、「これからだって」ということばを書き加えて、「でもこれからだってまだ」に変更していました。

ところが、映画のシーンと照らしあわせてみると、このせりふを語る妻の口の動きは「でもまだ」となっていて、聞こえてくるせりふと口の動きが合っていないことが分かりました。

こうしたことから、松浦さんは、撮影時には変更される前のせりふで演じていたものの、撮影が終わったあと、映像に合わせて音声を吹き込む「アフレコ」の時に変更されたとみていて、小津監督が映画を完成させる直前までせりふを推こうしていたことがうかがえると分析しています。

このほか、「お早よう」では、パンツを汚してしまった子どもが母親に怒られるコミカルなラストシーンが当初の台本にはなく、手書きで新たに付け足されていたことなども確認されたということです。

映画研究者の松浦莞二さんは「特に『お早よう』と『麦秋』は監督が使用していた台本も見つかっていないので、極めて貴重だ。監督が実際は撮影に入ってからもせりふを推こうして、たくさん変更を加えていることに驚き、改めてせりふへのこだわりがすごいと思うようになった。小津監督の脚本や撮影についての調査や分析はまだ始まったばかりで、さらに研究を進めていきたい」と話しています。