認知症の早期発見に!“スマホでわかる” 認知機能の低下

認知症の早期発見に!“スマホでわかる” 認知機能の低下
元NHKアナウンサーの三宅民夫です。ことし70歳になりました。
物忘れがとみに多くなり、「ひょっとすると自分も認知症になりつつあるのかも…」という不安を抱えています。
私のような高齢者にとって「大きな助けになる」アプリの開発が進んでいるそうなのです。
自分の脳の状態をスマホを使って手軽にチェックできるということで、ぜひ体験したいと取材に向かいました。
(元NHKアナウンサー 三宅民夫/おはよう日本 ディレクター 多々良啓子)

“電話の声”であなたの脳の状態がわかる

今年9月、大手通信会社がある電話サービスを無料で始めました。

フリーダイヤルの番号にかけると、私が話す声をもとに、認知機能の低下がみられるかどうかを測定してくれるというものです。

はたして自分の状態がどうなのか。

ちょっとドキドキしながら、アナウンスに従ってテストした日の日付と曜日、そして年齢を「2022年10月11日火曜日」、「70歳」と吹き込んでみました。

すると、20秒ほどで分析結果が…
「脳の健康チェックの結果、認知機能は正常です」という音声が聞こえてきました。

思わず「よかった、ほっとしました」と声がこぼれました。
このサービスは開始1か月で34万件の利用があり、ニーズの高さを物語っています。

自分や家族が「認知症かもしれない」と感じても、医療機関にかかるのは心理的なハードルが高いといいますので、手軽に自分の状態をチェックできるのはとてもありがたいと感じました。

【電話による音声チェック フリーダイヤル 0120-468-354(~2023年3月末まで)】

電話の声から認知機能をはかるこのアプリ「ONSEI」を開発したのは、都内に本社がある医療機器メーカーです。

発したことばを電気信号に変えて、AI=人工知能が「声のトーン」「大きさやスピードの変化」など1000余りの要素を分析しているといいます。
上の画像は認知機能に問題が見られた人の声紋で、下は問題がなかった人の声紋です。
日本テクトシステムズ 田中俊郎さん
「上の声紋は、発語がまばらで揺らぎがあります。それに対して、下の方は全体的に一様に発語がされています」
三宅
「人間の耳で違いはわかるんですか?」
田中さん
「声紋では違いがありますが、人間の耳ではわからないと思います。声の高さや強さの変化などをAIが機械学習して判別しています」
こうしたAIによる声の分析で、認知機能の低下を90%以上の確率でチェックできるといいます。

医療による「認知症の診断」にはなりませんが、その時点での認知機能の状態を知ることができます。

2025年には高齢者の5人に1人、およそ700万人が認知症になるとも予測されています。

早い段階で発見できれば、薬やリハビリなどで進行を遅らせることができる可能性があるため、こうしたチェックが有効だと考えられているのです。
この音声チェックは自治体でも取り入れられています。

群馬県甘楽町の地域包括支援センターが実施する運動教室には、平均年齢86歳になる男女10人が参加していました。

教室に来ると、まず血圧を測定。

続いて、音声による認知機能のチェックを受けます。

運動をする前の一連の流れの中に、認知機能のチェックも組み込まれているのです。

飲酒や睡眠不足などにより脳の状態が影響を受けるため、教室では毎回音声による測定をしています。

これまでにチェックを受けた73人のうち、3人が認知症などの診断や治療につながりました。
群馬県甘楽町 地域包括支援センター 野中香さん
「本人も気付いていない、家族も気付いていない段階から認知機能の変化が見てわかりますので、この教室で使っています。また認知症の心配があっても、高齢者も家族もやっぱりなかなか相談に来づらいと思います。そういった方を音声による認知機能の測定で評価・分析して、次につなげていけるので大変役に立っています」

研究中!脳の状態は “歩き方” からもわかるかも…

一方、「歩き方」に注目した研究も進められていると聞き、私たちは岩手県に向かいました。

挑戦しているのは、一関工業高等専門学校の専攻科の1年生3人です。

認知症の高齢者からもデータを集め、専門家から助言をうけながら研究しています。

2年後にスマホで測定できるようにすることが目標だといいます。
靴の中にセンサーのついた中敷きを入れ、腰にもセンサーをつけて歩きます。

足の裏のどこに圧力がかかっているのか、そして腰はどんな動きをしているのかなど刻々と変化するデータを集め、傾向を分析します。
特に注目しているデータの1つが、歩く時の「腰の動き」です。

比較してみると、認知機能に問題のない人は「同じような動き」を繰り返しますが、認知機能が低下すると画像の上の段ように「一歩ごとバラバラの波形」になるといいます。

この研究は、4月に行われた全国の高等専門学校が参加したコンテストで最優秀賞に選ばれました。
一関工業高等専門学校 鈴木明宏教授
「例えば歩道を歩いているときに横の車道を車が通ったとすると、認知機能に問題のない人は車の影響を受けずに歩き続けますが、認知機能に問題のある人は、歩道にいるのに車道を車がすれ違っただけで危ないと思ってよろめく歩き方になってしまいます」
試作品のテストに同行させてもらいました。

腰にスマホを設置して1分ほど歩くと、結果が出ます。

30点満点で25点以上なら問題ありません。

テストに参加した70代のこの男性は、28.8点。

「しっかり安定した歩きができている」と判定されました。
開発チームの学生
「“あなたは認知症です”と言われると、かなり心理的なショックを受けると思うんですけど、そうなる前に歩きの改善につなげてほしいというのがこの製品の目的です。歩くことのような軽い運動が認知症の予防につながるとも考えられるので、認知機能の低下を計測するとともに運動も促していけるような製品にしたいと考えています」

スマホでのチェックを認知症予防のきっかけに

「認知機能の状態を手軽にスマホでチェックしよう」という取り組みについて、専門家は「認知症を判定するものではなく、自分で確認するツール」としたうえで、認知症予防のために意義があるものだと指摘しています。
国立長寿医療研究センター 島田裕之医学博士
「認知症はできるだけ早い段階から予防に取り組むことが重要です。そのきっかけになるツールかもしれません。認知症は薬や運動などで、発症や進行を遅らせることができる可能性があります。そのためには早期発見、早期対処が重要なのです。高血圧で治療を受ける人は、自分の血圧が高いのを知っています。認知症も自分の状態を知ることができれば予防行動につなげやすいのではないでしょうか」
実際に「声」の判定をうけてみて、思った以上に手軽で、結果がわかると思った以上に安心したことに自分でも驚きました。

「自分は認知症かもしれない」と考えることは非常に心が重くなりますが、こうしたツールがあることでプレッシャーがだいぶ軽くなるのかもしれません。
声や歩き方をはじめ、AIを使った認知機能の研究は進んでいます。

体重や血圧をはかるように手軽に「脳の状態」をはかるという未来は、すぐそこまで来ているのかもしれないと感じました。
おはよう日本 ディレクター
多々良啓子
環境・社会問題を中心に取材