有森也実さんの更年期“女優辞めてもいいと思った時期こえて”

有森也実さんの更年期“女優辞めてもいいと思った時期こえて”
かつて一世をふうびしたトレンディードラマで数々のヒロインを演じてきた女優・有森也実さん。

40代後半からのぼせやけん怠感、顔面のけいれんなど、更年期の症状を経験しました。

「原因がわからずつらい時期が長かった私が語ることで、少しでも早く更年期症状に気付く手助けになれば」と話します。
※文末に「更年期とは 」「ホルモン補充療法(HRT)とは?」のリンクがあります

さまざまな不調…女優でいることの違和感

有森さんが更年期の症状を感じ始めたのは47歳のころ。
はじめは更年期だと思わなかったといいます。
「なんだろうこれはと。体温調節がうまくいかず、特に外から満員電車の中に入って行った時とか、蒸れる感じが我慢ができなくて気持ち悪くてのぼせてしまうというようなことが顕著にありました。

あと右の顔面がけいれんしたり、リンパが腫れてしまったり。大好きなバレエのレッスンにも行きたくないし見たくない。なぜだか分からないというのが1番不安で、精神的にも不安定になって落ち込みました」
この頃、白髪や体力の衰えなど老化も実感するようになっていたという有森さん。

症状のつらさもさることながら仕事で“美しさ”を求められることに強い違和感を感じて苦しかったといいます。
「私がやりたいのはきれいでいることじゃなくて、人間を演じること。普通に老化して、しわができたりシミができたり白髪になったり、それをなんで“きれい”にしなくちゃいけないのかなという疑問に直面したんです。

女優って特に日本の場合はきれいでいることがいちばん最初に求められる。きれいでいないと価値がない。そういう仕事のしかたはもう嫌だなとはっきり思えて、じゃあもう辞めてもいいかなって。女優でいなくても違う生き方もあるんじゃないかなという風に思えた時期だったんです。女優でいるということに違和感を感じていました」
「でも仕事はしなくちゃいけない。私、有森也実は1人では生きていけない。ファンの方や役をくださる番組、スタッフの皆さんの助けがないと生きていけない。求められているものと自分がやっていきたいことの違いがあって、その辺の折り合いの付け方が苦しかった」

「終わりがある」更年期と知って楽に

更年期の症状だと気付いたきっかけは、リンパ節の腫れを診てもらうために受診した耳鼻いんこう科で更年期症状の可能性があると指摘されたことでした。
原因がわかったことで気持ちが楽になったといいます。
「更年期の症状だったら、みんな通り過ぎていくもの。いま私の体の中で起こっていることは私のメンタルとか精神とかそういうことじゃなくて、赤ちゃんが歩けたり、ことばを発することができるようになったりするのと同じように、これから生きていくために必要なプロセスなんだっていう風に考えられるようになって、だんだん落ち着いてきました」
あえて投薬などの治療は受けず、体を動かしたり、年上の女性の話を聞いたりして、つらい時期を乗り越えたそうです。
「あまりお薬に頼りたくなかったというのもあるし、自然のことなのであれば自然のこととして受け止めたいという考えでいました。いま私が向き合うべきはこれなんだと。

ずっとやりたかったフラメンコをその時期に始めました。精神的には本当によかった。フラメンコって足を床にバンバンって打ちつけて踊る情熱的な踊りなのでストレス発散にもなるし、違う環境で新しいことを始めてみるという刺激がよかったんじゃないかなと思います。

バレエのクラスの先輩に『更年期ってどんな感じでしたか』って雑談で話して『そんなに深刻に考えることないわよ』『通り過ぎて行くよ』と言ってもらえたのもとても安心感につながりましたね。あ、これが一生続くわけじゃないんだって」

「美しさ」へのこだわりをこえて

女優として美しさを求められることに違和感を感じていた有森さん。
更年期を乗り越えた今、受け止め方が変わったといいます。
「当時はそれこそ『早くおばあちゃんの役をやりたい』とずいぶん浅はかなことを思っていました。きれいにしないでいられる、年老いた体をリアルに表現できると思っていたから」
「でも更年期をきっかけに女優とは何かということを深く考えるうちに、“美しさ“を否定することは結局“美しさ”にこだわっているのだと気付いたんです。リアルでの体の変化と女優としての仕事は別で、いっしょくたにしてはいけない。

今は改めて物語の中で役を演じることのすばらしさ、喜びを感じられるようになり、20代の役でも、どんな役にも立ち向かえます。支えてくれる人たちの思いに応えるためにも女優という仕事を続けていきたい」

経験して芽生えた母への感謝と連帯感

思うのは亡くなった母親のこと。
同じように症状に悩まされていた姿を目にしながら、そのつらさに気付いてあげられなかった後悔があるといいます。
「ホットフラッシュで汗がばーって顔中に流れるような時を私は目撃しているし、『暑い暑い』っていつも扇子で顔を仰いでいたんです。おしゃれな人で『お化粧が崩れるのが嫌だからウォータープルーフのファンデーションを選んでほしい』と言われたこともあって。でも私は(当時)それが更年期の症状だって知らなかったんですよね。知ってたらもっともっと優しくしてあげられたのにって思います」
「母に対する感謝の気持ちがあふれますね。通り過ぎて、頑張ってきてくれたんだなぁって。今40代で働いている女性っていっぱいいますよね。『大丈夫ですか』って直接は言えないけれど『みんな通ってきたね』っていうか、『みんな通るんだね』とか『最中だね』とか、そういう連帯感っていうか仲間意識みたいなものは生まれましたね」

大丈夫。経験はむだにならない

更年期はいったん立ち止まり、それまでの自分と向き合う時間だったと話す有森さん。
自分が語ることで更年期症状に気付く手助けになればと話します。
「私の場合は迷走がすごく長かったんですよね。私のようなものが発信することで、これは更年期なのかもしれないという気付きが少しでも早くなって、自分との向き合い方、方向性が定まっていく手助けになればいいかなって。

女性としてナチュラルなことなので、別に隠す必要もないし、進化の過程だと思えば恥ずかしいことでもないし、タブーなことでもない。

私は人に甘えたり頼ったりするのがすごく苦手だったから、『そういうこともできるようになるとこれからいいよ』っていう教えだったんじゃないかなと思います」
「更年期は絶対通り過ぎるから大丈夫。そしてその経験はむだにならないから」

「誰にも相談していない」が6割

更年期は閉経前後の10年間を指し、女性ホルモンが急激に減ることでさまざまな心身の不調があらわれることがあります。
主な症状はほてりや発汗、気分の落ち込み、不眠などで、生活に支障をきたすほど症状が重い場合は「更年期障害」と診断されます。

インターネットで行ったアンケートでは、40代、50代の女性のおよそ4割、男性のおよそ1割が更年期の症状を経験していると答えました。
一方で症状に悩まされている人の6割が「誰にも相談していない」と答えていて、悩みをひとりで抱え込んでいる人が多いことがわかっています。
3月8日は女性の生き方について考える国際女性デー。自分の体のこと、そして身近な人の体調のこと、少しだけ考えてみませんか。

(ネットワーク報道部 金澤志江)