「このままではワインづくりを続けられなくなる。」フランスはワイン生産量世界一の座をイタリアから奪い返しましたが、その生産現場で今、悲鳴のような声があがっているといいます。一体何が起きているのでしょうか。
ボルドーのワイナリーに異変
フランスを代表するワインの生産地ボルドー。エリック・エティエンヌさんは5世代にわたって家族でワイナリーを営み、畑の広さは80ヘクタールに上ります。
エティエンヌさんのワインはこれまで、数々の国際コンクールで受賞してきました。
順調だったワインづくりが一転したのは2021年のことです。20年来の取り引き先から、買い取りの契約は更新できないと通告されたのです。
フランスでの消費量 15年で25%減少
背景には、フランス人のワイン離れがあります。食習慣の変化などから、かつてのようにはワインが飲まれなくなりました。
フランス全体の消費量は2005年に33.5億リットルでしたが2021年には25.2億リットルとなり、約15年間で25%近く減りました。
またコロナ禍で海外への輸出にもブレーキがかかり、2023年はフランス全土で合わせて約3億リットル、ボトルの数にして約4億本に上るワインが余っているというのです。
貯蔵タンクに“売れ残ったワイン”が…
エティエンヌさんにワイン貯蔵庫を見せてもらいました。
巨大なステンレスタンク10個分にあるのは、去年とおととしに生産したワインです。エティエンヌさんは、このうち販売できる見込みのないタンク3つ分を、やむなく消毒用のエタノール向けとして売却することを決めました。
多くのワイナリーが同じような状況で、この地区のワイン農家の数は、この数年で半分以下に減少したといいます。
ブドウ畑の縮小を計画
エティエンヌさんは2024年、ブドウの木を伐採して、今の畑を10%縮小することにしています。
ワイナリーを営む エリック・エティエンヌさん
「今はワインの生産量を減らすため、ブドウの木を処分したほうがよいと思っている。1年かけてワインをつくるのは誰かに飲んでもらうためだ。処分するためではない」
軽め・飲みやすさへ 消費動向が変化?
フランスのワイン生産者団体は、消費者の好みの変化に応じたワインづくりが求められていると指摘しています。
フランスのワイン生産者団体 代表 ベルナール・ファージュさん
「長い間、私たちはアルコール度数が高く、より芳醇なワインが好まれると思っていた。しかし、軽めで飲みやすさを重視する消費者もいる。消費動向は変化しているので、消費者に合わせて私たちも変わっていく必要がある」
エティエンヌさんのようにブドウの木の伐採を計画する農家は、フランス全土にいるということです。
日本でもアルコール度数の低いお酒が増えています。フランスでも時代の変化に合わせたワインづくりが求められているのかもしれません。
(ヨーロッパ総局 有馬嘉男)
【2023年12月14日放送】
あわせて読みたい