膨らむ仕組みいろいろ! ドーナツ生地を比べてみよう

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

 

ドーナツの生地にもいろいろな種類がある!

おとなも子どもも大好きなドーナツ。今も昔も定番の、素朴なおやつです。ドーナツ屋さんの店頭を見ると様々な種類のドーナツが並んでいて、なんだかウキウキしますよね。

練り込む材料やトッピングによるバリエーションはもちろんのこと、ドーナツの生地そのものにも種類があります。焼きドーナツや生ドーナツなどの変わり種もありますが、オーソドックスな「小麦粉に砂糖、卵、バターなどを混ぜて油で揚げたもの」に絞っても、フレンチクルーラー、ケーキドーナツ、オールドファッション、イーストドーナツなどがあり、見た目も食感も異なります。

これらのドーナツ生地の大きな違いのひとつが「生地を膨らませる仕組みの違い」です。今回は、この点に着目してドーナツの種類について解説します。

 

お菓子の生地が膨らむ仕組みは大きく分けて、

①水分の気化を利用する
②化学反応を利用する
③酵母の力を利用する
④気泡が熱で膨らむ力を利用する

の4種類があります。このうち、フレンチクルーラーは①、ケーキドーナツやオールドファッションは②、イーストドーナツは③の仕組みを利用しています。今回は、これらの①~③について解説します。

 

フレンチクルーラーはシュークリームの皮と同様のシュー生地でできていて、外はさっくり、中はふんわりとした食感と、卵のコクが魅力です。水とバター、砂糖などを鍋に入れて沸騰させ、小麦粉を加えて練りまぜたら火からおろし、卵を加えて作られます。

他のドーナツに比べると、加える水分の割合が多いのが特徴で、他のドーナツが小麦粉の量の10〜40%程度の量の牛乳を加えて作られているのに対し、フレンチクルーラーでは小麦粉よりも水の割合の方が多くなっています。材料をそのまま混ぜただけでは水分が多すぎてやわらかく、形を作ることができませんが、加熱して小麦粉中のデンプンを糊化させることで、ある程度硬さのある生地にしています。

水は100℃以上に加熱すると水蒸気になり、体積が1700倍にもなります。水分をたっぷり含んだ生地を油で一気に加熱すると、水が気化して膨張し、生地を大きく膨らませます。内側に大きな空洞ができるので、ここにクリームなどを挟んで食べることが多いです。

 

ケーキドーナツは、ホットケーキのようにベーキングパウダーを使った生地でできています。ベーキングパウダーは炭酸水素ナトリウムに酸性剤などを加えた粉で、水と一緒に加熱すると、化学反応によって二酸化炭素のガスが発生します。これによって生地中に気泡が生じ、膨らみます。
生地に割れ目を入れて作るオールドファッションも、同じ仕組みを使っているドーナツです。

▲ケーキドーナツ

 

▲オールドファッション

 

生地を混ぜたら加熱するだけなので、比較的少ない手間や時間で作ることができます。食べたいときに気軽に作ることができ、手作り向きのドーナツと言えるでしょう。

 

イーストドーナツはパンと同じように酵母(イースト)を使った生地でできていて、ふっくらもっちりとした食感です。酵母という微生物は、酸素が少ない環境に置かれると糖を分解し、アルコールや二酸化炭素を作り出す性質があります。このうちの「アルコールを作る性質」に着目して作られているのがワインや日本酒などのお酒です。一方、「二酸化炭素を作る性質」を利用しているのがパンやイーストドーナツの生地です。

小麦粉にドライイーストや砂糖、塩を加え、卵や牛乳、バターなどを合わせた生地をよくこねます。これを暖かい場所で寝かせておくと、イーストによる発酵で二酸化炭素のガスが発生します。このガスが生地を大きく膨らませてくれるので、これを高温の油で揚げ固めると、ふっくらとしたドーナツになります。フレンチクルーラーやケーキドーナツ、オールドファッションは、揚げるときに生地が膨らみますが、イーストドーナツは生地が十分に膨らんだ状態で揚げ固めるので、揚げる前と後で生地の大きさがそれほど変わりません。

イースト生地はこねる手間や発酵に時間がかかりますが、ふっくらとした食感やパンのような良い香りは、他のドーナツにはないおいしさです。

皆さんが好きなのはどのタイプのドーナツでしょうか。生地が膨らむ仕組みに想いを馳せながら、手作りドーナツに挑戦してみてはいかがでしょう。揚げたてホカホカを頬張れるのは手作りならではの醍醐味です。

 

ドーナツ作りに使われる小麦粉は、主に薄力粉と強力粉の2種類。強力粉はタンパク質を多く含む小麦粉で、薄力粉はタンパク質含量の少ない小麦粉です。

小麦のタンパク質の中でもグルテニンとグリアジンというタンパク質は、水を加えてよくこねると、粘り気と弾力のあるグルテンを形成するという性質があります。そのため、強力粉を使った生地をよくこねると、もっちりとしてよく伸びるようになります。

ケーキドーナツの場合、粘りが少なく、さっくりと歯切れの良い食感にするため、グルテンを作りにくい薄力粉を使います。生地を作る際も、なるべくこねたり練ったりせず、切るように混ぜるとグルテンの形成を抑えてさっくりと仕上げることができます。

一方、イーストドーナツの生地は、薄力粉に強力粉を適量加え、しっかりとこねて作ります。加熱時に膨らむ他のドーナツと異なり、イーストドーナツは発酵の力でゆっくりと膨らみます。そのため、発生した二酸化炭素のガスを逃さず溜め込んでおけるように、グルテンの性質を利用して風船のようによく伸びる生地にする必要があるのです。


次回は「芋餅」のレシピと科学ポイントについて解説いたします。お楽しみに!

 

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

 

お問い合わせ

WEBでのお問い合わせ

会員サイトでのお問い合わせ

ログインにお困りの方はこちら


お電話でのお問い合わせ

入会をご検討中の方

【Z会幼児・小学生コース お客様センター】

0120-79-8739
月~土 午前10:00~午後8:00
(年末年始を除く、祝日も受付)

会員の方

【Z会幼児・小学生コース お客様センター】

会員の方からよくいただくご質問の回答
お電話でのお問い合わせの前に、まずはご覧ください

現在、終日お電話が大変混み合っております。ご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。

0120-35-1039
月~土 午前10:00~午後8:00
(年末年始を除く、祝日も受付)
おすすめサービス