もしこんな娘がいたら、「どこの馬の骨か分からない奴に大事な娘をやれるか！」と言いたくなる場面がきっとやってくるだろう。
熊本から出てきて、東京で独り暮らし。郷里の父親は、「忙しい人です。ふだんはメールでしかやりとしていません。私も頑張らないと」と健気だ。輝く１７歳はドラマ、映画でも娘役が続いている。
ＮＨＫ朝の連続テレビ小説「あまちゃん」では主人公アキ（能年玲奈）と並ぶ人気の親友、ユイ役。岩手県議の父親（平泉成）から、東京でアイドルになることを大反対される。公開中の映画「口づけ」では医師（平田満）の娘。１５日公開の映画「俺はまだ本気出してないだけ」では、堤真一演じるダメオヤジの娘、高校生・鈴子をクールに演じる。
「確かに『あまちゃん』の家族に比べても、今度の堤さんはダメ。今までで一番ダメなお父さんですが、これまでも結構ダメなお父さんの娘を演じています」
黒髪のボブカットに、切れ長の大きな瞳がクルリ。大人びた娘がよく似合う。映画では、４０歳を過ぎて仕事を辞め、漫画家を目指す父親に小遣いを渡す高校生役だ。
「あまちゃん」の脚本を手掛ける宮藤官九郎と同様に、「俺はまだ本気出してないだけ」の福田雄一監督も演劇畑出身。最近は、「コドモ警察」「ＨＫ／変態仮面」などの映画で笑いのセンスを発揮している。
「コメディー映画は初めてで楽しかったです。堤さんも祖父役の石橋蓮司さんも、カメラが回っていないときまで笑わせてくださり、私は身を任せるだけでよかった。ただ、福田監督と堤さんが、焼き肉をごちそうしてくださる、と言うので楽しみにしていたのに、撮影が長引いて門限に間に合わず、ごちそうしてもらえなかった…。翌日、監督から肉を食べた写真を見せられました（笑）」
上京したばかりのころは、「熊本の水道水がおいしかったので、ちょっと体調を崩しました」という。熊本の馬肉が懐かしくなることも。「あまちゃん」では、ローカル線で、ウニ丼の売り子にも扮したが、海の幸は？
「ウニは好きです。でもウニ丼は食べていません。ＮＨＫのスタジオで撮影が続いて社員食堂で自腹で食べています」とは泣かせる。
彼女の名が映画関係者の間で、注目を集めるきっかけとなったのが、昨年公開された青春映画「桐島、部活やめるってよ」（吉田大八監督）。日本アカデミー賞優秀新人俳優賞など新人賞各賞を総ナメにした。
「小学生の頃は、漫画を描いたこともあるんですが、中学時代の部活はバドミントン。もし、やっていなかったら、バドミントン部員の東原かすみ役は他の人のところにいっていたのかも」と話す。
作品賞も得た日本アカデミー賞の授賞式では、両親も駆けつける中、「監督の喜ぶ顔が見られてうれしい」と涙ぐんでいたが、その日も一緒に過ごせなかったくらい女優活動は忙しい。
若いとはいえ、朝から晩まで連日ハードな撮影が続いても元気なのは、生活リズムがきっちりしているからか。「毎朝６時に起きています。早寝早起きと、軟水を飲むことが元気のヒミツです」と語る。
目指す女優は？
「『告白』で共演させていただいた松たか子さんです」
引っ張りだこの合間をぬって、どんなプライベートを過ごしているのだろうか。ある休日は、映画業界の先輩たちと、「朝からボウリングに行って、お昼にお好み焼きを食べて、帽子を買ってもらって、ダーツをして、夕食はお肉」。
完全にオフのときは外出するより、「友達に家に来てもらって料理を作ります」とも。そして、「時間ができたら、北海道と長野と京都を旅行したい。２０歳になったら…酔っぱらってみたい」と、少女以上大人未満の女ごころがワクワクしている。 （ペン・小張アキコ カメラ・大橋純人）
■はしもと・あい 女優。１９９６年１月１２日、熊本県生まれ。１７歳。身長１６５センチ。２００９年ミス・セブンティーンに選ばれモデルとして活躍。１０年に映画「告白」で注目される。１２年「桐島、部活やめるってよ」、「アナザーＡｎｏｔｈｅｒ」「ツナグ」などで日本アカデミー賞最優秀新人賞、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。今年は１月に主演映画「さよならドビュッシー」も公開。映画業界で最も忙しい１７歳のひとりだ。
