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【五十嵐信次郎(ミッキー・カーチス)】壮絶!「ロボジー」撮影秘話…帰っていい?

2012.01.05


五十嵐信次郎(ミッキー・カーチス)【拡大】

 「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」で知られる矢口史靖監督の最新作「ロボジー」(1月14日公開)は、二足歩行ロボットの開発に失敗した電機メーカーの社員たちが、窮余の一策で作った“老人入りロボット”が巻き起こす騒動を描く。主役はもちろん、ロボット=老人だ。

 73歳にして、オーディションでその主役の座を射止めた“シンデレラボーイ”が五十嵐信次郎。インタビューの場所にやってきた五十嵐は、帽子を目深にかぶり、赤いセーターとスカーフを着こなした、かなりおしゃれなおじいさんだ。でも、この顔、見覚えがある? なんだ、ミッキー・カーチスさんじゃないか。

 「今回はね、新人の気持ちで挑むということで、この名前にしてみたんだよ」

 ちょいワル風な雰囲気を漂わせ、笑顔で答える。実は「五十嵐信次郎」という名前は、高校生のときから憧れていたのだという。

 「俺はハーフなんでね、当時は結構いじめられたんだよ。だから、漢字の名前になりたかったんだ。この名前は、漢字もたくさんあって、強そうだろ」

 映画では、“ロボットの中に入るおじいちゃん”というシュールな役柄。撮影はかなりハードだったそうだ。

 「あの撮影をしてまだ生きているなんて、俺は元気なんだなって思うよ。クランクインのときは真冬で、気温がマイナス2度だった。そんな中、ステテコ一丁だったんだよ。あんまり寒くて、マネジャーに『帰ってもいい?』と聞いたら、『ダメだ』と言われてね…」

 ロボットの“衣装”は、着るだけで一苦労だった。

 「パーツごとに電動ドライバーでねじ止めして着用するんだけど、着るのに1時間、脱ぐのに40分はかかるんだよ。途中でトイレもいけないから、水分もとらないようにしてね。総重量が30キロもあるのに、着ている時は普通の椅子には座れないから、待ち時間は自転車のサドルのような特製の台に腰をかけていた。極寒の中、全身タイツ1枚で中に入らなくちゃいけないし、セリフを言うときは息が白くなっちゃうから、氷水を口の中に入れたりしてね…。撮影は3時間が限界だったね」

 聞くだけで、ぐったりする話だ。でも、スクリーンの中では、そんな苦労と年齢を感じさせないほど、よく走る。しかも、英語の主題歌まで披露。これぞまさに「老人力」というやつか。

 プライベートでも、さまざまなことに挑戦している。趣味は生け花、彫金、養蜂。ツイッターやブログまでも使いこなす。どうしてそんなにパワフルにいられるのだろうか?

 「ダメでもともとだと思って、いろいろなことをやってみるからね。よく『できません』という人がいるけど、やってみないだけで、いざやってみると、意外とできたりする。“ダメ元”で挑戦するのが大切だよね」

 その勢いで、真打ちの落語家にまでなった。立川談志さんとの出会いがきっかけで、落語家「ミッキー亭カーチス」として、落語を披露しているのだ。今年は高座に上がる予定だという。

 「師匠は亡くなってしまったけど、ずっと約束していたからね…」

 同世代の仲間たちも次々と他界していく。でも、本人はまだ“老後”という言葉とは無縁。それもそのはず、2008年に33歳年下の女性と69歳にしての再々婚を果たしたからだ。

 犬の散歩が出会いのきっかけだったという。

 「話が合ったんだよね。彼女は、ミイラとか古代文明の話が好きでね。俺に話を振ったら、思った以上に話が返ってきたのが、よかったみたいだ。生きているのがどんどん楽しくなるよね。自分の人生に文句はないね」

 年の初め、この1年をポジティブに過ごすためにも“先輩”からのアドバイスをいただきたい。

 「夕刊フジの読者世代は、元気な人ならあと40年くらいは人生があるだろうから、『それをどう謳歌するか?』が大切だよね。今、一生懸命働いている人は時間がないだろうけど、10年、20年後に引退しても、何かを続けていたほうがいいね。辞めて家に引っ込んじゃうと、終わっちゃうから」

 “五十嵐さん”も、いろいろなことに挑戦し続けた延長に、今回の映画主演という大抜擢があった。

 「チャンスは向こうからやってくるんだよ、何かを続けてさえいれば!」

(ペン・加藤弓子 カメラ・寺河内美奈)

 ■いがらし・しんじろう(ミッキー・カーチス) 1938年7月23日生まれ。東京都出身。父方の祖母、母方の祖父は英国人。青年時代は米負傷兵の慰問や進駐軍のベースキャンプをまわり、58年、第1回「日劇ウエスタン・カーニバル」でデビュー。山下敬二郎(故人)、平尾昌晃とともに「ロカビリー三人男」として爆発的なブームを起こし、同年、映画「結婚のすべて」で俳優デビュー。日本初の音楽プロデューサーとして、ガロやキャロルなども担当。95年の「KAMIKAZE TAXI」でキネマ旬報助演男優賞を受賞。最初にして最後の自伝「おれと戦争と音楽と」(亜紀書房)を1月14日に発売。

 

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