有事「今夜起こる可能性もある」、F16・A10備え臨戦態勢…韓国防衛の要・在韓米軍烏山基地

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[朝鮮戦争休戦 70年 ルポ]

 北朝鮮の核脅威が深刻となっている朝鮮半島で、有事の際に航空作戦の中心拠点となる韓国中部の在韓米軍 烏山オサン 空軍基地。「Ready to Fight Tonight(今夜にでも戦える)」のスローガンのもとで、臨戦態勢がとられていた。(ソウル支局 溝田拓士、写真も)

広大な敷地、軍事境界線まで85キロ

 約8平方キロ・メートルの広大な敷地に3000メートル級の滑走路を2本備える烏山基地。4機のF16戦闘機が縦一列になり、手前の滑走路を端までゆっくり進んでいく。転回して奥の滑走路に入り、少しだけ静止した後に一気に加速し、あっという間に離陸していった。基地一帯に、空気が震えるような 轟音ごうおん が響いた。

 基地から南北の軍事境界線までは、最短で約85キロ・メートル。マッハ2(時速約2500キロ・メートル)で飛行するF16は、有事には「非常に短時間」(F16パイロット)で北朝鮮領に侵入できる。

 滑走路周辺には、F16やA10攻撃機を一機ずつ駐機させたかまぼこ形の格納庫がずらりと並ぶ。機体のそばには、ミサイルや誘導爆弾も見える。兵士らが機体の周りで作業していた。

 ソウルの約30キロ・メートル南に位置する烏山基地は、朝鮮戦争中の1952年に建設された。現在は米軍の第7空軍が司令部を置く。米大統領の訪韓時には、大統領専用機「エアフォース・ワン」が着陸する基地で、日本における在日米軍横田基地(東京都福生市など)のような存在だ。同基地内には7000人が居住する。

 F16の格納庫を訪ねた。コックピットに上がって中をのぞくと、計器類やスイッチが無数にあった。在日米軍三沢基地でも勤務したF16パイロットのジョン・クライン大尉(28)が、「操縦かんが中央ではなく横に設置されているのが特徴で、操縦がしやすい」と教えてくれた。

 F16は世界25か国で導入されている第4世代の戦闘機。低速や低空での機動性に優れ、空中戦と地上攻撃の任務に用いられる。ロシアの侵略を受けるウクライナも、欧米各国にF16の供与を強く求めた。

 米空軍は有事に備え、F16を烏山基地と近い 群山クンサン 基地に60機(防衛省資料)配備している。クライン大尉は、「F16の『適応性』が、まさにここでは非常に重要な戦力になっている」と強調した。「適応性」とは、様々な戦術や状況に対応できるという意味だ。

 F16の主な任務は、北朝鮮軍戦闘機や対空攻撃施設の破壊、軍事境界線付近に配備された地上戦力への攻撃、 平壌ピョンヤン を攻撃する米戦略爆撃機の護衛だ。

朝鮮半島上空で7月13日、米軍のB52戦略爆撃機(中央)を護衛飛行するF16戦闘機と韓国軍機(左奥)=韓国国防省提供
朝鮮半島上空で7月13日、米軍のB52戦略爆撃機(中央)を護衛飛行するF16戦闘機と韓国軍機(左奥)=韓国国防省提供

 北朝鮮の航空戦力は約550機とみられるが、大半は中国や旧ソ連の旧式だ。有事になれば、F16が素早く制空権を確保し、軍事境界線付近に北朝鮮が多数を配備している多連装ロケット砲の破壊任務に移る。

 戦略爆撃機の護衛飛行も重要だ。7月13日、核ミサイルを搭載できるB52戦略爆撃機が朝鮮半島に飛来して訓練飛行した際、F16もミサイルを装着して烏山基地を離陸し、韓国空軍の戦闘機とともに護衛した。前日に新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18」の発射実験を行った北朝鮮に対する示威飛行だった。

 在韓米軍基地で通算6年以上勤務しているベテランF16パイロットのマイク・マッカーシー大佐(43)は、2018年にB1Bの護衛飛行訓練に参加した。軍事境界線付近の朝鮮半島東海岸から西海岸までの200キロ・メートル超を「約20分」で飛行した。「もちろんもっと速く飛べるが、我々の力を示すためにね」と話した。

 北朝鮮が軍事挑発をエスカレートさせる中、米戦略爆撃機の朝鮮半島への飛来回数が異例のペースで増えている。

米国基地とは明らかに違う「緊張感」

A10攻撃機の特徴を説明するジェイコブ・ヤーウッド大尉(7月18日、烏山空軍基地で)=溝田拓士撮影
A10攻撃機の特徴を説明するジェイコブ・ヤーウッド大尉(7月18日、烏山空軍基地で)=溝田拓士撮影

 烏山基地には、戦車や装甲車などの地上戦力への爆撃に優れたA10も約20機ある。

 「我々は、とにかく大量の爆弾を落とすことができる」。A10の格納庫でパイロットのジェイコブ・ヤーウッド大尉(28)が200キロ・グラム超の誘導爆弾の性能を説明しながら、そう語った。

 米空軍が1970年代から使用するA10は、米国以外では朝鮮半島にしか配備されていない。旧式だが、F16と同様に低空・低速での機動性に優れる。軍事境界線付近からソウルを狙う多連装ロケット砲の部隊を一気に掃討するのが最大の任務だ。

 ヤーウッド大尉は、約2か月前に米国内の基地から転属になったばかり。「緊張感が米国の基地とは明らかに違う」と語った。有事の可能性について聞くと、「今夜起こる可能性だってある」と真剣な表情を見せた。

 基地内を移動中に、U2偵察機の格納庫近くを通った。米空軍が約70年前に導入を始めた代表的な偵察機だ。通常、地上約20キロ・メートルから偵察する。

米韓の大統領が訪問した烏山空軍基地航空指令センター(2022年5月22日)=韓国大統領府提供
米韓の大統領が訪問した烏山空軍基地航空指令センター(2022年5月22日)=韓国大統領府提供

 北朝鮮は7月、U2偵察機が北朝鮮の排他的経済水域(EEZ)の上空を「侵犯」したと猛反発した。EEZの飛行や航行の自由は国際法で認められている。北朝鮮はU2の高い偵察能力を警戒しているとみられる。

 今回は立ち入りが認められなかったが、基地内の地下バンカーには通称「AOC(Air Operations Center)」と呼ばれる航空指令センターがある。米韓両軍の将兵で運用しており、朝鮮半島におけるすべての航空・宇宙作戦を指揮統制している。

 地上レーダーや偵察衛星の情報も集約されており、北朝鮮のミサイル発射の兆候を24時間態勢で監視している。日米韓で構築を進める北朝鮮ミサイル情報の即時共有システムで活用するのもAOCの情報だ。

 昨年5月に訪韓した米国のバイデン大統領は、韓国の 尹錫悦ユンソンニョル 大統領とAOCを訪れた。北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させる中、米韓同盟を象徴する烏山基地の重要性が高まっている。

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4416653 0 国際 2023/08/04 16:00:00 2023/08/04 16:06:24 2023/08/04 16:06:24 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/08/20230804-OYT1I50045-T.jpg?type=thumbnail

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